ASEAN域内における2009年のM&Aの動向 第2回タイおよびインドネシア (2009.12.22) |
前回からの3回に亘ってアジア諸国の中のASEAN域内でのM&Aの動向を検討するにあたり、第1回は、地理的に隣接しているシンガポール及びマレーシアを取り上げた。第2回は、同じASEAN諸国の中でも外需主導型(タイ)と内需主導型(インドネシア)という異なる経済構造であるタイとインドネシアを取り上げ2009年のM&Aの動向を分析していく。
1. タイおよびインドネシアの経済概況



タイの2008年名目GDP USD273Bに対してインドネシアはUSD510Bである(図1縦軸)。また、GDPの成長率はタイの2.6%に対してインドネシアは6.1%とインドネシアは非常に高い経済成長率を示している(図1横軸)。インドネシアはタイに比べて約2倍の経済規模、約3倍の経済成長率である一方で、1人当たりのGDPを比較すると(図1バルブの大きさ)、タイが4,115 USDであるのに対して、インドネシアは2,246 USDとタイがインドネシアの約2倍となっている。なお、タイは輸出のGDP比が65.1%であるのに対してインドネシアは26.8%と極めて低い数値を示している(図2)。インドネシアの01~08年における年平均実質GDP成長率5.2%の内訳は、純輸出の寄与度が0.4%であったのに対して、在庫投資を除く国内最終需要の寄与度が4.7%となっている(図3左)。また2008年だけでみても、実質GDP成長率は6.1%、純輸出が0.7%、個人消費が3.1%、政府消費が0.8%、総固定資本形成が2.6%と内需主導の成長であった(図3右)。つまり、インドネシアの経済成長は輸出ではなく内需に牽引されてきたため、GDPに占める輸出の割合が少ないものと考えられる。
2. IN-IN(イン・イン)
買収対象会社及び買収会社がともにタイもしくはインドネシアの会社のケースを分析する。
1) 件数
2009年にアナウンスがなされたM&A案件は12件、うち既にクローズしている案件は1件である。更に2008年にアナウンスされ2009年にクローズした案件は無いため、2009年の分析対象となるIN-IN案件は12件である。
2) Deal Size(規模)
IN-IN案件12件中、最大のディールはインドネシア政府およびヌサ・トゥンガラ政府がPT Newmont Nusa Tenggara の14%の株式をNewmont Mining Corporation からUSD492Mで取得することに合意したと公表した案件である。一方最小のディールサイズはUSD56Mであり、平均ディールサイズはUSD167M程度である。
3) 業種
買収対象となった業種はマイニング5件、エネルギー2件(石油・ガスおよび石炭)と12件中7件が資源関連であった。うち、マイニング5件全ておよびエネルギーのうち石油・ガスの案件についてはインドネシアの企業が買収対象であることが特徴といえる。
4) タイ・インドネシアの内訳
12件のうち、タイ企業が買収対象となったケースが2件、インドネシア企業のケースが10件であった。これら全ては対象会社と買収会社が同じ国の企業である国内案件である。
5) クローズ案件
| Closing Date | 対象会社 | 買収会社 | Deal Size M USD | 案件の概要 |
| 09/07/2009 | PT Adira Dinamika Multi Finance Tbk | PT Bank Danamon Indonesia Tbk | 139 | インドネシアの銀行であるPT Bank Danamon Indonesiaがコンシューマーファイナンス会社であるPT Adira Dinamika Multi Financeの株式20%相当を取得した |
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出典 Merger Marketをもとに筆者集計 |
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3. IN-OUT(イン・アウト)
タイもしくはインドネシアの会社が、タイおよびインドネシア以外の会社に買収を仕掛けているケースを分析する。
1) 件数
2009年にアナウンスがなされたM&A案件は3件、うち既にクローズしている案件は2件である。なお、2008年にアナウンスされ2009年にクローズした案件は無いため、2009年の分析対象となるIN-OUT案件は上記の3件である。なお、2008年のIN-OUT案件は5件であることからも、タイやインドネシアの企業が他国の企業を買収するケースはIN-IN案件の数と比較しても圧倒的に少ないことが伺える。
2) Deal Size(規模)
IN-OUT案件3件中、最大のディールは タイの石油・ガスの探査・製造会社であるPTT Exploration and Production Public Limited Companyが、オーストラリアのマイニング会社の持ち株会社であるStraits Bulk and Industrial Pty Ltd の60%の株式をUSD 335Mで取得すると公表した案件である。他の2件は、USD212M、USD66Mであった。
3) 対象会社所在国および業種
買収対象会社となったのはオーストラリアが2件、シンガポールが1件であった。
上記2)Deal Size(規模)で最大のディールとして記載したタイの企業によるオーストラリア企業の買収以外では、インドネシアの石炭掘削会社がシンガポールの石炭掘削・輸送会社を買収した案件、およびインドネシアのクングロマリットがオーストラリアのリゾート・スパ運営会社を買収した案件であった。案件数が少ないため特徴を見出すことは難しい。2008年の案件(5件)を見ても、買収対象国は全て異なり、また業種についても全て異なっていた。買収を仕掛けた企業は2009年はタイ企業が1件、インドネシア企業が2件、2008年はタイ企業が2件、インドネシア企業が3件であった。
4) クローズ案件
| Closing Date | 対象会社 | 買収会社 | Deal Size M USD | 案件の概要 |
| 30/04/2009 | Orchard Maritime Pte Ltd | PT Jasapower Indonesial | 212 | インドネシアの石炭マイニング会社であるPT Jasapower Indonesiaがシンガポールの石炭掘削・海上輸送会社である Orchard Maritime Pte Ltdの株式の74.16%をシンガポールの投資会社であるRecapital Maritime Holdings Limited, BRS Investment Pte Ltd and Saratoga Capital Pte Ltdから取得した |
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| 22/09/2009 | Surfers Paradise Marriott Resort & Spa | PT Rajawali Corporation | 66 | インドネシアのコングロマリットであるPT Rajawali CorporationがオーストラリアのリゾートホテルであるSurfers Paradise Marriott Resort & Spaをオーストラリアの不動産ファンドであるCommonwealth Property Hotel Fundから取得した |
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出典 Merger Marketをもとに筆者集計 |
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4. OUT-IN(アウト・イン)
タイおよびインドネシア以外の会社が、タイもしくはインドネシアの会社に対して買収を仕掛けているケースを分析する。
1) 件数
2009年にアナウンスがなされたM&A案件は10件、うち既にクローズしている案件は6件である。2008年にアナウンスされ2009年にクローズした案件が1件あるため、2009年の分析対象となるOUT-IN案件は11件、うち7件がクローズしている。
2) Deal Size(規模)
OUT-IN案件11件中、最大のディール はマレーシアの投資銀行であるCIMB Group がタイのBank Thai PCLの92.04%相当の株式をTOBによりUSD386Mで取得した案件であった。一方最小のディールサイズはUSD69Mであり、平均のディールサイズはUSD210M程度であった。
3) 対象会社所在国および業種
OUT-IN案件11件のうち、タイ企業が買収対象となったケースが5件、インドネシア企業は6件であり、対象会社の所在国に関して大きな違いは見られない。しかし、2008年はタイ企業1件に対してインドネシア企業9件であったことから、2009年はタイ企業を対象とした買収のケースが増加したといえる。買収対象となった企業の業種は、OUT-IN案件11件中6件(インドネシア3件、タイ3件)が金融関連であったことが特徴と言える。インドネシアは、経済規模自体が大きいだけでなくGDP成長率も最も大きいこと、また人口も分析対象国の中で最も多いことが、企業向け・個人向けの両面から金融業が買収対象となった理由の1つと考えることができるように思われる。また、タイに関しては、人口はフィリピンやベトナムと比較すると少ないものの、GDPは分析対象国の中では2番目に大きいこと、またフィリピン・ベトナムよりは産業が発達していること等が買収対象となった理由の1つとして考えられるものと思われる。
4) 買収会社所在国
OUT-IN案件11件中、3件は日系企業が買収会社となったケースであり、2件が中国・香港企業、2件がマレーシア、他はオーストラリア、シンガポール、カナダ、UKとそれぞれ1件づつであった。日系企業については、インドネシアでのマイニングや製薬会社の買収、タイでの生活産業の買収と典型的な特徴は見られないものの、2008年に日系企業がタイもしくはインドネシアの企業に買収を仕掛けたケースは1件であることを考えると、日系企業が買収企業となった案件数が増加していることが2009年の特徴の1つといえるものと思われる。
5) クローズ案件
| Closing Date | 対象会社 | 買収会社 | Deal Size M USD | 案件の概要 |
| 06/01/2009 | BankThai Public Company Limited | CIMB Group Sdn Bhd | 386 | マレーシアの投資銀行であるCIMB Group がタイのBank Thai PCLの92.04%相当の株式をTOBによりUSD386Mで取得した |
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| 13/01/2009 | Bank Pan Indonesia Tbk, PT | Australia and New Zealand Banking Group Limited | 114 | ANZがインドネシアのPan Indonesia Bank Tbkの8.4%相当の株式を取得した |
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21/01/2009 |
PT Surya Energi Raya | China Sonangol International (S) Pte Ltd | 200 | シンガポールの石油・ガス探査会社であるChina Sonangol International (S) Pte Ltdがインドネシアの同業のPT Surya Energi Rayaの株式を取得した |
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03/02/2009 |
Thanachart Bank Public Company Limited | Bank of Nova Scotia | 218 | カナダのBank of Nova Scotia (Scotiabank)がタイのThanachart Bank Public Company Limited の株式24%相当を取得した |
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19/02/2009 |
Strand Minerals (Indonesia) Pte. Ltd. | Mitsubishi Corporation | 145 | 三菱商事がインドネシアのマイニング会社であるStrand Minerals (Indonesia) Pte. Ltdの株式33.4%相当を取得した |
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12/08/2009 |
PT Bank Ekonomi Raharja Tbk | HSBC Asia Pacific Holdings (UK) Limited | 69 | HSBCがインドネシアのPT Bank Ekonomi Raharja Tbkに対して、未取得分の10.08%相当をTOBにより取得した |
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18/09/2009 |
Pan Australian Resources | Guangdong Rising Assets Management Co Ltd | 169 | 中国のマイニング分野の投資会社であるGuangdong Rising Assets Management Co Ltdが、オーストラリアのマイニング会社であるPan Australian Resourcesの19.9%を取得した |
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出典 Merger Marketをもとに筆者集計 |
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5. 要約
タイおよびインドネシアにおいて、2009年にアナウンスがなされたM&A案件を整理すると、以下のとおりとなる。
| 分析件数 | 平均Size | クローズ 件数 | 対象会社の所在国 | 買収会社の所在国 | 対象会社の業種 |
| IN-IN | |||||
| 12件 | 167M USD | 1件 | タイ:2件 インドネシア:10件 |
タイ:2件 インドネシア:10件 |
5業種 5件:マイニング 2件:エネルギー(石油・ガス、石炭) |
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IN-OUT |
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| 3件 | 204M USD | 2件 | オーストラリア:2件 シンガポール:1件 |
インドネシア:2件 タイ:1件 |
3業種 マイニング、輸送、レジャー |
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OUT-IN |
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| 11件 | 210M USD | 7件 | タイ:5件 インドネシア:6件 |
日本:3件 中国・香港,マレーシア:2件 他:4カ国 |
5業種 6件:金融 2件:マイニング |
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シンガポール・マレーシアの案件は、IN‐INが16件、IN-OUTが14件、OUT-INが9件であったことと比較すると、タイ・インドネシア企業が他国の企業に対して買収を仕掛けるケースは非常に少ないと言える。
6. 今後の動向


タイは2010年以降は実質GDP成長率プラスが予想されており、また株価も2008年のリーマンショック以前の株価まで回復してきている。しかし、雇用不安や政治不安などから個人消費は低迷を続けており、また政府は景気対策により内需の下支えを狙うが、公的債務残高の上昇が新たな懸念材料となっており、先行き不透明感が残る。外需頼みの経済構造の中、輸出が早く回復しなければ十分に融資を受けられない中小企業を中心に倒産が増加する可能性すら存在する。窮境企業に対する再生スポンサーのような形でタイ企業の買収がなされる可能性も考えられる。
インドネシアは、2007年(6.3%)、2008年(6.1%)と比べると2009年の実質GDP成長率が4.3%と低下しているものの、2010年は5.1%と依然として高い成長率が予想されている。株価も既にリーマンショック以前の株価を越えている。政府によるリーマンショック以後の景気減速に対抗するための景気対策や株価の上昇等の資産価格上昇による効果もあり、個人消費が盛り上がりを見せており、またアジア経済の底打ちに伴い輸出も緩やかに回復してきており、内外需双方で回復が進んでいる。インドネシアは世界で4番目に人口が多い国であり、堅調な景気回復の持続も予想されている。ASEAN諸国の中では高い経済成長率を維持している国であることからも、更なる経済の拡大を期待する企業がインドネシア企業の買収を行う可能性が考えられる。
注)
Merger MarketでAnnounced Dateが2008年および2009年のデータに基づいて分析している。
2009年のデータは、2009年10月末までにアナウンスされた情報を用いている。
DealサイズがUSD50M~USD500MのM&Aを対象としている。
参照)
第一生命経済研究所 マクロ経済分析レポート
財団法人 国際金融情報センター トピックスレポート
Economist Intelligence Unit Country Report
JETRO Web「基礎的経済指標 2008年」
以上
> ASEAN域内における2009年のM&Aの動向 第1回
~シンガポールおよびマレーシア~
> ASEAN域内における2009年のM&Aの動向 第3回
~ベトナムおよびフィリピン~
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