ブックマーク eメール このページを印刷

カーボンフットプリント試行事業に向けた課題

2009/3/17

皆さんはスーパーやコンビニでお弁当を買う時、カロリー表示を気にしていますか?最近は実に多くの食品パッケージにカロリーが表示されるようになりました。しかも見やすく目立つ場所に表示される商品が増えているように感じられます。それだけ多くの人が商品のカロリーに気を使っていて、表示するニーズがあるということでしょう。お弁当を買う時、見た目が似ているのに表示カロリーに差がある場合、カロリーの低い方を選ぶ方も多いのではないでしょうか。では、もしカロリー表示と同じようにCO2排出量が商品に表示されていたとしたら、皆さんはCO2排出量が多い商品と少ない商品のどちらを選択しますか。価格や品質に圧倒的な差がないと仮定すると、環境意識の高い消費者がCO2排出量のより少ない商品を選択することは十分に予想できます。メーカーや販売元にとっては、まさにCO2排出量が価格や品質やカロリーと同様に「差別化」の要因になることを意識すべき時代になりつつあります。本稿では、商品やサービスにCO2排出量を表示する仕組み「カーボンフットプリント(carbon footprint)」についてご説明します。なお、本稿における意見に関する部分は私見であり、所属する法人の見解でないことをお断りしておきます。


1.『エコプロダクツ2008』で注目を集めたカーボンフットプリント製品

「カーボンフットプリント」に関しては、すでに国内外で様々な試行的な取組みや実験が始まっています。テレビや雑誌等でも取り上げられましたが、2008年12月11日から13日までの3日間、東京ビッグサイトで『エコプロダクツ2008』(主催:社団法人産業環境管理協会、日本経済新聞社)が開催されました。環境関連のイベントは花盛りですが、『エコプロダクツ』は国内最大級のイベントの一つで、今回は出展企業数750社、来場者も17万人を超えいずれも同イベントの過去最大を記録したとのことです。この『エコプロダクツ2008』の目玉が「カーボンフットプリント」を試行的に表示した商品群の展示であり、多くの来場者の注目を集めました。わが国でカーボンフットプリント試行検討の母体ともいえる経済産業省「カーボンフットプリント制度の実用化・普及推進研究会」のブースでは、研究会参加30社が54品目の製品に試行的にCO2排出量を表示しました。
今回の経済産業省試行事業で使用されているシンボルマークは“量り”(はかり)を模したデザインで「カーボン・フットプリント・統一マーク」と呼ばれています。“量り”マークのトレーの上にその商品一個あたりのCO2排出量が“○○○グラム”と記載されています。ただし経済産業省によれば、このマークは『エコプロダクツ2008』での試行用なので、将来にわたって「カーボンフットプリント・統一マーク」になるかどうかは分かりません。

今回の展示品には「カーボンフットプリント」を説明する資料も添えられ、来場者の理解を助ける工夫がされました。まだ「カーボンフットプリント」の一般的な認知度は高くないため、いかに消費者に分かりやすくCO2情報を表示するかが、今後の普及の鍵になると考えられます。

『エコプロダクツ2008』では日本を代表する食品メーカーや大手流通小売業などカーボンフットプリントに取り組む企業のブースに多くの人達が集まっていましたが、こういった消費者に身近な企業の取組みには、今後益々注目が高まりそうです。

2.カーボンフットプリントとは

ここで少し「カーボンフットプリント」の仕組みをについてご説明しましょう。
簡単に言うと、ある「商品」の原材料調達→製造→売買→使用→廃棄といった一連の過程(ライフサイクル)の中で、どれだけCO2を排出しているかを算定/換算するものです。そして、その排出量を商品1個やロット単位に割り当てた数値を表示し、消費者に情報として提供する仕組みです。

企業の社会的責任(CSR)や商品の競争差別化の一環として、CO2排出量を数値的に把握し消費者に説明することの重要性が高まっています。その一方でカーボンフットプリントを算定し表示を行う企業の負担も増加することになります。

経済産業省では2009年度からカーボン・フットプリント制度の試行的導入を行うための指針案を本年2月「カーボン・フットプリント制度の在り方(指針)」(案)として公開しました。これは2008年度の同省研究会における検討の成果や『エコプロダクツ2008』でのアンケート結果を踏まえたものです。一定のガイドラインが示されたことで、いよいよわが国でも本格的な試行事業に向けた第一歩を踏み出すことになります。


3. 「カーボンフットプリント」制度導入に向けた課題

消費者が「カーボンフットプリント」のCO2情報を参考に商品を選択するためには、出来るだけ多くの商品に「カーボンフットプリント」を表示してもらわなければなりません。現時点で経済産業省としてこの「カーボンフットプリント」を法制度化・義務化する意図はないようですが、自主的な取組みとして数多くの企業の参加を促すには、企業にとっても採用しやすい制度であることが不可欠の要素といえるでしょう。当然のことながら、ある程度の負担の軽減や経済的合理性も十分に考慮して制度作りに反映させる必要があります。

「カーボンフットプリント」制度導入に向けた課題についていくつか考えてみたいと思います。

【商品種別算定基準(PCR)】

2009年度からの試行事業に向けての最大の課題の一つは、同一商品種における「商品種別算定基準(PCR:Product Category Rules)」の策定になると考えられます。仮に世の中に存在するあらゆる商品についてCO2排出量を把握する場合、ある程度製品のカテゴリー分けをしてから算定手順を定める方が合理的で、企業側の負担も比較的小さくて済むことになります。


ライフサイクルの各段階(原材料調達、生産、流通/販売、使用/維持、廃棄/リサイクル)を考えた場合も、それぞれの製品特性に応じてどの段階でCO2排出量が多いかは相当な違いが出てきます。家電製品や自動車などは数年から10年位は使われますので、使用段階でのCO2排出量が圧倒的に大きくなるはずです。


このようなCO2情報を商品の特性ごとに整理し算定基準を確立するには、一つ一つの企業ではなく業界全体としての取組みが重要になります。商品種別の共通データベース化、輸送/販売/使用/廃棄/リサイクルといったプロセスにおけるCO2排出シナリオの設定など、一社だけでは十分対応できないことも多々あると予想されます。


算定基準を巡るその他の懸念事項としては、経済産業省のみならず農林水産省でもCO2排出量を表示する独自の仕組みを検討していることがあげられます。農林水産省は経産省よりさらに緩やかなCO2情報の括りで事業者の負担を軽減する方向のようですが、官庁の管轄業界ごとに似たような商品種でCO2表示マークが乱立してしまうと、肝心の消費者にとっては何を比較対象に商品を選択すれば良いのか、混乱を引き起こす元になりかねません。

【CO2情報の信頼性の確保】

企業側の負担に配慮しながらも、消費者に信頼される情報をいかに提供するかが大きな課題ですが、「商品種別算定基準(PCR)」策定の難しさはCO2情報の正確性の確保と表裏一体のものではないでしょうか。
「カーボンフットプリント」制度では主体となる企業自身が把握し算定したCO2データ(1次データ)の使用が原則となっています。一方で企業はビジネスとして利益を追求しなければなりませんから、企業の「生データ」の公開は情報の秘匿性という別の問題も考慮しなければなりません。すなわち、CO2情報を正確に把握できることとその情報を公表可能かは、違った次元での判断が必要とされることになります。
しかしながら、正確な1次データの公表を避けて、他から入手した二次データや類推データばかりを流用すると、せっかく表示してある情報の信頼性そのものが揺らぎかねないことになります。
CO2情報の信頼性を確立するための「第三者検証」のあり方も今後の検討課題の一つになります。第三者検証の範囲や保証レベル等の規準をどこに求めるべきかといった課題は、実は「カーボンフットプリント」のみならず、企業や工場等設備におけるGHG(温室効果ガス)排出・削減量の算定・報告・検証という「カーボンマネジメント」の仕組みと相通じる大きな課題でもあるのです。


以上