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2011.05.24 納得感のある評価の仕組みとは - 病院人事評価制度再考

著者: ヘルスケアコンサルティング部 吉岡拓也

1.はじめに

病院にとって「ヒト」が極めて重要な経営資源であることは改めて言うまでもありませんが、この「ヒト」を上手く動かすための仕組み(=人事制度)をきちんと構築し、コントロールできている病院は果たしてどの程度存在するでしょうか。 病院における人事制度の運用状況を現場の方々に尋ねてみると、看護師だけで独自に目標管理を運用している、あるいは医師を除いて制度を導入している、といった話をよく耳にします。病院は様々な職種の協業により機能する組織である以上、全職員が一体となって病院理念や方針に沿った行動をとる必要があるため、一部の職種のみ導入されているという状況では、きちんと「ヒト」の行動をコントロールできているとはいえないと考えられます。
そもそも「人事」の機能とは何でしょうか。筆者は「ヒトのモチベーションを高め維持しつつ、病院の考える方向に動いてもらうこと」が人事機能の最たる目的であると考えています。今回は改めて、この「ヒト」を動かす機能の中でも重要な部分である「評価の仕組み(以下、人事評価制度)」について再考してみます。なお、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りいたします。

2.「人事評価制度が上手く運用できている」とは

前述の通り、人事評価制度について、自信を持って上手く運用できていると断言できる病院はあまり多くはないと思われます。一方で、人事評価制度が上手く運用できている、と判断するのも難しいと思われます。多くの職員から評価に対する不満の声が聞こえる、評価が却って職員のモチベーションを下げているなど、明らかに病院組織にとってマイナスとなる現象が起きていれば、運用が上手くいっていないと考えられますが、そのような具体的な不満が聞かれない中では、人事評価制度が上手く運用できているのか正確に判断するのは難しいのではないでしょうか。病院の業績は医業収益や病床稼働率など定量的な指標をもって判断できますが、職員の評価が上手く運用できているかどうかについては、病院の業績を示す定量的な指標からは単純に判断しにくいのが通常です。では、人事評価制度が上手く運用できているかどうかを判断するためには、具体的にどうすればよいでしょうか。筆者は、「人事評価制度の運用により、実現させたい目的を明確にし、実現できた状態を具体的にイメージした上で判断するための指標を設定し、その測定方法を明確にすることである」と考えています。この実現させたい目的については、病院によって様々な内容や表現があると思いますが、筆者の考えとして、「各人が評価結果に納得感を持ち、その評価結果に基づき病院理念や方針に沿った行動変革が実現していること」が一つの目的になり得ると考えています。この目的を実現できたかどうかを判断するためには、例えば、評価の仕組みの中に理念評価や病院方針が反映された指標などを盛り込み、それらの評価結果が毎年向上しているかどうかで確認する方法が考えられます。また、職員意識調査を定期的に実施し、職員の評価への納得感が向上しているか、モチベーションは向上・維持しているかを確認するのも方法の一つです。実際には、評価の内容や調査内容を煮詰めて考える必要がありますが、実現できた状態を具体的にイメージできるかどうかがポイントになります。

図表1 人事評価制度が上手く運用できている状態・できていない状態(例)

人事評価制度が上手く運用できている状態・できていない状態(例)

3.「納得感のある評価」を実現するためには

「評価の納得感を高めることが大事だ」とは言うものの、実際にはそんなに簡単なことではありません。読者の皆さんにも過去、評価結果が必ずしも芳しくなかったものの、「評価されてよかった」「自分の成長のために必要だった」といえるような経験が少なからずあるかと思います。納得感があったといえる評価は、どのような特徴を持っているのでしょうか。「評価結果の納得感を高める」ためには、少なくとも次の4つの条件が担保されている必要があると筆者は考えています。

(1) 評価内容の妥当性
(2) 評価方法の妥当性
(3) 評価プロセスの透明性
(4) 評価者・被評価者の信頼関係

(1) 評価内容の妥当性

人事評価制度が導入されている一部の病院では、全職種統一の評価項目で、かつ一般的な内容に終始していたり、接遇やマナーなどの評価項目が多く、職員間で殆ど格差がつかないようなケースが見られます。職種、等級や役職が異なるのであれば、当然、評価内容も相応のものにすべきであると考えられます。また、評価内容が職員の行動を規定することを考えると、当然ながら病院理念や方針を反映した評価内容にすることも必要となります。例えば、医師は業績に対して一定の責任を担っていると考えられますが、それを評価するためにはまず病院が追うべき成果指標を絞り込み、その指標に直接的につながる個人の成果指標を設定することになります。成果を上げる過程についても、当院の医師として患者への対応がどうあるべきかをより具体的にイメージできるような評価内容にすることが重要です。このように評価項目の内容を慎重かつ具体的に検討するとともに、常に見直しをかけていくことが求められます。

図表2 評価内容の例(患者対応の場合)

評価内容の例(患者対応の場合)

(2) 評価方法の妥当性

ここでいう評価方法とは、部下の仕事ぶりを的確に観察・把握している者が実際に評価者として選定されているなど、適切な方法により実施できているか、ということを指しています。例えば、看護師長には20人以上の部下がいて、夜勤などシフトが違うと直接仕事ぶりを観察できない場合が多いので、どのように評価すればよいのでしょうか、という話をよくお聞きします。一般的には、直接の上位者が評価するということになりますが、そのルールをそのまま適用すると感覚的な評価に終わってしまい、納得感が得られない可能性があります。評価のための環境が的確かつ十分でない状況にあるならば、上位者が評価者になるという原則を踏まえつつも、例えば、看護主任クラスが一部の評価を担う、あるいは患者からの評価や同僚による評価など多面的な評価を導入するといったことを検討する余地があります。評価者は「物理的に観察できるか」「能力的に観察できるか」の2点を踏まえ、状況によってはそれぞれの役割を分担することも検討しながら被評価者から納得の得られるような工夫を講じることが必要です。

(3) 評価プロセスの透明性

評価のための面談は行ったものの、最終的な評価結果がどのようになったのかわからない、といった話を現場職員からよく耳にします。最終的な評価が曲げられる可能性があるのであれば、「どうせ最終評価は変わるのだから」と評価の仕組みそのものに対する不信感を抱かれてしまう可能性があります。そこで、最終評価への納得感および評価の仕組みそのものへの納得感を高めてもらうために、評価プロセスの透明性を高めることが必要となります。例えば、期初では評価項目の開示とどのような基準で評価を行うかについて具体的に説明を行い、期中では評価見込みとその根拠、期末までに必要な行動や成果を具体的に示し、期末には最終評価とその根拠を伝え、最終評価結果は二次評価者により変更の可能性があるなど、隠し立てすることなくきちんとそのプロセスを開示・伝達することが重要です。

(4) 評価者・被評価者の信頼関係

4つ目の条件として、評価者・被評価者の信頼関係が挙げられます。これは仕組みというよりも前提条件となるべきものです。どれだけ公平・公正に、かつ透明性を高めて評価を行ったとしても、上司・部下間における人間関係に問題が生じている状況であれば、どのように運用しても納得感を獲得し難くなってしまいます。いかに上司・部下間で日頃からコミュニケーションをとり、お互いが少なからず尊重し合える仲になっておくかが、評価の納得感を獲得する上で重要なポイントです。

図表3 評価結果の納得感を獲得するためのポイント
評価内容の妥当性 評価内容は職種・等級・役職などが反映されたものとなっているか?
病院理念や方針がきちんと反映されたものになっているか?
評価方法の妥当性 物理的・能力的に観察可能な評価者が設定されているか?
上記が不可の場合、評価の妥当性が担保できるような工夫がなされているか?
評価プロセスの透明性 期初から期末まで、進捗管理を行いながら、本人が納得するようなプロセスを踏んでいるか?
最終評価が決定するまでのプロセスを隠すことなく説明しているか?
評価者・被評価者間の信頼関係 評価者と被評価者で、日頃からコミュニケーションを取れているか?
一定の信頼関係がある中で評価が実施されているか?

4.おわりに

「評価に関する納得感の獲得」にテーマを絞り、筆者の考えをまとめましたが、人事機能を考えるに当たっては評価機能だけでなく、採用、異動、育成、報酬、代謝など、各人事機能をトータルでデザインする必要があります。特に病院組織においては、医師や看護師の人材確保・維持は経営を左右する根幹的なテーマです。それゆえ、納得感のある人事評価制度を構築し、運用していくことは医師・看護師を引き止めておくための重要な手段となり得るため、本稿を参考に各病院における評価制度運用の一助となれば幸いです。

以上

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