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2011.12.16 予期せぬ損失の可視化を急げ

モニタリングで大口与信先の突然死を予防

著者: 金融インダストリーグループ 桑原 大祐

信用リスク管理のPDCAは、リスクの測定(Measurement)とモニタリング(Monitoring)の高度化にかたよっており、信用リスクを管理(Management)する枠組みがうまく機能していない。予期せぬ損失の大部分は、大口与信先のデフォルトによるものであり、大口与信先のモニタリングを強化することで、突然死の排除を進めるべきだ。

コモディティー化した統計モデル

統計的スコアリングモデルは、過去の与信先の財務指標を中心とした定量情報からデフォルトを判別するようにモデリングを行う。したがって、モデルの構築時点から時の経過に伴って、判別力が徐々に低下する(いわゆる経年劣化)。モデルの精度が低下していないか、年に1度は検証を行い、判別力が低下していればモデルを見直すことになる。このようなPDCAのサイクルを繰り返すことによって、統計モデルの世界は技術的に成熟した感がある。モデルがコモディティー化し、“Measurement”(リスクの測定)に対する統計的な面では、金融機関同士が差別化を図ることはむずかしくなっている。

金融危機で露呈したスコアリングモデルの弱点

一方で、信用リスクを管理(Management)する枠組みについては発展の余地がある。金融危機を振り返ると、統計モデルの弱点や前提条件を理解したうえでの運営がなされていなかったのではとの反省点が、各国当局、業界団体等からあげられた。

以下、統計モデルの弱点を例示する。

(1)粉飾先の判定
定量モデルの評価軸は、自己資本比率やインタレストカバレッジレシオ(年間の事業利益が支払利息・割引料の何倍であるかを示すもの)などの財務指標の組み合わせによる。したがって、これらの特性を理解していれば、モデルでの評価が高くなる決算書を意図的に作成することも可能となる。
(2)財務要因以外によるデフォルトの判定
たとえば、過去、新聞をにぎわした食品偽装、建築偽装などの内部統制の問題による破綻や、狂牛病、鳥インフルエンザなどの疫病関連による業績悪化、さらには震災およびそれに伴う原発関連による直接的なインパクトなどのオペレーショナル・リスクの現実化によるデフォルトなどは、財務定量モデルでは判別できない。
(3)黒字倒産の判定

昨今の不動産業のように金融機関からの資金の引上げによって資金繰破綻を起こすような場合、財務指標に問題が表われる前に急激にデフォルトしてしまえば、高スコアであってもデフォルト事象が発生する。
(4)モデルによる美人投票リスク

各金融機関で利用しているモデルに大きな差異がなくなり、各金融機関の与信判断は均質化した。結果として、かりにモデルによる判断が実態を正しく表わしていなかったとしても、モデルがデフォルト企業を作り上げることになり、与信判断に用いたスコアリングモデルの判別力が上昇するというパラドックスが発生する。

分散投資の限界

ここまで統計モデルの問題と、その運営における問題をあげてきたが、一方でポートフォリオ管理を含めた信用リスク管理では、アクションに結びつける運営が確立されるまでには至っていない。教科書的な話は、だれもが理解している。ポートフォリオの大口の集中先を分散し、地域や産業などのセクターの集中を分散すれば、予期せぬ損失が小さくなる。しかし、リレーションシップバンキングを目指した地域金融機関であればなおさら、分散投資への行動は限られる。なかでも地域金融機関において、ポートフォリオの地域分散などは現実的ではない。

信用リスクの可視化

それでは、どのようにポートフォリオを“Manage”していくべきであろうか。  予期せぬ損失(Unexpected Loss、以下UL)の源泉の大部分は、大口与信先のデフォルトによるものである。そうであれば、大口与信先のモニタリングを強化することにより、突然死を排除してしまえばよい。ULを可視化することで、すべてを想定内に入れるように努力するという発想だ。結果として、ULの可視化によって期待損失(Expected Loss、以下EL)が増加することもあるだろう(図表1のステップ1参照)。ULから可視化されたELに対しては、取引先のコンサルティングや指導など、早めのアクションを行い、状況を悪化させないような手を打つ努力をするべきであり、あわよくば、ELを削減することも期待できよう(図表1のステップ2参照)。  与信業務におけるコントロールを全与信先に適用することは採算的にむずかしいだろうが、営業担当者および審査担当者による追加的なコスト負担をかけても、信用コストの削減を行うべき大口先から優先的に検討を開始すればよい。  こうしたアプローチは、「金融機関が、長期的な取引関係により得られた情報を活用し、対面交渉を含む質の高いコミュニケーションを通じて融資先企業の経営状況等を的確に把握し、これにより中小企業等への金融仲介機能を強化するとともに、金融機関自身の収益向上を図る」(新アクションプログラム)というリレーションシップバンキングの本質的な概念と方向性を一にしていると考えられる。

【図表1】信用リスク管理のあるべき姿

(図をクリックすると拡大されます。)

将来へ向けたアクションプラン

図表1にあげた2ステップを実施するためには、まず、与信先のデフォルト要因分析から開始するべきだろう。デフォルトの要因を分析することによって、制御可能なものはとことん制御してしまうという考えだ。
 デフォルトの要因は、すべての与信先に共通に発生するマクロ的な要因と個社の固有の要因とに大別できる。信用リスク計量のファクターモデルと同様の発想だ。さらに、そのそれぞれについて、財務要因と非財務要因とに分ける(図表2参照)。財務要因は、財務指標の悪化がスコアリングモデルの結果に現われるが、財務以外によるデフォルトはスコアリングモデルによって判別することはできない。したがって、非財務要因については、より慎重なエキスパート評価による補完が必要となる。以下、デフォルト要因ごとのアクションプランを検討していく。  まず、マクロ要因としては、マクロ経済の悪化によって引き起こされる財務の悪化が考えられる(図表2左上)。今般の金融危機においても、世界的な景気後退による需要減少が企業財務に大きなインパクトを及ぼした。マクロ経済自体は一民間金融機関がコントロールできるものではないが、たとえばストレスを考慮して企業の与信判断をすること(through the cycle)はできる。具体的には、景気悪化による売上げの減少、営業利益率の減少を考慮したプロフォーマ(予測)財務諸表をシミュレーションし、それに基づいて評価を実施するアプローチが考えられる。取引先企業が景気後退のストレスに対する耐性が脆弱であると判断された場合には、取引先のストレスシナリオ策定をサポートし、ストレス・テスト実施を指導するような取組みも考えられる。その結果をふまえ、対応方針の検討をサポートすればよい。取引先のストレス・テストの結果を集約すれば、自行の信用ポートフォリオのストレス・テストを実施する素材にもなる。
 マクロ的な事象は、財務的なものだけではない(図表2左下)。東日本大震災によって工場や設備を流された中小企業の映像はいまだに鮮明な記憶として残っている。地震や津波をコントロールすることはできないが、平常時から自然災害等に対するストレス・テストやBCP策定の指導を取引先に実施するなどの対応は可能だ。とくに、今後大地震の生じる可能性の高い東海・東南海地域の金融機関は、自らのBCPの策定はいうまでもなく、取引先の備えに対してのサポートが急がれる。

【図表2】信用リスク管理におけるアクションプラン

(図をクリックすると拡大されます。)

積極的なモニタリングが不可欠

個社に固有の要因としては、たとえば、二代目社長の放漫経営であるとか、本業以外での過度なリスクテイクを原因とする事業計画上の失敗による財務悪化などがあげられる(図表2右上)。取引先のビジネス上の問題については、金融機関の積極的なモニタリングと経営指導が効果的だ。取引先のリスクに気づかない、あるいは過度なリスクテイクのための資金供与はもってのほかである。金融機関としては、取引先におけるガバナンス・統合的リスク管理の強化に対しても責任をもって行動すべきだ。
 財務的な要因ではなく内部統制上の問題からデフォルトする企業の事例は、マスコミに取り上げられることも多い(図表2右下)。たとえば、耐震偽装建築事件や、幾度も繰り返される食品偽装の例は枚挙にいとまがない。取引先の内部統制上の問題については、まずは内部統制の強化に向けた助言・指導を行うことが必要だ。とくに極端な場合には、取引の解消もありうる。内部統制に欠陥のある非上場企業は、会社法上の大会社であっても、会計監査人による監査を受けていない場合も想定される。金融機関としては、監査報告書の提出を求めることも必要だろう。

不十分な倒産要因分析

金融検査結果事例集(2010検査事務年度後期版)では、「常務会は、審査部門等に対し、突発破綻に至った原因を分析し要因別に区分・評価したうえで、与信管理上の問題点の洗出しを行うよう指示していない」ために突発的な与信コストが相当額発生している事例や、「信用リスク委員会等は、審査部門における検証(倒産要因の分析)の適切性について問題認識をもたないまま、倒産報告を受けるにとどまっている。このため、不良債権の発生防止に向けた取組みは不十分」といった事例が散見される。
 リスク管理は“Management”であり、積極的なコントロールを行うことが求められる。まずは、“Management”へ向けた計画(Plan)を策定し、PDCAのサイクルを好回転させていくことが必要だ。


※本稿は、社団法人金融財政事情研究会『週刊金融財政事情』2011年11月14日号に掲載したものを、加筆修正したものである。
また、本稿は筆者の私見である。

 

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