2009.12.21 不況期における粉飾決算の早期発見と再生マネジメント 前編不況期と粉飾決算 |
1. はじめに
世界的な不況により、多くの経営者や規制当局者がかつて経験したこともないような課題に直面している。経営不振企業の多くは業績、財務状況が悪化する中、日々の資金繰りが最優先の経営課題となることが一般的である。そのような状況下、ありのままの財務諸表を金融機関や取引先に開示すると、自己査定における債務者区分が下がることにより、運転資金の折返し融資が受けられなくなったり、決済期日の短縮化を迫られたり、入札の参加資格を取り消される等、経営悪化に拍車をかけることがある。一部の経営不振企業には、厳しい経営状況を隠蔽し粉飾決算を行う潜在動機が生まれる可能性がある。実際、過去の一部の会社倒産事例において、粉飾決算が行われていたということは周知の事実である。したがって、企業再生では、過去の実績数値が粉飾により改ざん等が行われていた可能性も念頭においた上で、情報収集、調査、分析を行い、実態がどのようなものであったかを把握することが重要である。当該企業の実態把握なくして将来計画は作成できず、また、実態把握ができずに作成した将来計画は、再生計画自体が頓挫する可能性も否定できない。粉飾決算の有無、程度、手口、影響の分析を通じた実態把握こそ、企業再生に向けた第一歩である。
2. 不況期と粉飾決算
(1) 不況期における粉飾決算リスク要因
粉飾決算リスクを含む不正リスクの要因分析を実施する際にはドナルド・クレッシーが提唱した不正のトライアングルが知られており、通常、不況期においては、粉飾決算リスクが高まると言われている。調査人は対象企業の事業規模、所有形態又は状況を適切に勘案し、粉飾決算リスク要因を追加したり、他のリスク要因を識別し実態把握調査を実施する必要がある。
A. 粉飾決算を働く動機・プレッシャーの増加
一般的に粉飾決算を働く動機・プレッシャーによる要因とは、粉飾決算を実際に行う際の心理的なきっかけを意味し、処遇への不満や承服できない叱責等の個人的な理由や、外部からの利益供与、過重なノルマ、業務上の理由、業績悪化、株主や規制当局からの圧力等の組織的な理由が原因として考えられる。通常、不況期には、売上目標や予算達成へのプレッシャーがより強くなり、資本市場は売上高や利益の減少や悪いニュースに非常に敏感になるため、経営者や上級管理等者による粉飾決算へのリスクも伴って増加する可能性がある。また、ストックオプションやその他業績連動型の報酬を受けている経営者は、過度に強気な業績を従業員に求める可能性がある。
B. 粉飾決算を働く機会の増加
一般的に粉飾決算を働く機会による要因とは、粉飾を行うことが実行可能な統制環境が存在する状態を意味する。重要な事務を一人の担当者に任せている、必要な相互牽制、承認が行われていないといった管理の不備、さらに経営者または上級管理者による内部統制の無視や権限の逸脱等が主な原因である。通常、不況期には、事業縮小や経費削減要求が強まり、従業員数の減少による職務分離・相互牽制による効果的な内部統制の構築が困難な状況となる。また、従業員数減少は、従業員に以前とは異なる慣れない役割や責任を与えることになり、適時かつ正確な監視・報告が困難となる。
C. 粉飾決算を働く姿勢・正当化の増加
一般的に粉飾決算を働く姿勢・正当化による要因とは、粉飾決算を思いとどませるような倫理観等の欠如であり、粉飾が可能な環境下で、当該行為を働かない堅い意思が持てない状態を意味する。通常、不況期には、機会の増加と動機・プレッシャーの増加と相まって、粉飾決算を働く行為を容易に正当化してしまう。つまり、経営者や上級管理者等は、実態の売上高が減少しているにも関わらず、企業や従業員、株主のために粉飾決算を働かざるを得ないという心理に陥り、粉飾決算を働く行為を正当化する場合がある。

出典:デロイトトーマツFASが作成
(2) 粉飾決算の一般的な手口と類型
A. 粉飾決算の手口
粉飾決算の早期発見、粉飾決算発覚後の実態把握のためには、粉飾決算の一般的な手口と類型(パターン)を把握しておくことは重要である。通常、粉飾決算は、経営者や上級管理者等による内部統制の無視や権限の逸脱により引き起こされることが多く、主に以下のような手口により行われる。
経営成績の改ざん等の目的のために架空の仕訳記帳(特に決算日直前)を行う。
勘定残高の見積りに使用される仮定や判断を不適切に変更する。
会計期間に発生した取引や会計事象を財務諸表において認識しない、又は認識タイミングをずらす。
財務諸表に記録される金額に影響を与える可能性のある事実を隠蔽し又は開示しない。
企業の財政状態又は経営成績を不実表示するために仕組まれた複雑な取引を行う。
取引に関する記録と条件を変更する。

出典:Ten things about financial statement fraud(Dec. 2008)
B. 粉飾決算の類型
下記では、典型的な粉飾決算の類型および兆候を記載し留意するポイントを述べる。近年、これら典型的な粉飾を複数組み合わせ実行された粉飾決算が発覚し報道されている。これらは、循環取引や子会社を利用した粉飾決算など、古くからあるものの、特に循環取引においては、A.スルー取引、B.Uターン取引・まわし取引、C.クロス取引、バーター取引等様々な態様があり、物品の売買偽装からサービスの取引偽装まで、取引の多様化に伴い、粉飾決算も複雑化している。証憑が偽装され、資金の決済まで実施されている場合においては、過去の正常収益力を把握できないだけではなく、過去の正常営業キャッシュ・フローを把握することは困難であろう。このように複数の類型を使用した粉飾決算は、早期発見や発覚後の実態把握が困難であることは言うまでもない。
(ア) 売上の操作
売上高の過大計上や売上高の計上時期の操作は一番多く用いられる粉飾決算の類型である。前年対比および予実対比による売上高の趨勢分析、売上高成長率の同業他社との対比、売上債権回転期間の分析等の実施により整合性を慎重に検証することがポイントとなる。
| 売上の操作 | |
| 粉飾決算の類型(例) | 粉飾決算の兆候(例) |
| 売上高を純額でなく総額で計上する(仲介取引等)。 実態のない架空売上高を計上する。 売上高を先行計上する。 委託商品等の委託時において売上計上する。 |
長期的に売上高の増加と営業キャッシュ・フローの増加に連動性がない。 異常または複雑な取引が決算日直前に計上されている。 売上債権回転期間が異常に増加している。 同業他社の売上高成長率に比して著しく成長している。 |
(イ) 費用の操作
上述した売上高の操作の粉飾決算においては、費用操作(過少計上または不計上)。前年対比および予実対比による売上総利益率の趨勢分析、売上総利益の要因分析、当期純利益の同業他社との対比、当期購入した固定資産の価額の妥当性および減価償却方法の分析等の実施により整合性を検証することがポイントとなる。また、仕入先等との関係においては、汚職行為が実行されている可能性も念頭において検証する必要がある。
| 費用の操作 | |
| 粉飾決算の類型 | 粉飾決算の兆候 |
| 費用項目を資産項目に付替える。 費用の一部を計上しない、または、費用の繰延べを行う。 売上原価を営業外費用へ付替える。 |
純利益が著しく増加している、または、同業他社と比較して多額な利益が計上されている。 説明のつかない固定資産が著しく増加している。 純利益が増加しているにも係らず、営業キャッシュ・フローのマイナスが継続している。 返品率、製品保証引当金率が減少している。 返品調整引当金、製品保証引当金が同業他社に比して多額である。 |
(ウ) 不適切な資産の評価
売上高の過大計上および費用の過少計上は、それを隠すために資産の過大計上または負債の過少計上として現れる。特に資産の適切な価額が識別できるかがポイントとなる。資産の評価方法の継続性の検証、実地棚卸の有無の検証、異常に単価の高い資産、取引価額の合理性がない資産の分析、無形資産が組込まれた資産や頻繁に単価変更がなされている資産の分析等の実施により資産の評価を検証することがポイントとなる。
| 不適切な資産の評価 | |
| 粉飾決算の類型 | 粉飾決算の兆候 |
| 資産への単価調整により費用の付替えを行う。 資産の償却年数、償却方法の変更を行う。 必要な減損処理を実施しない。 公正価値評価額を変更する。 無形資産への付替えや取引価額の合理性がない資産の計上を行う。 |
純利益が増加しているにも係らず、営業キャッシュ・フローのマイナスが継続している。 業界での価格競争が激化している。 業界での倒産事例が増加している。 主観的な判断に基づき資産を評価している。 棚卸資産等が著しく滞留している。 |
(エ) その他の粉飾決算
後発事象、関連当事者との取引、会計方針の変更、債務保証等の注記情報を開示しなかったり、不適切に開示することも多く利用される粉飾決算の類型である。
以上
次回につづく。
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