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不況期における粉飾決算の早期発見と再生マネジメント 後編

粉飾決算と再生マネジメント (2010.01.26)

著者: デロイト トーマツFAS株式会社 リオーガニゼーションサービス シニアマネジャー 石田 晃一 / フォレンジックサービス シニアマネジャー 松澤 公貴 

1.粉飾決算と再生マネジメント
(1) 粉飾決算が企業再生に与える影響

企業再生の実務に携わっている者の実感として、企業再生の必要性がある経営不振企業の過去の業績、財務数値は様々な手法による粉飾決算の可能性がある場合が多い。
では、企業再生を円滑に進行させる企業再生のマネジメントにおいて問題視すべき「会計処理」とは一体どのようなレベルのものを指すのであろうか。

そもそも「粉飾決算」とは、文字通り「決算内容を粉飾すること」であり、決算内容を実態以上に美しく見せるものを「粉飾」、逆に実態よりも厳しく見せるものは「逆粉飾」などと呼ばれることも多いが、これらはいずれも「不適切な会計処理」とされるべきであることに変わりはない。一方で、「適切な会計処理」そのものも決して画一的なものではなく、永年に亘る会計慣行のいわば集積物であることはご承知の通りである。

再生マネジメントの実践に当たって問題視されるべき会計処理は、ひとえにこれを信用して投融資を行った投資家・債権者に対する虚偽報告という観点にあり、投融資の意思決定を大きくミスリードするような会計処理は「重大な粉飾」であると言え、再生マネジメントに重大な影響を与えると言えよう。

それでは投融資意思決定に重大な影響を与える粉飾とは、金額的にインパクトの大きな虚偽報告に限られると言えるだろうか。答えは「否」であろう。確かに些少な虚偽報告であれば投融資全体に与えるインパクトは小さいかも知れない。しかしながら、粉飾という名の虚偽報告が関連当事者にもたらす最も重大な影響は、例えその金額が重大なものでなくとも、これまでの決算報告そのものを根底から信頼できなくなるという点、すなわち信頼関係を喪失させるという点にあると言え、例えば経営者の経営判断に基づく金銭債権に対する貸倒引当金の引当の多寡よりも、思いもよらなかった少額の架空売上の存在の方が、関係者の支援マインドに大きな影響を与える場合も考え得ると言えよう。再生マネジメントにおいて慎重な対応が必要な会計処理とは、質的問題は経営姿勢の問題であって、会計処理に対するマインドの退化やインテグリティの欠如を表す。これは会社の内部統制に波及し内部が根底から腐っていることを示すもので、単に一部の利益調整にとどまらず、財務諸表全体の信頼性が揺らぐことにもなり兼ねない。会計における経営者の見積が保守的か挑戦的か、それが大きく挑戦的に振れてしまった場合、後日、外部からは「粉飾」と呼ばれてしまうこともある。

(2) 過年度財務情報と粉飾

A. 実態債務超過の推定
金融機関等の主要債権者に対して金融支援を要請する場合の上限を画す重要な物差しのひとつに「実態債務超過」の水準がある。通常の再生デューデリジェンス(DD)においては、貸借対照表に計上されている資産の含み損益や、未計上債務の金額、さらには契約解除等に伴う偶発損失などの金額を一定の基準に従って推計し、決算書上の純資産の金額に調整を加えることで「実態債務超過」と呼ばれる金額を推計している。

複式簿記の原理からすれば、例えば架空売上の見合い勘定として通常の場合においては架空の売掛金などが貸借対照表に計上されているため、これを適切に評価することによって本来計上されていたであろう利益剰余金の額が補正され、「実態債務超過」の額が推計されると言っていいだろう。
しかしながら、例えばグループ会社間における融資取引や立替取引、決済条件や決算日のズレ、さらには過去における取引価格の遡及修正等、多様な取引を複雑に絡み合わせることによって、それぞれの資産・負債残高の評価を歪ませることは経営者であればさほど難しい話ではない。個別には単純な偽装取引であったとしても、永年に亘る積み重ねにより、また担当者の退職等によって、複雑に絡み合った過去の事実関係を紐解くことは現実的な問題として容易な作業ではない。

B. 正常収益力の補正
企業再生の目線として、前述した実態債務超過が「発射台の高さ」であるとすれば、発射するロケットの「発射角度」はその企業が固有に有しているであろう「正常な状態における収益力」であると言える。

実態純資産の補正は言わば「静的」なものであると言え、思いもよらない簿外債務の把握などは非常な困難を伴うであろうが、長期在庫が内包する含み損や金銭債権の回収不能額などは、通常の場合、比較的容易に推計することができると言えよう。

しかしながら、その企業の有する固有の「実力」である正常収益力は、将来どのようなパフォーマンスが発揮されるか、という目線ではあるものの、全く新たに単独で見積もられるべきものではなく、何かと比較されることでその相当性や実現可能性が判断されることが多い。一般的に比較対象とされる拠り所としては、1)過去の実力としての過年度収益力、2)今後、その企業が勝負していく土俵としての業界の長期的な動向、3)ビジネスモデルや損益構造の分析等から導き出される論理的ロジックの積み上げなどが挙げられよう。

3)については、企業の収益力は「理論値」だけで計り知れるほど単純なものではなく、金融機関としてもそうした理論だけでは客観的な裏付けが乏しいと言わざるを得ないであろうし、金融支援すべきか否かの意思決定はし得ないであろう。2)については信頼するに足る統計資料などから大まかな方向感として得られることも多いが、やはり個別企業の実情までは統計から語り切れるものではない。従って、これらは一般的には補足的な情報として利用する以上の有効性を有するものではなく、拠るべき基本的な拠り所は1)ということになるが、1)は過去の決算情報から読み取ることでしか判断できない。その唯一の拠り所が粉飾などで歪められていることがわかった場合にはこれを補正する必要が生じるが、前述のとおり、永年に亘る複雑な取引の組み合わせを補正するには困難が伴う。粉飾に加担した担当者が解雇等により退職していればなおさらであるが、粉飾の全容解明ができない以上、過去情報はとても信頼するに足りない情報、ということになってしまう。

粉飾による過年度収益力の歪み
全容が解明されない以上、関係者に芽生えた疑念の払拭は不可能であり、いくら将来計画をち密に練り上げても、信頼すべき比較判断のための材料がないため、せっかくの計画も「絵に描いた餅」以上のものには決してなり得ない、ということになってしまう。

C. 正常営業キャッシュ・フロー創出能力の補正
会計上の利益は経営判断の介在する領域があるため、判断の相違によってその水準が変化することがあるが、キャッシュ・フローは現金同等物の増減額であるため、解釈の介在する余地はない、と言われることが多い。確かにそのとおりではあるのだが、キャッシュ・フロー区分の入り繰りは会計処理により操作することも可能である。例えば長期貸付債権の入金を通常の営業債権の入金であるかの如く処理すれば、本来であれば財務キャッシュ・インフローとなるべきものを営業キャッシュ・インフローとすることができるため、本業から生み出されるはずであるところの営業キャッシュ・フローは見かけ上は増えることになる。長期にわたって未回収のままの貸付債権に対する引当の積み増しは損益上は減益要因にはなるものの、現金支出を伴うものではないため、資金繰りに影響を及ぼすことはない。長期貸付債権が未回収であることについて、会計上は全額引当済みということになれば、損益にマイナスの影響を与えるリスクが最小化されているため、当該債権に対する問題意識は薄くなり、問題視される局面は少なくなるであろう。

また、キャッシュ・フロー区分には関係なく、全体としてのネットキャッシュ創出能力をある種の会計処理により大きく見せることもできる。全くの架空取引は入出金を伴わないため、キャッシュ・フローとの兼ね合いから必ず不整合が生じるが、見かけ上の入出金を現実に伴う、いわゆる循環取引と呼ばれる粉飾は、計上された売上に見合う入金を伴うため、表面上のグロスキャッシュイン、すなわち売上入金の創出能力は大きく見えることになる。一方で、仕入原価や労務費・販売経費といったコスト(キャッシュアウト)サイドは、売上(グロスキャッシュイン)を一定に維持したままであっても、例えば調達交渉やコスト削減といった自助努力で削減が可能な余地が多い。

両者を単純に合わせ見た場合、グロスキャッシュインからコストサイドのキャッシュアウトを差し引いたところのネットキャッシュは、「交渉や自助努力を以って大きく改善が可能」であるかのごとく見えてしまうことがある。
循環取引によるネットキャッシュ創出能力の歪み

こうした会計処理はその全容を解明しない限り、結果として、「当該事業は相応のグロスキャッシュ創出能力を有しており、一方でキャッシュアウトは自助努力によって削減する余地が大きい」という誤解を生む場合がある。本来は切り離して考えることのできないキャッシュ・フローの創出能力が歪められることにより、本来その事業が有している実力以上のネットキャッシュ創出能力を当該事業が有していると看做されてしまうのである。粉飾の全容を究明することなく再生可能性の判断を行う場合、通常以上の改善効果が見込まれるという誤解が生じることにより、本来であれば再生可能性の低い事業も「再生可能性あり」判定されてしまう危険を孕んでいると言えよう。

(3) 事業再生計画の立案と粉飾

再生対象企業に粉飾があること自体は判明しており、全容の解明には至っていないとしても、大まかな粉飾の規模感などが把握されているようであれば、関係者が過年度の決算情報をある程度読み変える眼鏡を持っている、ということになるため、場合によっては再生計画に関する関係者の合意が円滑に進む、といったケースもあろう。

しかしながら、前述した粉飾の「質」が悪質なケース、例えば関係者が粉飾の存在に全く気付かないまま対象企業が突然行き詰まり、原因が判明しないまま実態調査を行った結果、永年に亘る粉飾の存在が明らかにされるようなケースでは、関係者がそれまで築き上げていた信頼関係が失われる結果となることが多い。「可愛さ余って憎さ百倍」などという訳ではないが、必要以上に関係が硬化し、計画の合意目途が立たなくなるケースも見受けられる。こうした場合には、粉飾の全容が解明され、過去の決算情報がほぼ適切に補正されない限り、交渉が再開される見通しが立たないことになる。

いったん暗礁に乗り上げてしまうとメインバンクとしても短期的な資金手当てへの協力もままならなくなってしまう一方で、巧妙な粉飾はその全容の解明に時間を要するため、結果として全容解明までの資金繰りが維持できなくなり、本来であれば再生すべきであったかも知れない企業が事業継続を断念せざるを得ない状態にまで追い込まれてしまう。幸いにして、全容解明までの資金手当てがついたとしても、関係者が一度抱いた不信感の払拭にはさらなる時間を必要とするため、金融債権者による金融支援のスタンスにも悪影響を与えることとなり、結果、全体としての交渉の進行は明らかに厳しくなることが多い。

メインバンクだけが粉飾の存在を先に知っていたケースはより一層複雑な状況を招き、メインバンクの他行からの信頼感まで失われてしまうことにも繋がる。他行が交渉のテーブルを立ってしまえばメインバンクが単独で支援せざるを得なくなる。交渉が辛うじて継続したとしても、他行に所謂メイン寄せの原因を与えることになり兼ねず、支援の公平性が確保しづらくなることから、他行交渉が暗礁に乗り上げてしまうケースもある。

このように、粉飾の存在が疑われる企業の再生マネジメントには慎重な配慮が必要となるケースが多い。

再生対象企業に重要な粉飾があると疑われる場合には、通常の財務・税務DD、事業DDだけではなく、我々が「不正調査DD」と呼んでいる、粉飾の全容解明に重点を置いたDDを合わせて実施することが望まれる。粉飾の解明には高度な専門性と豊富な経験値が不可欠であるが、これらを欠いた通常スコープのDDのみに基づいて再生計画を描いた場合、思わぬところで足許を掬われかねない。緻密に練り上げたはずの事業計画が原因もわからないまま下ブレてしまい、打つ手がまったく見つからない、というケースなどは、気づかぬ過去の粉飾が事業のキャッシュ創出能力を歪め、関係者に誤解を与えたまま進行している可能性があるので要注意と言える。

近年の企業再生案件は本業であるコア事業そのものの収益力低下が主因となっており、数年前まで多く見られた「Bad事業」や「ノンコア事業」の切り離しだけでは収益性の改善が困難な、難易度の高いものが多くなっている。その意味でも、対象企業の過去の実力を的確に把握することは極めて重要であり、事業再生計画の成否を左右すると言っても過言ではないだろう。

本来の収益力を解明して、事業計画の軌道修正を的確に行うためにも、粉飾の解明に重点を置いた実態把握は今後の企業再生のカギを握る重要なスコープであると言えよう。

(4) 粉飾と財務分析の手法

会計上の粉飾行為を発見するための分析手法には様々なものがある。参考までに代表的な粉飾行為とこの兆候の発見に有効とされる財務分析の手法には以下のものが挙げられよう。

会計上の不正項目へ対応する財務分析手法の例

会計上の粉飾
行為 

対応する財務分析>

1.収益の早期計上 ・ 売上債権回転期間
・ 収益水準推移
・ 売上債権/月当たり(又は一日当たり)売上
・ {( 純売上(直近期)/ 純売上(前期))-1 } × 100
2.特殊な収益計上 ・ 売上債権回転期間
・ 収益水準推移
・ 売上債権/月当たり(又は一日当たり)売上
・ {( 純売上(直近期)/ 純売上(前期))- 1 } × 100
3.一過性項目による収益押し上げ ・ 収益に占める異常項目比率
・ 収益に占める特殊項目比率
・ (異常項目/総収益)× 100
・ (特殊項目/総収益)× 100
4.直近費用の翌期計上 ・ 売上総利益
・ 粗利推移
・ 売上高販管費比率
・ 売上高設備投資比率
・ 粗利/純売上
・ {(粗利(直近期)/粗利(前期))- 1 } × 100
・ (販売管理費/総収益)× 100
・ (設備投資/総収益)× 100
5.負債の記帳漏れ若しくは非開示 ・ 支払債務回転期間
・ 売上高支払債務比率
・ 売上高設備投資比率
・ 支払債務/月当たり(又は一日当たり)当期仕入
・ (支払債務/総収益)× 100
・ (設備投資/総収益)× 100
6.直近収益の翌期計上 ・ 支払債務回転期間
・ 収益水準推移
・ 売上総利益
・ 粗利推移
・ 売上高販管費比率
・ 売上高設備投資比率
・ 支払債務/月当たり(又は一日当たり)当期仕入
・ {( 純売上(直近期)/ 純売上(前期))-1 } × 100
・ 粗利/純売上
・ {(粗利(直近期)/粗利(前期))- 1 } × 100
・ (販売管理費/総収益)× 100
・ (設備投資/総収益)× 100
7.将来費用の直近期計上 ・ 売上総利益
・ 粗利推移
・ 売上高販管費比率
・ 売上高設備投資比率
・ 粗利/純売上
・ {(粗利(直近期)/粗利(前期))- 1 } × 100
・ (販売管理費/総収益)× 100
・ (設備投資/総収益)× 100
2. さいごに

企業再生の必要性がある経営不振企業の過去の業績、財務数値は様々な手法による粉飾決算の可能性があることを述べた。再生スキーム・計画の検討の基礎となる過去の業績、財務数値を誤って理解することは、会社の実情を反映しない事業計画や再生計画につながる。誤った理解は不適切な再生スキーム・再生計画に基づく弁済計画を生みだすこととなり、再生の失敗や二次破綻・再生計画の見直しに繋がることとなるであろう。
粉飾決算の兆候はこれを早期に発見することが重要であり、粉飾決算が発覚した際の実態把握により、まずは、再生企業の真の姿を確実に把握し、適切な再生計画の基礎となる過去の真の業績、財務数値の適切性を評価することこそが、企業再生の最も重要な第一歩となるであろう。

破綻に至る流れから再生プロセスへの移行

以上

・ 不況期における粉飾決算の早期発見と再生マネジメント 前編

 

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