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2010.01.25 診療科別原価計算の経営への活用

著者: 公認内部監査人 水垣 活也

1.はじめに

診療科別原価計算を実施している医療機関は数多くあると思われるが、その計算結果については、果たしてどの程度活用されているであろうか。計算自体は事務局が実施している場合が殆どであっても、計算に必要なデータ集計の精度、配賦基準等計算の前提の脆弱性により、計算結果の説明に当たり、事務局以外の医療従事者からの質問に耐えられず、事務局内部での検討資料にとどまったまま、十分に活用されていないケースが多いのではないだろうか。本稿では診療科別原価計算の実施過程で収集されるデータを活用して、経営に役立てる方法を考察してみる。なお、本文中の意見に関する部分は私見である。

2.診療科別損益の見せ方

診療科別原価計算は、医業費用について診療科を単位として計算することをいう。しかしながら、一般には、その計算結果を、医事会計等で集計される各診療科の収益と対比して損益を計算する形で用いられることが多く、それを診療科別損益計算と呼ぶこととする。診療科別損益計算は、診療科別の損益を表示し、場合によっては、その内訳として入院・外来別に損益を表示することも可能である。
診療科別損益計算は色々な目的で利用することができるが、一般には、診療科の業績を評価するために利用することが多い。診療科別損益計算の結果を医療従事者、特に医師に示した場合、まず自分の診療科の医業利益(もしくは医業損失)の欄に目が行くことになろう。そして、そこに示された自科の損益が赤字であった場合、すんなりと納得してもらえるかどうかは疑問である。どのような計算前提・過程でそのような結果が導かれたかについて説明を求められることは必至であろう。
診療科別損益計算の結果を医師に理解し、納得してもらうためには、見せ方にも工夫が必要である。診療科別損益計算の表示形式は、その意図するところによって色々なパターンがあると思われるが、一例を示したのが図表1である。この形式は、医業費用を各診療科に固有の費用と診療科共通の費用(診療に係る費用とそれ以外の費用)とに区分することによって、医業利益を段階的に表示したものである。
図表1の形式を採る利点は、医業利益を段階的に示し、結果を合理的に説明することにある。貢献利益はその診療科に固有の費用を控除した段階の利益であるが、よほどでない限りプラスであり、その診療科固有の利益として示される。診療科利益は自科診療のために負担するコメディカル部門の費用を控除した段階の利益であるが、ここは診療科の診療を支えるコメディカル部門の利用の程度・方法によってプラスにもマイナスにも振れる。このように、医業損益を段階的に示して、どの費用負担が自科の医業損益を圧迫しているかを説明できれば、納得も得やすくなると考えられる。

図表1:診療科別損益計算表(例)

診療科別損益計算表(例)

3.角度を変えた原価の分析検討

診療科別原価計算の結果は経営改善の施策検討にも利用することができる。費用構造に着目し、医業費用を構成する一定の要素を部分的に抽出して、少し角度を変えた見方をしてみる。例えば、病棟原価に焦点を当てた検討事例の一部を紹介する。
病棟原価は病棟ごとに区分できる。一般病棟、救急病棟、集中治療室、結核病棟を有している場合として示したのが、図表2である。病棟原価の中心は人件費と設備関係費であるが、このうち、人件費はそれぞれの病棟に勤務する看護師等に応じて計算されるため、病棟の種別や看護基準によって変動する。一方で、設備関係費は主に病棟建物の減価償却費であり、それぞれの病棟の床面積に応じて計算されるため不変である。

図表2:病棟の原価計算表(例)

病棟の原価計算表(例)

図表2からは、病棟原価のほとんどが看護師等の人件費と建物等の減価償却費で占められていることがわかる。ここで、仮に一般病棟の病床利用率が低く、入院患者数の増加を図ることも難しい状況にあるとして、看護基準を10対1から7対1に引き上げることにより、入院収益の向上を図ろうとする場合を想定する。
一般病棟の入院患者数が今後も大きく増減しないという前提であれば、一般病棟の一部を閉鎖し、一般病棟の総病床数を減らすとともに、閉鎖した病棟の看護師を再配置することによって、稼働病床における看護基準を引き上げることができると考えたとする(図表3参照)。

図表3:一般病棟の原価計算表(例)

一般病棟の原価計算表(例)

この場合、稼働病床1床当たりの費用は看護師の再配置に伴い増加することとなる。上記の例では稼働病床の1日1床当たりの費用が12,000円から13,288円に上昇している。病棟固有の収益として、入院基本料だけを捉えた場合に、これまで10対1以上の看護基準で病棟から利益が出ていたものが、この再配置による7対1以上の看護基準でも利益が出るという試算結果になれば、そのプランは一応、検討に値すると考えられる。
しかし、稼働病床の原価だけに目をとられてはいけない。閉鎖した病棟の不稼働病床1床当たりの費用も考慮する必要がある。病棟を閉鎖したとしても、閉鎖した病棟の費用はゼロにはならない。建物の減価償却費に相当するスペース費用と維持管理費用が依然、固定費として発生しているのである。ある病院では、閉鎖している病棟の1床当たりの費用は年間約15万円かかっているという計算結果が出ている。当たり前の話だが、この不稼働病床分の費用も稼働している病床の収益で賄う必要があることを考慮に入れて判断しなければならないのである。

4.おわりに

このように、診療科別損益を診療科の業績評価に活用するには、計算過程や条件の理解もさることながら、合理的に説明でき、納得してもらえる示し方の工夫が必要である。そして、診療科別原価計算は業績評価以外にも、不稼働病床の1床当たり費用といった未利用資源に係る費用を計算することで、違った視点から経営資源の有効活用とコストへの意識付けが可能になる。皆様の病院でも未利用資源のコストを計算してみてはいかがであろうか。

以上

 

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