CSRの持続可能性―会社を元気にするCSR活動を求めて―『企業リスク』2009年4月号より転載 |
厳しい経済情勢のもと、CSR活動もその存在意義を厳しく問われる時代になった。個々のCSR活動を棚卸し、環境や社会に対する貢献度だけでなく事業活動における位置づけも確認する必要がある。その検討方法の一例として、Deloitteグループの開発したサステナブル・バリューマップを使った方法を紹介する。
なお本文中の意見にわたる部分は私見であることをあらかじめお断りしておく。
1.CSR活動は淘汰の時を迎えた
新聞、テレビの報道では、毎日のように雇用の問題が取り上げられている。派遣労働者の雇い止めに続き、正社員の削減にまで手をつけざるを得ない企業が続出している深刻な事態だ。このような状況下で、企業に雇用の維持を求める意見の中では、それが「企業の社会的責任」であるという言葉が頻繁に使われている。しかし企業の側としても、生き残りをかけて苦渋の決断をしているわけで、万が一倒産してしまった場合には何倍もの雇用が失われることになる。問題は一筋縄ではいかない。
このような中で、企業のCSR活動は淘汰の時代を迎えている。他社もやっているから、イメージアップになる(ような気がする)から、というような表面的な理由で取り組んできた活動は、継続が難しくなるだろう。一方で事業活動の中に深く根差し、それ自体が収益の源泉にもなっているような活動は生き残っていくだろう。しかし多くの場合、CSRレポートに登場する各種の活動が事業活動の中でどのように位置づけられ、事業価値の向上にどう貢献するかは明確に整理されていないのではないだろうか。全体の予算枠が縮小する中、より価値のある活動にリソースを配分するためにも、CSR活動を棚卸し、それぞれの活動の存在意義を再確認することが必要だ。
2.2種類のCSR活動
一口にCSR活動と言っても、その範囲は多岐にわたる。ざっと挙げただけでも、コンプライアンス、リスクマネジメント、温暖化対策、ワーク・ライフ・バランス、グリーン調達、地域のボランティア活動、エコプロダクツなど、あらゆる観点が含まれるが、これらの活動は図1のように、価値の保護(バリュー・プロテクション)と価値の創造(バリュー・クリエイション)の2つに大別できる。価値の保護には、コンプライアンスや製品の品質管理など、企業が社会からの信頼を得るために必須の活動が含まれる。この種の活動は、どこまで手厚くするかの差はあれ、不況下だからといって急にやめてしまう企業はあまりないだろう。ここを疎かにした結果、不祥事を起こして企業の存続をゆるがすことになった例を数多く見ているからだ。一方、価値の創造は、例えば地域貢献、従業員の子育て支援など、ステークホルダーに付加価値を提供するものである。この活動を上手に選んで取り組むことで、企業はその企業らしさをアピールすることができる。しかし自由である分、必須ではないため、厳しい環境下では往々にして削減対象になりがちである。こういった活動は関わった人を元気にするため、本当は厳しい時にこそ必要なものだと言うこともできる。
図1:CSR活動の分類

3.サステナブル・バリューマップ
価値創造活動も含むCSR活動の棚卸方法として、Deloitteグループの開発した「サステナブル・バリューマップ」を活用した方法を紹介したい。図2は、サステナブル・バリューマップの構成を示した図である。巨大なマトリックスになっており、横軸(最上段の項目)には売上、利益、資産などの事業価値(株主価値)を分解した項目が並んでいる。これに対し縦軸(左端の列の項目)は、サステナブル価値である。こちらは「事業インプット」「事業オペレーション」「事業アウトプット」などのバリューチェーンに沿って、サステナビリティに貢献する価値が並んでいる。なお、縦軸・横軸とも項目は図中に示したものより更に細分化されている。例えばサステナブル価値の「天然資源管理の最適化」という項目には、更に下位の項目があり、水資源、大気など天然資源の種類別に項目が並んでいる。マップ中の縦軸・横軸の交差した位置には、両方の価値を増大させる活動例が記載されている。
図2:サステナブル・バリューマップ(全体構成)

図3はマップ中の1マスを拡大したものである。縦軸のサステナブル価値「事業が環境に与える影響の最小化」と横軸の事業価値「新規顧客の獲得・既存顧客の維持と拡大」の交差するところに、両方に貢献する活動例としてカーボン・オフセット付き商品の販売などが記載されている。
図3:サステナブル・バリューマップ(一部分を拡大)

4.CSR活動のマッピング
このマップ上に、既存のCSR活動がどのような価値の保護または創造に関係するかをプロットしていく。「オフィスの使用電力削減のための社員教育」というCSR活動を例に取ろう。電力の使用を削減すれば温室効果ガスの発生を抑制することが可能になるため、左側のサステナブル価値では「天然資源管理の最適化」の中の「大気」に該当する。一方事業価値では、光熱費の削減になるため「利益」の中の「一般経費」に該当するだろう。これでこの活動のマップ上の位置が決まった。同様に他の活動も、マップ中の活動例を参考にしながらプロットしていく。
図4は、価値の保護と価値の創造の両方の活動をプロットしたイメージ図である。こうすることで、すべてのCSR活動について、サステナブル価値と事業価値にどのように貢献するかが語れるようになる。
図4:サステナブル・バリューマップ上に、価値保護と価値創造の取り組みをマッピングした例(イメージ)

5.期待効果の指標化と優先順位づけ
ここまでのマッピングで、個々のCSR活動がどのような事業価値と関連するかを検討したが、更に、価値の保護や創造にどれだけ貢献したかを検討することで、活動間の優先順位をつけることができるようになる。そのためには、期待効果(価値の向上度)を指標化する必要がある。例えば、サステナブル価値であれば、CO2の削減量や製品の品質トラブルの件数減少などを3~5段階のランクをつけてマッピングする。一方事業価値については極力金額換算するが、それが難しい場合はこれもランクづけする。図5は、そのマッピングのイメージである。
右上に行くほど、双方の価値に大きく貢献する活動ということになり、活動の優先順位付けができる。
これは現状の活動の棚卸の時ばかりでなく、活動候補の中から実際に取り組むものを選ぶ際にも大いに参考になるはずだ。もちろん、必ず右上のものから順に選ばなくてはいけないというわけではない。例えば、途上国の生活環境改善に多大なる貢献をする活動を、事業価値には結びつかなくとも実施するというような、やせがまんの選択があっても良い。CSRは企業の価値観を反映するものだからである。しかし事業価値への貢献度は、その活動に社内の納得を取り付けるための重要な説得材料になるだろう。
図5:CSR活動の期待効果のマッピング


