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2011.08.25 ソルベンシーIIについて 第4回 ソルベンシーIIと日本

著者: 金融インダストリーグループ 相原 浩司

1. はじめに

第1回 ソルベンシーIIに至るまでの流れとソルベンシーIIの概要」、「第2回 QIS(定量的影響度調査)について」及び「第3回 内部モデルについて」に引き続き、EU(欧州連合)で検討されている保険会社のソルベンシー(健全性)(*1)の基準であるソルベンシーIIについて述べます。
最終回の今回は、ソルベンシーIIと日本というテーマで、まず、同等性(equivalence)に関して述べ、次に、日本における経済価値ベースのソルベンシー評価の検討状況について概観します。
なお、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りしておきます。
*1 ソルベンシー(健全性)については、『ソルベンシー(健全性)を巡る動向について』等をご覧ください。

2. 同等性について

ソルベンシーIIの枠組指令書には、以下の3つの事項に関する同等性が規定されています。

(1)再保険(第172条~第173条)
欧州委員会は、欧州連合域外の第三国にある本社との再保険について、ソルベンシーIIの対象となる保険会社等との再保険と同等であるかどうかを評価する要件を定めます。 同等であると認定された場合は、当該欧州域外本社との再保険契約は、ソルベンシーIIの対象となる保険会社等との再保険契約と同様に取り扱われます。 また、責任準備金や支払備金の欧州連合加盟国内での全額積立(欧州連合域外本社への出再部分を控除せずに積み立てること)(*2)を要求することは禁止されます。

(2)グループ・ソルベンシー(第227条)
ソルベンシーIIの対象となる保険会社等が欧州連合域外の第三国の保険会社等へ資本参加している場合は、当該第三国の保険会社等は、グループ・ソルベンシーの計算に限っては、(欧州連合域内の)保険会社等としてソルベンシーIIの計算方式を適用することを原則とします。ただし、その第三国がソルベンシーIIと同等のソルベンシー規制を設けている場合には、当該第三国の保険会社等は、当該第三国の要件に従いSCRや自己資本を計算することが可能です。

(3)グループ監督(第260条~第263条)
欧州連合域外に親会社がある保険会社等について、欧州連合加盟各国のグループ監督当局は、当該親会社の属する国のグループ監督体制がソルベンシーIIでのそれと同等であるかどうかを確認しなければなりません。
同等性が確認できない場合は、ソルベンシーIIによるグループ監督を適用しなければなりません。

(出典:
DIRECTIVE 2009/138/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 25 November 2009 on the taking-up and pursuit of the business of Insurance and Reinsurance (Solvency II) (PDFファイル)
に基づき筆者作成)
*2 日本では、一定の要件を満たす再保険者に出再した場合には、当該出再部分に関して、責任準備金や支払備金の不積立が認められています。(保険業法施行規則第71条第1項、第73条等)

3. 同等性に関する日本からの意見提出

当該指令書に関連してコンサルテーション・ペーパー(CP:Consultation Paper、諮問書)が何度か出されており、それらに対して日本の金融庁(JFSA:Japanese Financial Services Agency)、社団法人生命保険協会(LIAJ:The Life Insurance Association of Japan)、社団法人日本損害保険協会(GIAJ:The General Insurance Association of Japan)がコメントを出しています。
それぞれのコンサルテーション・ペーパーの内容とコメントについては同等性の評価を行うEIOPA(European Insurance and Occupational Pensions Authority、欧州保険・年金監督者会議)のWEBサイト
https://eiopa.europa.eu/consultations/consultation-papers/2010-2009-closed-consultations/november-2009/consultation-paper-no-78/index.html
https://eiopa.europa.eu/consultations/consultation-papers/2010-2009-closed-consultations/july-2010/consultation-paper-no-81/index.html
https://eiopa.europa.eu/consultations/consultation-papers/2010-2009-closed-consultations/september-2010/consultation-paper-no-82/index.html
で確認することができます。
また、社団法人日本損害保険協会のWEBサイトでは、一部のコンサルテーション・ペーパーに対するコメントの日本語訳を確認することもできます。
http://www.sonpo.or.jp/about/action/youbou/pdf/0003/2010_06.pdf (PDFファイル)
http://www.sonpo.or.jp/about/action/youbou/pdf/0003/2010_09.pdf (PDFファイル)
この日本語訳の中では、

日本の保険会社は欧州からの再保険の重要な引受手であり、もしも、同等性が認められないとして不合理な通商障壁が設けられる場合には、再保険コストのアップおよび競争力のある再保険市場の喪失につながる可能性がある。
本コンサルテーション・ペーパーにおいて、日本は再保険について第一次評価対象国となったが、欧州市場における日本の保険会社・再保険会社の重要性を考慮すれば、当然(natural)であると認識する。

(出典:
http://www.sonpo.or.jp/about/action/youbou/pdf/0003/2010_06.pdf (PDFファイル)
の10ページ。なお、
http://www.sonpo.or.jp/about/action/youbou/pdf/0003/2010_09.pdf (PDFファイル)
にも同様の記述があります。)
と述べられており、特に再保険に焦点が当てられていると考えられます。

4. 同等性の評価開始

EIOPAは、日本、バミューダ及びスイスについて同等性の評価を開始し、2010年12月には日本、バミューダ及びスイスの各国の監督規制とソルベンシーIIとの同等性についてコメントを募集しました。
(EIOPAにおけるコメントの募集は、
https://eiopa.europa.eu/consultations/consultation-papers/december-2010/call-for-evidence-solvency-ii-equivalence/index.html
なお、トーマツWEBサイト内
http://www.tohmatsu.com/view/ja_JP/jp/industries/fi/insurance/evb/index.htm
等もご参照下さい。)
日本については、再保険に関する同等性(枠組指令書第172条)のみがEIOPAによる評価の対象となっています。(バミューダとスイスは3つの同等性がすべて対象)
さらに2011年8月17日に、EIOPAが行った日本における同等性に関する評価の報告書案が公開されました。
 評価報告書案の第2章総合評価では、以下のように記載されています。

(ソルベンシーII枠組指令書の)第172条に基づく日本の同質性に関するEIOPAの勧告
30.EIOPAの勧告は次のとおりです。日本は、ソルベンシーII(の枠組指令書)の第172条の元でのEIOPAの同等性評価の手法に基づく条件を満たしていますが、以下に掲げるとおり、いくつか注意すべき点が存在します。

31.EIOPAは、監督当局としてのその権限及び責任に関して、日本の金融庁が(欧州と)同等であると考えます。

32.EIOPAは、そのプロフェッショナルとしての守秘義務に関して、日本の金融庁が(欧州と)同等であると考えます。この原則に関して、なんら追加すべき点は見当たりません。

33.EIOPAは、再保険業務に関する許認可権に関して、日本の金融庁が(欧州と)概ね同等であると考えますが、日本の保険会社等に、付随業務として保険業以外の業務を認めており、その中には、ソルベンシーIIに盛り込まれている原則と整合的でないものが存在します。
EIOPAは、日本の金融庁が、これらの付随業務を綿密に監視していることは認識していますが、保険業と保険業以外の付随業務とを同一の会社で行いうる可能性は、再保険の出再者として潜在的なリスクを抱えています。そしてそのことはソルベンシーIIの制度と大きく異なります。

34.EIOPAは、当局向け及び公衆へのディスクローズ(開示)要件に関して、日本の金融庁が(欧州と)概ね同等であると考えます。保険会社等に問題点が発見されたり、保険会社等の業績が悪化したりした場合の監査人の当局への報告に関して更に強化、促進すべき部分があります。また、開示要件については一層の改善の余地があると注釈します。

35.EIOPAは、業務、経営陣、主要株主の変更要件に関して、日本の金融庁が(欧州と)概ね同等であると考えます。日本の(保険業)法では、金融庁に株主構成に関する許認可権を与えています。具体的には、金融庁は、主要株主の認可により、株主の適切性や適格性をコントロールすることが可能です。しかし、それは、ソルベンシーIIで株主構成の変更に関して当局が介入する閾値を明確に設けているのとは、整合的ではありません。

36.EIOPAは、再保険会社に対するソルベンシー制度に関して、特に、日本の保険会社等に適用されている責任準備金及び支払備金に関する各種要件を勘案すると、日本の金融庁は(欧州と)部分的に同等であると考えます。EIOPAは、以下のとおり注釈します。それは、急速にその事業を拡大している新規参入業事業者の中には、責任準備金及び支払備金の保守性について、保険会社等のそれと同じ水準まで義務付けられないところがでてくるであろうということと、現在の責任準備金及び支払備金は、市場整合的に評価されていないということです。
負債の市場整合的な評価に関して想定される措置が完了すれば、日本の金融庁は(欧州と)概ね同等なものになるものと期待されます。

(出典:
Consultation paper no. 5 - EIOPA Draft Report - Equivalence assessment of the Japanese supervisory system in relation to article 172 of the Solvency II Directive
(PDFファイル)のページを筆者和訳)

上記の記述からは、EIOPAは、特に日本の現行法制における負債(責任準備金、支払備金)の評価方法について懸念しているものと考えられます。
 この報告書案に対するコメントは2011年9月23日まで募集されています。

5. 日本における経済価値ベースのソルベンシー評価の検討状況

最後に、日本における経済価値ベースのソルベンシー評価の検討状況について概観します。
前回の「第3回 内部モデルについて」でも引用した2011年5月24日に公表された金融庁「経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に係るフィールドテスト-結果概要-」(PDFファイル)の「今後の検討の方向性について」では、

○ 国際的にも、IAIS(*3)において経済価値ベースの基準策定が行われていること、あるいは、2013年1月には欧州において「ソルベンシーII」導入が予定されていることなど、経済価値ベースの保険負債評価を前提とした枠組みに関する議論が進展しているところである。こうした動向を十分に見据えつつ、我が国の保険市場にふさわしいリスク感応度の高い規制内容を構築することが重要である。
(14ページ)

とされ、日本の保険監督当局もソルベンシーIIやそこで議論されている経済価値ベースの保険負債評価に重大な関心を寄せていることが示唆されます。
*3 International Association of Insurance Supervisors、保険監督者国際機構。詳細については、金融庁のWEBサイト「保険監督者国際機構(IAIS)について」(PDFファイル)等をご参照ください。
 また、上記の引用箇所の直前では、

○ 上記のとおり、様々な課題等が認識されたところであるが、こうした課題のうち、とりわけ、経済価値ベースの保険負債等の計算やリスク測定等における内部モデルの利用といった実務的な課題等については、日本アクチュアリー会(*4)や損害保険料率算出機構等の専門組織と連携し、さらに検討を進めていく方針である。
(14ページ)

と、日本アクチュアリー会等の専門組織との連携の必要性が述べられています。
*4 社団法人日本アクチュアリー会。同会は、定款(PDFファイル)第3条によると「アクチュアリー学の総合的調査研究活動を通じ、アクチュアリーの専門職としての職務遂行能力の維持向上を図り、その関与する事業の健全な発展に寄与することを目的とする」社団法人とされています。ここで、「アクチュアリー」とは、「保険料、掛金、責任準備金と呼ばれる負債等を確率論や統計学の知識を用いて算出する保険・年金数理の専門職種」のことです。以下、単に「日本アクチュアリー会」といいます。

これを受けて、2011年6月30日に日本アクチュアリー会のWEBサイトに「経済価値ベースのソルベンシー基準についての検討体制強化について」というお知らせが掲載されました。
その概要は以下のとおりです。

(1)日本アクチュアリー会では、これまでも、「ソルベンシー検討WG(ワーキング・グループ)(生保)」「ソルベンシー検討WG(損保)」を設置し、経済価値ベースのソルベンシー基準に関して検討してきた。

(2)より専門性の高い課題を集中的に検討するために以下の6つのWGを設置
(a)特別課題第一WG
主として、生命保険の保険事故発生率等に関係する課題の検討
(b)特別課題第二WG
主として、損害保険の保険事故発生率等に関係する課題の検討
(c)特別課題第三WG
主として、解約・失効等に関係する課題の検討
(d)特別課題第四WG
主として、割引率および金利リスク等に関係する課題の検討
(e)特別課題第五WG
主として、支払備金・再保険等に関係する課題の検討
(f)特別課題第六WG
主として、リスクマージン等に関係する課題の検討

(3)また、上記各WGの検討をとりまとめるとともに、金融庁と連携した検討にも対応するために、「ソルベンシー検討総務部会」を新設

(4)更に、金融庁と日本アクチュアリー会が連携した定期的な検討会(名称は「ソルベンシー・ジョイント・スタディ・グループ」)が、2011年6月28日からスタート

(出典:
日本アクチュアリー会WEBサイト
経済価値ベースのソルベンシー基準についての検討体制強化について
に基づき筆者作成)

6. まとめ

これまで4回にわたってソルベンシーIIを概観して参りましたが、 最後に述べたように、日本国内における経済価値ベースのソルベンシー評価の検討は、今後本格化していくでしょう。
金融庁や日本アクチュアリー会から公開されるであろう検討状況や検討結果に注目していくべきと考えます。

以上

 

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