病院原価計算 【第3回】 原価計算の方法~その2~2009.07.23 |
1.はじめに
本連載の「【第1回】 実践に向けた基礎の確認」で原価計算へ取り組むに当たっての留意点を整理し、「【第2回】計算アプローチと留意点」で病院における原価計算の展開をステップ別に解説した。今回は、病院原価計算の代表格である診療科別原価計算と、近年注目されつつある患者別原価計算について解説する。
なお、本文中の意見に関する部分は私見である。
2. 診療科別原価計算
診療科別原価計算は「診療科」という病院特有の概念に基づいた原価計算である。第2回の部門別計算の解説で詳述しているが、原価部門としての部門は、放射線部や検査部、手術部などの中央診療部門のように行っている業務(診療行為)とその業務を行う物理的な場所が明確である。それに対し、「診療科」は標榜診療科として掲げられている案内板にその存在を見ることしかできない。最近は各診療科専用の外来診察室を設けている病院が多いが、外来診察室というのは外来患者の診察を行う場所である。病棟も混合病棟あるいは特定診療科の専用病棟として運営されているが、病棟というのは入院患者を一定の療養環境のもとに置いてケアする場所である。つまり、ある診療科の業務が、外来から入院まで一貫して、ここで行われていると識別できる特定の場所はないのである。それゆえ、何を業務として行っているかという視点では、「診療科」を原価部門と捉えることはむしろ適当でないと言えよう。「診療科」というのは医師の所属あるいは診療分野を示す概念であり、医師を中心とした計数管理で用いるべき単位である。診療科別に原価を計算・集計しようとする場合は、その点を十分に理解して欲しい。
一般的に行われている診療科別原価計算では診療科を一つの原価部門として設定する。その時、各診療科とも外来と入院とに区分されている。であれば、外来としての診療科は外来診療室のイメージ、入院としての診療科は病棟のイメージを持って原価部門として見るのが適当であろう(図表1)。
図表1 原価部門としての診療科

次に、具体的な計算方法であるが、前回解説した費目別・部門別計算を基礎として行うことになる。一般的な診療科別原価計算では、費目別・部門別に展開した病院原価を階梯式配賦法や直接配賦法と呼ばれる手法により、補助・管理部門、中央診療部門の費用を各診療科へ配賦する(図表2)。配賦計算にはほかにも方法があるが、方法以上に重要なのが配賦計算するためのドライバー(配賦基準)である。配賦計算というのは、あくまで簡便的な方法であるため、配賦基準として何を採用するかで計算結果が大きく左右される。採用した配賦基準が十分な合理性を備えていないと、計算結果も合理的に説明できなくなり、その利用者の納得を得ることはできない。そうなると、計算結果を有効に活用することが難しくなり、ただ計算しただけに終わりかねない。どうしてその配賦基準を採用したのか、その配賦基準を採用した場合に想定される影響は何があるのかを、事前に計算結果の利用者に理解してもらっておけば、そうした事態を回避することも可能であろう。
図表2 階梯式配賦法と直接配賦法

ただし、ここで原点に戻って考えてみたい。配賦計算に限界があるならば、何が何でも配賦しなければならないという考えに固執しなくてもよいのではないかと。原価計算を組織管理に活用する場合、視点を変えて目的に応じた工夫をすることで十分に活用できる方法はないかと。一つの方法として、配賦基準ではなく配賦対象や範囲を工夫してみることが考えられる。
よくとり上げられる問題として、共通費や因果関係が不明な費用までも配賦するがために却って説明ができなくなっているということがある。例えば、補助・管理部門の費用を職員数比で配賦することが多いが、それらを配賦することの意義について、本当に配賦しなければ、結果の利用目的が達せられないかという視点で振り返ってもらいたい。補助・管理部門は病院という施設を維持運営するための基礎的な部門であるならば、それらを診療科に配賦したところで、どれほどの意義があるのだろうかと。程度の差はあれ、病院としての機能を果たすために必要不可欠なものであるとするならば、組織管理の視点からは敢えて診療科との係わりを捨て、固定費としてどこまで絞れるかにだけ焦点を当てた方が経営判断として十分かもしれない。
例えば、中央診療部門の代表である放射線部の費用を撮影件数で配賦する場合、利用度に応じた配賦は理に適っていると思われる。ただし、前年と比べ、放射線部の費用は大きく変動していないにもかかわらず全体として利用が落ち込んだ時に、前年並みの利用度であった診療科には前年以上に放射線部の費用が配賦されることになり、その診療科にとっては本来なら他科が負担すべき費用を何故負担しなくてはいけないのかと主張するかもしれない。中央診療部門も、機能の違いはあれ、病院が果たす診療機能のために備えているものであると考えれば、稼働率こそが重要であり、診療科に費用を配賦することが重要ではない。そう考えれば、落ち込んだ原因を追究して、如何に向上させるかの対策に注力し、各診療科に利用度の状況を知らせ、要因を分析してもらうとともに、対策を練ってもらえば、中央診療部門の費用を配賦することに固執する必要はないかもしれない。
結局、配賦計算は簡便的な方法なのだから、どの範囲までを配賦すれば目的に適った計算結果を得られるかを考えることが肝心と言えよう。医療はモノづくりではないため、病院原価計算の結果は自ずと損益・採算への関心を高めることになる。そして、診療科原価を診療科損益として業績管理の指標に用いることになるが、病院経営の観点からは診療科固有の業績だけでなく、病院施設全体としての業績も同時に測っていかなければならない。このときは、病院機能を支える診療科以外の中央診療部門や補助・管理部門の費用を回収する役割を一定の基準で診療科へ担わせることが避けられない。これにはある意味割り切りが必要であり、その場合でも、配賦された費用について、診療科に対して適切に説明できるように意義づけをして結果を見せることが極めて重要となる。
図表3 費用の意義づけと利益概念

3. 患者別原価計算
医師が行う治療は疾病を直接の対象としたものであり、医学的な研究も疾病・症例を対象として行われている。しかしながら、その疾病を患っているのは「患者」であり、「患者」はそれを治癒するために必要な診療行為の提供を受けている。その診療の客体(医療サービスの受益者)である「患者」を軸に、診療に係るあらゆる情報が管理されているのである。
例えば、入院の場合、入院後に手術や検査を受けながら一定期間療養して退院することとなる。この入院から退院までの治療期間中に実施された診療行為はすべてカルテに記録される。そのカルテに記録された実施情報をもとに入院期間中の診療報酬を計算し、患者ごとにレセプトと呼ばれる請求明細を作成し、自己負担分は患者本人へ、残りは保険者へ請求する。このように診療情報、収益情報と「患者」は医療において普遍的な管理単位となっている。ならば、同じように原価についても「患者」を単位として計算しようというのが患者別原価計算である。
図表4 患者と医療情報の関係

患者別原価計算の方法については、前回解説した行為別計算が基礎となる。簡単なイメージとしては、行為別計算で算定した診療行為ごとの単位原価をもとに、ある患者に対して実施した診療行為の実施記録から、それぞれの単位原価を積算することによって、その患者の治療に要した原価を計算する。なぜこのような計算過程を経るかというと、医師は疾病と患者の容態を勘案して、治療方針を決定し、必要な診療行為を実施するが、例えば、同じ疾病名であっても、患者の状態によっては異なる治療方針が選択されるように、全く同じ診療内容であるということを前提とせず、治療方針の違いが財務的に測定・評価できるようにと考えてのことである。その計算イメージを図化したのが図表5である。
第2回のおさらいになるが、費目別・部門別計算で各原価部門に紐付けられた費用を対象として、その部門が実施した業務(提供した診療行為)について、1診療行為当たりの単位原価を計算する。この行為別計算において、原価部門が行う業務(診療行為)は単純に割り切れるものではないが、どの程度まで類型化・細分化するかが計算結果の精度(質)を左右する。と同時に、計算自体もそれに比例して煩雑となる。どの程度まで求めるかは費用対効果と結果の活用を整理して決めることになる。
図表5 患者別原価の計算アプローチ例

公定価格となっている診療報酬が、従来の出来高方式から包括支払方式へと移りつつあるなかで、DPC(Diagnosis Procedure Combination)というコード体系と相まって、疾病別の採算管理・コスト管理への関心が高まってきている。DPCを用いたベンチマーク事業が色々な機関で実施されているが、そうした取組みには診療内容の改善、すなわち医療の質の向上という目的の一方で、効率性の追求という目的も併存している。診療情報だけであれば医学的な見地からの評価が必然と重くなるが、そこにコストあるいは損益の情報が加わると、別の評価や選択肢が生まれてくるはずである。
製造業では、生産性・効率性を追求し、改善の余地を検討するために原価計算が活用されている。医療では生産性・効率性を第一に追求することはあり得ないと思うが、医業経営においてはそれらを全く無視することもできないはずである。
例えば、クリニカル・パスを経済的に評価・検証する場合に、この患者別原価計算の方法が活用できるように、医療の質の向上と医業経営の安定化の双方の達成しようとする時、行為に基づいた原価が見えるということが、説得力をもって現場へ訴えるためには重要なことであろう。
患者別原価計算、ひいては疾病別・DPC別原価計算は医療分野におけるテーマとされてきたことであるが、IT化による情報インフラの整備によって、その実行可能性は現実味を帯びてきている。病院原価計算への前向きな取組みに、少しでも役立てればと願ってやまない。
※本シリーズで連載してきた病院原価計算については、トーマツヘルスケアグループ編著の『原価計算が病院を変える―これからの病院経営のための理論と実践事例』でも解説しているので参照されたい。
以上

