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人材流動化時代に企業が取るべき人材マネジメント

Initiative Vol.32

著者: デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー 青島 未佳、コンサルタント 工藤 治

 

“自律的キャリア”の促進は事業強化に寄与した?

2000年以降、人材流動化時代の到来として、“自律的キャリア”や“エンプリアビリティ”、“会社と個人のWin-Win”の関係、といった言葉が流行ったと記憶している。もちろん、今も廃れたわけではなく、さまざまな企業が社員のキャリア開発に向けた施策に取り組んでいる。

社員の自律的キャリアを促進するということは、社員の就業観を、就社という入社から定年まで同一の企業で働き、社内異動は上司・人事部任せという考えから、自分のやりたい仕事の実現に向けて、社内外にかかわらず、適材適所を求めていくという考え方にシフトしていく(させていく)ことである。これは、表向きには個人に対して、これまでの会社任せのキャリアから、仕事上での自己実現の達成が可能となり、そのために前向きな意識改革をしてほしい、といったメッセージを強く打ち出しているように思う。

一方で、会社の側面から見ると、バブル崩壊・景気後退の局面において、もはや終身雇用を守りきれないという危機感から、社員に対して自律・自立意識の醸成を促した背景がある。キャリア開発研修や独立・転進支援施策を整備し、必要に応じて、自社で成果を出しにくい人材については社外での活躍の場を提供し、“キャリア自律型”といった綺麗な言葉を用いながら、人材の流動化を促進した企業も多く見受けられた。

また、ポテンシャルが高く優秀な人材や、やる気・意思のある人材のリテンションに向けて、社内のFA・公募制度などの仕組みを整備して、優秀な社員が自らの意思で希望する職務に従事できる機会も拡大していった。

このように、さまざまな企業が、自律的キャリアや人材流動化に向けた施策を導入しているが、結果として、“社員の自律・自立”化が、企業の組織力の向上や事業強化に寄与しているという例はわずかではないかと思う。

では、どういった企業が、どういった仕組みを通じて社員の自律・自立化を促進しつつ、組織力向上に寄与する人材マネジメントを行っているのだろうか。

仕事のマネジメントと人のマネジメントの両輪で自律・自立型人材が育つ

デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)が実施をした企業調査やコンサルティング実績を踏まえると、「自律・自立型人材を育成し、組織力につなげている企業」は、人材マネジメントのポリシーを日々の仕事のマネジメントと人材のマネジメントの仕組みにうまく落とし込み、進めている企業だと想定する。

具体的には、
・仕事のマネジメントとは、組織・上司からの仕事に対する管理・統制の徹底度や仕事の標準化の度合い
・人材のマネジメントとは、異動や育成について、会社が主導で実施している度合い
であり、それらをうまく融合している企業である。

わかりやすく、仕事のマネジメントと人材のマネジメントを軸に、企業のタイプを4つに分類してみると、多くの日本企業が、タイプI に分類されるのではないか。(図1参照)タイプI は、いわゆる、終身雇用を前提とし、会社主導で人材育成や異動・配置を進めている一方で、組織や上司からの仕事に対する厳しいフィードバックや納期・品質管理の徹底がされておらず、結果として自立性も仕事力も育たない企業である。ちなみに、このタイプは、日本企業の中でも自動車・機械などの産業より、一般消費財や小売業、サービス業に多く見られる。

タイプII に分類される企業は、自動車・機械など、納期・品質管理の徹底や業務の標準化を得意とする企業である。こういった企業では、仕事の進め方や思考のプロセスが標準化されているとともに、OJTを通じた徹底的な仕事管理がなされている。一方で、終身雇用を前提とするため、採用時点でも会社の風土に合い、組織に適用しやすい人材を採用し、鍛えていく人事戦略を採っている。冒頭に述べた、“自分のやりたい仕事の実現に向けて、社内外にかかわらず、適材適所を求める自立型人材”とは少し違うが、“組織内で与えられた役割を高い品質で実行する自律性の高い仕事人”を育成している。

タイプIII に分類される企業は、個々人のスキルを重視し、組織力の総合力≒個々の人材力の総和となる企業であり、大手の経営コンサルティング会社はその典型であろう。ここに分類される企業で働く人材は、社員一人ひとりが終身雇用を前提としておらず、コスモポリタン的な人材であり、企業としてもそのメッセージを強く打ち出した採用戦略を採っている。組織としての働き方や企業内スキルの獲得にむけた統制的な育成は行わないが、一人ひとりに、一定の裁量権(責任と権限)と能力以上のチャレンジができる仕事を付与することで、社員一人ひとりが社外でも通用するスキルを獲得するとともに、組織力向上を実現している。

タイプIVに分類される企業は、日本企業では今のところほとんど見られない。この分類には、グローバルのエクセレントカンパニーの数社があてはまるだろう。こちらは、会社が示すバリュー・成果にコミットしつつも、自己責任でキャリアを構築することが前提となっている。組織に対する非常に高い一体感と個人の自立意識が必要とされるが、企業としての人材投資(教育制度の充実やリーダーシップトレーニング)は惜しまないというスタンスである。仕事のプロセスやノウハウも可能な限り標準化されている。

 図表1-1:自律・自立型人材育成の取り組みにおける企業のタイプ
自律・自立型人材育成の取り組みにおける企業のタイプ

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図表1-2:タイプ別のマネジメントの特徴

タイプ別のマネジメントの特徴

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上記の記述からもわかるように、DTCの調査やコンサルティング経験より、組織力向上に寄与する人材マネジメントを実施している企業は、結果として、タイプII、タイプIII、タイプIVのいずれかである。

残念なことに、多くの伝統的な日本企業は、終身雇用前提かつ暗黙知を重視したOJT・スキル伝承・育成の仕組みを続けてきた結果として、タイプI に属する企業が多いと想定する。加えて、このような日本企業の役員や管理職は、自分達のマネジメントの仕方に改善の余地が多いことに気がついていない場合がある。特に、仕事をやりきらせられない・育成にむけた改善点を伝え、厳しい評価をフィードバックできていないといったことが、結果として、自分の部下の仕事力や自立性の育成を阻んでいることに気がついていないのではないだろうか。

一方で、伝統的な日本企業でも、タイプII に属するある企業では、現場の上司からのフィードバックの徹底の仕組みとしてフィードバックができない上司を降格するとともに、人事部が組織内のローパフォーマー(成果が芳しくない社員)を明確にしたうえで、「退出」ではなく「再起」を図ることを目的として、一人別にコミュニケーションをとり、組織として改善・再起プログラムを整備・実行している。(図表2参照)

図表2:タイプIIのある企業におけるローパフォーマーの一人別管理例
タイプIIのある企業におけるローパフォーマーの一人別管理例

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また、タイプIVのグローバル企業においては、「UP or OUT」の人事処遇方針の下、自律・自立した人材を採用し、低評価者への退出コミュニケーションを行う仕組みを設置している。(図表3参照)

図表3:タイプIVのグローバル企業における人材マネジメント例
タイプIVのグローバル企業における人材マネジメント例

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タイプI に属する企業が、ここから抜け出して、真に自立的な人材の育成・輩出と組織能力の向上を実現するための仕組みは多岐にわたるが、一例としては、上記のような、ローパフォーマーの人材を一人別に管理し社員と組織が正面から向き合うといった、組織・人事管理として、当たり前のことを当たり前に実施する実行力が必要ではないかと思う。

仕事力の強化が自律・自立の一歩

今後、産業の成熟化により、グローバル化に活路を見出す企業が増加するとともに、事業統廃合・M&Aなどによるリストラが増加する中で、社員一人ひとりに、自律・自立化が求められることは必須である。

企業としては、厳しく指導・育成・評価を行い、仕事の仕方を徹底的に教えこみ、(社外へ転出する・しないにかかわらず)、社外でも活躍できる人材を開発・輩出することが、社員にとっても企業にとっても、必要な第一歩である。


なお、上述の例はあくまでも理解を深めるための参考例であり、一般的な知識と著者のコンサルティング経験に基づき記載をさせて頂きました。読者の皆さまの企業において参考としていただければ幸いと考えます。

 

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