ASEAN域内における2009年のM&Aの動向 第1回シンガポールおよびマレーシア (2009.11.24) |
日本から海外へのM&Aは、近年特に中国・台湾などの中華圏以外のアジア地域への案件も増加しているが、複数の国々があり、その国々のM&Aにおける特性は意外と知られていない。
M&Aは元来、欧米で盛んに行われていたが、グローバルベースで増加している。日本と地理的にも近いアジア諸国の状況を知ることは、日本の今後のM&A動向を考察するにあたり有効であると思われる。
今回から3回に亘ってアジア諸国の中のASEAN域内でのM&Aの動向を検討していきたい。第1回は、地理的に隣接しているシンガポール及びマレーシアを取り上げ、M&Aの動向について分析を行っていく。
1. シンガポールおよびマレーシアの経済概況
シンガポールとマレーシアは名目GDPが約200B USDと近似しているものの(図1縦軸)、GDPの成長率はシンガポールが1.1%であるのに対してマレーシアは4.6%とシンガポールの約4倍の成長率である(図1横軸)。但し、1人当たりのGDPで比較すると(図1バルブの大きさ)、シンガポールが40K USDであるのに対して、マレーシアは8K USDとシンガポールはマレーシアの5倍である。ちなみに、日本の名目GDPは4,900B USDとシンガポールの約27倍であるものの、1人当たりのGDPは39K USDと2008年度統計でシンガポールに抜かれている。
なお、シンガポールは輸出のGDP比が185%と極めて輸出依存度が高いといえるが、マレーシアも約90%と今回の分析対象国の中では2番目に輸出依存度が高い国である(図2)。これは、シンガポールは小国ゆえ、輸出産業は高付加価値品に特化し、金融や観光などのサービス産業もグローバル経済に立脚しているためと考えられる。一方、マレーシアは東南アジア有数の資源国であるが、20年超に及んだマハティール政権下の工業化路線で輸出主導による成長を享受してきたためと考えられる。
2. IN-IN(イン・イン)
買収対象会社及び買収会社がともにシンガポールもしくはマレーシアの会社のケースを分析する。
1) 件数
2009年にアナウンスがなされたM&A案件は15件、うち既にクローズしている案件は2件である。更に2008年にアナウンスされ2009年にクローズした案件が1件あるため、2009年の分析対象となるIN-IN案件は16件であり、うち3件がクローズしていることになる。
2) Deal Size(規模)
IN-IN案件16件中、最大のディールはDelegateam Sdn(マレーシア)がSarawak Energy(マレーシア)の35.4%をUSD419Mで買収オファーした案件であった。一方最小のディールサイズはUSD53Mであり、平均ディールサイズはUSD190M程度である。
3) 業種
買収対象となった業種は、コンシューマー4件(うち食品産業が3件)、農業関連3件あるものの、残りの9件については、特徴的な傾向は見られず、不動産、製造業、エネルギー、THL(ツーリズム・ホテル・レジャー)、メディアなどほぼ全て異なる業種であった。なお、コンシューマー案件は4件中3件がシンガポールの企業が買収対象となっており、また、農業関連3件は全てマレーシアの企業が買収対象となっていることが特徴といえる。
4) シンガポール・マレーシアの内訳
16件のうち、シンガポール企業が買収対象となったケースが5件、マレーシア企業のケースが11件であった。シンガポール企業がマレーシア企業への買収を仕掛けているケースが1件、マレーシア企業がシンガポール企業へ買収を仕掛けているケースが2件あるものの、基本的な傾向としては、対象会社と買収会社が同じ国の企業である国内案件が大部分である。
5) クローズ案件
| Closing Date | 対象会社 | 買収会社 | Deal Size M USD | 案件の概要 |
| 23/03/2009 | Singapore Food Industries | Singapore Airport Terminal Services | 369 | Singapore Airport Terminal ServicesがSingapore Food Industriesの98.6%を取得した |
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| 28/08/2009 | Lonza Group Ltd | Genentech Singapore | 290 | Rocheの100%子会社であるGenentech Singaporeがオプションを行使してLonza Groupのシンガポールの製造施設を取得した |
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| 11/02/2009 | VADS Berhad | Telekom Malaysia | 262 | Telekom MalaysiaがVADSの36.7%を取得して100%子会社とした |
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出典 Merger Marketをもとに筆者集計 |
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3. IN-OUT(イン・アウト)
シンガポールもしくはマレーシアの会社が、シンガポールおよびマレーシア以外の会社に買収を仕掛けているケースを分析する。
1) 件数
2009年にアナウンスがなされたM&A案件は13件、うち既にクローズしている案件は2件である。更に2008年にアナウンスされ2009年にクローズした案件が1件あるため、2009年の分析対象となるIN-OUT案件は14件であり、うち3件がクローズしていることになる。
2) Deal Size(規模)
IN-OUT案件13件中、最大のディールはOversea Chinese Banking Corporation(シンガポール) と Youngor Group(中国) がBank of Ningbo(中国)の8.9%相当の第三者割り当て増資をUSD449Mで引き受けることを合意した案件であった。一方最小のディールサイズはUSD55Mであり、平均のディールサイズはUSD160M程度であった。
3) 対象会社所在国および業種
買収対象会社となったの企業の所在国は中国が6件、インドネシアが2件、オーストラリアが2件であった。
中国企業に買収を仕掛けた6件全てのケースにおいて、買収会社はシンガポールの企業であった。買収対象となった業種は、不動産、バイオ、産業用装置・機械メーカー、銀行、リース等様々である。インドネシアでの案件は、1件はシンガポール企業が仕掛けたオイル・ガス案件、もう1件はマレーシア企業が仕掛けた銀行案件である。オーストラリアでの案件は、1件はシンガポール企業が仕掛けたエネルギー案件、もう1件はシンガポール企業とマレーシア企業が共同で仕掛けたマイニング案件であった。以上を鑑みても、中国、インドネシア、オーストラリアへのIN-OUT案件で買収対象となった業種に関して典型的な特徴を発見することは難しい。ただし、IN-OUT案件全体でみると、投資会社、銀行、リース等の金融業への投資が4件あることが、数少ない特徴の1つであったといえる。
4) シンガポール・マレーシアの内訳
IN-OUT案件14件中、シンガポール企業が買収会社となったケースは10件、マレーシア企業は5件、1件はシンガポール企業とマレーシア企業が共同で買収会社となったケースである。IN-IN案件では、マレーシア国内での案件がシンガポール国内での案件の2倍以上みられたが、IN-OUT案件となると買収会社となった企業の多くはシンガポール企業であり、マレーシアの企業がクロスボーダー案件で買収会社となったケースは少ないことがわかる。
5) クローズ案件
| Closing Date | 対象会社 | 買収会社 | Deal Size M USD | 案件の概要 |
| 21/01/2009 | PT Surya Energi Raya | China Sonangol International | 200 | China Sonangol International がPT Surya Energi Rayaの株式を買収した。買収による持分比率は不明である |
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| 13/10/2009 | International Far Eastern Leasing Co | ・China International Capital Corporation ・GIC Special Investments ・Kohlberg Kravis Roberts & Co |
160 |
KKR、GIC Special Investments、China International Capital CorporationがInternational Far Eastern Leasing Coの30%相当の株式を取得した
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| 06/01/2009 | BankThai Public Company Limited | CIMB Group | 386 | CIMBがFinancial Institutions Development FundとTPG から株式を取得するにあたって実施したmandatory offerによって、92%を取得した |
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出典 Merger Marketをもとに筆者集計 |
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4. OUT-IN(アウト・イン)
シンガポールおよびマレーシア以外の会社が、シンガポールもしくはマレーシアの会社に対して買収を仕掛けているケースを分析する。
1) 件数
2009年にアナウンスがなされたM&A案件は9件、うち既にクローズしている案件は3件である。2008年の同様のデータを参照すると、1年間で21件のアナウンスがあり、16件がクローズしていた。また、2008年1月から10月末までを見ても、14件がクローズされていたことと比較すると、2009年はこれまでOUT-INの案件が少なかったと考えられる。
2) Deal Size(規模)
OUT-IN案件9件中、最大のディール はLints Ltd(香港) がStraits Asia Resources Limited(シンガポール)の52.9%相当の株式をUSD429Mで取得することに合意した案件であった。、一方最小のディールサイズはUSD61Mであり、平均のディールサイズはUSD230M程度であった。
3) 対象会社所在国および業種
OUT-IN案件9件のうち、シンガポール企業が買収対象となったケースが8件、マレーシア企業は1件であり、外国企業からの買収対象となるのは圧倒的にシンガポール企業が多いことがわかる。買収対象となったシンガポール企業の業種は、工業製品、エネルギー・資源関連サービス、製薬、運輸、電子部品、贅沢品・嗜好品と様々である。
4) 買収会社所在国
OUT-IN案件9件中、5件は香港の会社が買収会社となったケースであり、4件がシンガポール企業、1件がマレーシア企業を買収対象としたケースであった。それぞれ買収対象業種を見ると、製薬、Luxury Goods、衣料品などが含まれており、生活産業企業を対象としていたとも考えられる。
5) クローズ案件
| Closing Date | 対象会社 | 買収会社 | Deal Size M USD | 案件の概要 |
| 23/03/2009 | Airfoil Technologies International Singapore | GE Group | 300 | GEがTeleflex Incorporatedからシンガポールの修理サービス会社会社であるAirfoil Technologies Internationalの株式51%相当を取得した |
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| 30/04/2009 | Orchard Maritime | PT Jasapower Indonesia | 212 | インドネシアのCoal Miningの会社であるPT Jasapower Indonesiaがシンガポールの海上輸送業を営むOrchard Maritimeの株式74%相当をBRS Investment Pte Ltd等3社から取得した |
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12/10/2009 |
Global Tender Barges Pte Ltd | PHM Holdco 10 BV | 233 | UKのプライベートエクイティファンドであるPampalona Capital Managementの投資持株会社であるPHM Holdco 10 BVが、石油掘削のオペレータであるGlobal Tender Bargesの90%相当の株式を取得した |
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出典 Merger Marketをもとに筆者集計 |
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5. 要約
シンガポールおよびマレーシアにおいて、2009年にアナウンスがなされたM&A案件を整理すると、以下のとおりとなる。
| 分析件数 | 平均Size | クローズ 件数 | 対象会社の所在国 | 買収会社の所在国 | 対象会社の業種 |
| IN-IN | |||||
| 16件 | 190M USD | 3件 | シンガポール:5件 マレーシア:11件 |
シンガポール:5件 マレーシア:11件 |
10業種 4件:Consumer 3件:Agriculture |
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IN-OUT |
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| 14件 | 160M USD | 3件 | 中国:6件 インドネシア:2件 オーストラリア:2件 |
シンガポール:10件 マレーシア:5件 |
8業種 4件:Financial Services 3件:Agriculture 2件:Energy |
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OUT-IN |
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| 9件 | 230M USD | 3件 | シンガポール:8件 マレーシア:1件 |
香港:5件 |
10業種 4件:Consumer |
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6. 今後の動向


シンガポール、マレーシアとも2010年度以降のGDP成長率はプラスを見込んでいる。更に、株価も2008年のリーマンショック以前の株価まで回復してきており、経済は最悪期を脱しつつあるように思われる。
2008年後半から2009年前半にかけては世界同時不況の影響により、シンガポールおよびマレーシアの企業の株価は割安であったと考えられるため、買収を行うには好ましい時期であったとも考えられる。ただし、同時に日系企業も世界同時不況の影響を受けており、2009年はこれまで日系企業によるシンガポールもしくはマレーシア企業の買収に関するアナウンスはない。
しかし、シンガポールおよびマレーシア経済のみならず、日本経済も回復に向かい日系企業が国外への成長の機会を求め始めるならば、東南アジアはターゲットとなるマーケットの1つであり、2007年度の凸版印刷によるSNPの買収にみられるように、シンガポール、マレーシアのみならず、東南アジアにおいて日系企業が主要なポテンシャルバイヤーの1つになることは間違いないように思われる。
注)
Merger MarketでAnnounced Dateが2008年および2009年のデータに基づいて分析している。
2009年のデータは、2009年10月末までにアナウンスされた情報を用いている。
DealサイズがUSD50M~USD500MのM&Aを対象としている。
参照)
第一生命経済研究所 マクロ経済分析レポート
Economist Intelligence Unit Country Report
JETRO Web「基礎的経済指標 2008年」
以上
> ASEAN域内における2009年のM&Aの動向 第2回
~タイ・インドネシア~
> ASEAN域内における2009年のM&Aの動向 第3回
~ベトナムおよびフィリピン~



