2007.08.07 M&A実施の検討プロセスについて |
M&Aは、次の2つの目的で実施されるケースが多い。
●他社を買収することで不足機能や時間を補完する
●自社の一部を売却することで不足している経営資源(資金など)を補完する
以下では、M&Aを「不足機能・不足資源を補完するための戦略」と捉えて、その検討プロセスを次にあげる3段階に分類して記載を進めたい。
1.目指す姿(ビジョン)の定義
2.目指す姿の具体化
3.M&Aによる補完領域の明確化
1.目指す姿(ビジョン)の定義
多くの会社では、将来的に自社が到達したいポジション(目指す姿=ビジョン)のイメージを持ち、社内外のステイクホルダーと共有しようと努力されている。しかし、我々がクライアントの経営陣の方々からお伺いしたところによると、「どうしても現状の延長線上でビジョンを描いてしまい、ブレークスルーすることが出来ない」というお悩みを抱えているケースが多いようである。
これは「自社の現状の経営資源をベースとして目指す姿(ビジョン)を達成しよう」というマインドから脱却出来ないために起こっているケースが多いように感じている。一方で、M&Aの実施可否を検討する際には、現状の制約条件を一旦は無視した上で、自社が目指したい姿(ビジョン)をハイレベルな視点で設定することが必要であり、現状の延長線上で描かれる姿をブレークスルーすることが求められる。
そう考えると、M&Aというオプションを視野に入れることのメリットは、現状の延長から脱却して、真に自社が目指す姿(ビジョン)をハイレベルな視点で定義することが可能となる点であるかもしれない。
M&Aを視野にいれた目指す姿(ビジョン)の定義を行う際にポイントとなるのは、次の2つの設定だと考えられる。
1)目指す姿に到達するまでの時間感(スケジュール)
2)目指す姿に到達した時の財務数値
「1)目指す姿に到達するまでの時間感(スケジュール)」の目指す姿に到達するまでの時間軸が野心的であればあるほど、M&Aという手法を積極的に採用することになる可能性が高くなるものであるため慎重な設定が必要となる。
時間感の設定は、自社の置かれている競争環境、業界の動向などを見極めて、将来環境をいかにロジカルに読みきるかが重要であるため、自社内のみで検討するのではなく業界の専門家の助言を仰いだり、場合によっては競合他社へのインタビュー等を行いながら設定することが望ましい。
「2)目指す姿に到達した時の財務数値」については、ハイレベルな議論の中で詳細な数値を作成することは現実的ではないものの、例えば目指す売上、営業利益等を設定することで自社の事業価値がどの程度増加するのか?を具体的にイメージすることが出来るようになる(弊社がM&A検討プロセスをお手伝いする際には、売上1,000億、営業利益率業界トップクラス、といった程度のレベルで数値を設定するケースが多い。無理に詳細な数値を設定するよりも、あくまでもイメージを共有するためのツールとして数値を使用することが議論を活発に進めるためには望ましいと感じている)。
2.目指す姿の具体化
次のステップでは、定義したハイレベルな目指す姿(ビジョン)を、より具体的にブレークダウンすることになる。
これは、目指す姿を達成するために「不足している機能」が何であるのか?を明らかにしていくプロセスであり、どのようなM&Aを実施するのかを定義するためには非常に重要である。
例えば、機能別(開発、製造、販売といった切り口)に、目指す姿をブレークダウンすると共に、その姿を達成するためのロードマップを作成するというプロセスが採用される。売上を5年で1.5倍にするという目標があれば、そのためには開発部門、製造部門、販売部門、間接部門(経理財務・人事部門など)は今後5年間で毎年、どのような打ち手が必要であるのか?その打ち手を実施するためには、どの程度の経営資源が必要であるのか?をより具体的に明確化していくのである。
この作業では、既に設定している「目標を達成するまでの時間軸」と「目指す財務数値」を意識したロードマップを作成することになるが、弊社の経験ではこの作業をスタートした途端に、現場に近い担当者の方々は「達成は不可能だ」、「無茶な目標だ」等の意見が噴出して作業が滞るケースが多い。
但し、ここで必要となるのは現在の自社機能の延長線で打ち手を考えるのではなく、あくまでも目標を達成するために必要な打ち手をハードルが高くても設定することである。
そのため、このプロセスを進める際には、現状の経営資源に縛られることなく、必要に応じて外部の経営資源を活用する(M&Aを含めた手法を採用する)という点を実際にロードマップを検討・作成する担当者に正確に理解させることが大切である。
また、このプロセスにおいては「現在、そもそも自社が有していない機能を獲得する必要性」についても検討が必要となるケースがある。
M&Aの目的を詳細化すると、以下のようなものがあるが、この中には、既に記載したようなプロセス、つまり既存の機能を強化するのみではクリアできない目的も含まれる(例:完全なる新規事業分野への進出などの場合はそれに当たる)。
1.現状の機能を強化
2.川上・川下への展開
3.不足領域の補完(地域補完・技術補完・人材補完等)
4.事業リスクの低減(ボラティリティの高い事業を営む企業が安定的事業を獲得する等)
5.純粋な財務基盤強化
このような目的を目指す場合には、経営陣の強いトップダウンの中で、全社的な視点でプランを立案する部門(例えば、経営企画室など)が中心となって検討を行うことが望ましいと思われる(但し、実際にM&Aを実行した後にその領域の事業運営を実際に担当するメンバーもこの検討段階から巻き込んでおくことが、後々のM&A成功のためには必要となる)。
以上の検討プロセスは、買収を検討する際にのみ適用されるものではなく、一部事業や関係子会社等の売却を検討する際にも適用できる。
例えば、目指す姿の設定、目標のブレークダウンと検討プロセスを進める中で、何らかの理由により非コア事業と認定される事業があり、一方でコア事業と認定される事業を更に伸ばすためには何らかの経営資源が不足しているという場合は事業部門の売却が検討されることになる。
但し、弊社の経験上では売却の論議が出ても、様々な外的事情(そもそも事業の買い手が現れないなど)、内的事情(仲間意識の強さ、歴史的経緯など)により、なかなか実行に移すことが出来ないケースも多い。仮に売却を戦略オプションとして検討する場合には、それを実行する際の明確なトリガーを設定すると共に、実行できない場合のプランも検討することをお勧めする。
3.M&Aによる補完領域の明確化
ハイレベルな目標を機能別等にブレークダウンすることによって、自社が目指す姿を達成するために補完が必要な機能・資源が明らかになる。ここで初めて、M&Aを実施するべきか否かがより具体的な軸を持って議論することが出来る。
自社の「何を」、「どうするために」、「どのような打ち手を採用し」、「その打ち手のためには何が必要なのか」を検討する中で、原則、自力で対応する打ち手と自力での対応が困難な打ち手(他力活用=M&A等)が明確化されていくのである。
このプロセスでは、外的基準(規制等による参入障壁の高低 等)、内的基準(ノウハウ不足、人員不足、資金不足など)、スケジュール(仮に自力にて対応可能だとしても、当初設定した時間感を達成することが出来ないなど)等の基準を用いて、自力打ち手・他力打ち手(M&A等)の判断を行うケースが多い。
例えば、弊社の過去事例では、目指す姿を達成するためには「既存分野において中堅レベルの技術者を30%増加させることが必要となる(人員不足)」、「新規設備投資を現状の営業キャッシュフローの1.5倍程度実施しないと競合に打ち勝つことが出来ない(資金不足)」と言った経営資源そのものを補完する必要があるとのケースや、「自社の製品を新しい領域に拡販するためには、当該領域に対するリーチ(営業網や物流網)が必要」、「海外での売上比率を向上させためには、自社での進出が困難である中国、インド地域における営業網が必要」等の機能そのものを補完する必要がある、などのケースがあったが、これらは自力での対応は困難であり、他力活用(M&A等)が必要との結論となった。
このように自力対応が困難との結論になった場合にM&Aの実行が俎上に上がってくるのだが、「どのような機能・経営資源が必要なのか?」が具体的に定義されていることで、自社の欲するM&Aを具体的に語れるようになり、結果として投資銀行や証券会社、投資ファンド、コンサルティングファーム、または事業の売却を検討している企業等との適切なコミュニケーションが実現される。
世の中のM&Aをキックする上記のようなプレイヤーとの適切なコミュニケーションは、M&A成立のための重要な要素となる。
また、付随的な効果として自社のM&Aにとって重要な論点を整理しておくことによって、後々の統合フェーズ(PMIフェーズ)においても統合作業のメリハリを付けることが可能となり、より大きなM&A効果を享受することも期待できる。
企業の中には、このようなM&Aプロセスを経た上でM&A実行に対する予算を明確化して積極的に外部PRを行うこともある。適切な検討プロセスを経た上での外部PRは、M&Aを実現するための有効な手法となりえると考える。
4.最後に
M&Aという言葉が日常的になった昨今では、経営者の方々、企画部門の方々はその手法採用可否について、様々な迷いを持たれていると思われる。
確かに、M&Aという戦略は難易度が高く、成功確立が必ずしも高くないという調査結果も様々な機関から提示されている。但し、適切なプロセスでM&Aの実施を検討することによって、そのリスクを最小限に抑えることが可能である。
ここまでの記載は、M&Aを実行するべきか否か、という初期的な検討プロセスである。実際の売却、買収時には、どのような基準を持って売却、買収プロセス実施可否を検討するのか?が重要な論点となる。それは次回以降の記載としたい。
以上

