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2010.07.28 M&A投資のリスクマネジメント 第4回 多様化する製薬業界のM&A動向

著者: デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 大日方 隆、有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 藤多 洋幸

1.はじめに

2007年以降、製薬業界でのM&Aの動向が大きく変化している。これまでの連載で国内製薬企業によるバイオベンチャーやジェネリック企業の買収が相次いでいることを紹介したが、今回は、製薬業界におけるM&Aの変遷を振り返ると共に、直近の多様化したM&Aの目的を整理し、今後の動向を推察してみたい。なお本文中、意見にわたる部分は私見であることをあらかじめ申し添える。

M&A投資のリスクマネジメントシリーズ

第1回 リスクマップによるリスク管理
第2回 シナリオDCF法によるパイプライン評価
第3回 異業種の参入で競争激化するドラッグストア(DgS)業界
第4回 多様化する製薬業界のM&A動向

近年のM&Aの変遷は、大きく2つのステージに分けて整理できる。まず第1のステージが1990年代から2000年代前半にかけての大手企業同士のM&Aである。そして、第2のステージが2000年代半ば以降に活発となった、大手製薬企業によるバイオベンチャー等の買収に代表される動きである。第1のステージでは多くのM&Aが、規模の拡大を目的としたものであったが、第2のステージは目的が多様化していることが特徴である。その背景には、従来の低分子化合物の利用を前提にした新薬開発手法の限界とバイオテクノロジーの発展に伴う技術革新があげられる。
国内製薬業界では、国内市場の停滞やジェネリック医薬品の普及等、外部環境の変化を受けて、新薬開発に限らず、新たな成長源の確保が求められている。こうした状況下、国内製薬企業は今後の成長に向けた様々な目的でのM&Aを進めている。

2.製薬業界におけるM&Aの変遷

1990年代以降、製薬業界では、欧米企業を中心に大手企業同士の統合が、国境を越える形で展開された。こうした欧米製薬企業の巨大化のトレンドに追従する形で、日本でも大型のM&Aが続いた。国内各企業もグローバル市場において欧米企業と競合しうる規模を獲得するべく、2000年代半ばには、大手製薬企業同士の合併が相次いだ。また、外資大手製薬企業も日本市場におけるさらなる売上拡大を目指し、国内製薬企業への資本参加・子会社化も進められた。
これらのM&Aの目的は、規模を獲得することによって、売上高に対する研究開発費の増加(図表1)への対応や、製薬企業における各薬剤の開発から販売までの一連のライン(体制)であるパイプラインの充実、販売インフラの拡大を図るとともに、重複部門の合理化による収益性向上にあった。こうした発想は、ビジネスの成功モデルが、長らく、一製品で10億ドル以上を稼ぎ出すブロックバスター薬の開発・上市であったことが大きい。また、国内製薬企業にとっては、これまで各社の成長を支えてきた主力製品が今後数年間で相次いで特許切れとなる「2010年問題」も、統合を急がせた大きな理由のひとつである。

図表1 各年の売上高上位10社の平均研究開発費

図表1 各年の売上高上位10社の平均研究開発費

(出典)日本製薬工業協会「日本の製薬産業―その規模と研究開発力―」より

しかしながら、こうした規模の追求を目指したM&Aが近年大きく変化し、国内製薬企業のM&A戦略が多様化した。その原因は大きくふたつ考えられる。
ひとつは、新薬開発における技術革新である。年々増加する研究開発費とは反対に、新薬開発の成功率は低下し、ブロックバスターの開発・上市が困難となる一方で、バイオテクノロジーの進展により抗体医薬の普及が現実のものとなってきたのである。
もうひとつは、国内市場の環境変化が挙げられる。国による医療費抑制政策のもと、薬価引下げが続くとともに、ジェネリック医薬品の普及可能性が高まるなか、もはや国内市場全体の規模拡大は望めず、製薬企業各社は新たな成長源確保の必要性に迫られている状況である。加えて、海外投資家の株式保有比率の増大により資金を効果的に投資すべきとの株主からのプレッシャーなど、近年の日本企業におけるコーポレートガバナンス上の変化も無縁とはいえないであろう。
こうした実情を背景に、各企業は規模以外の目的をM&Aで追求しはじめた。グローバル全体で見ても、いわゆる「メガディール」は減少し、2000年代半ば以降はグローバル大手製薬企業同士の統合は一段落している。しかし、個々のディールが小規模化する一方で、製薬業界のM&Aの全体規模は堅調に推移している。
近年のM&Aの傾向は、各社の状況に応じその目的が多様化しているとともに、ライセンシングやアライアンスそれに伴う資本提携など、形態が多様化していることも特徴である。

3.多様化したM&Aの目的

それでは、近年のM&Aの目的は具体的にどのように変化してきているのだろうか。近年の国内企業におけるM&Aは、特定疾患領域の強化/特定技術領域の強化/市場の地理的拡大/新薬以外の事業拡大等を主な目的として、行われてきた。
特定疾患領域の強化では、薬剤による治療法がいまだ発展途上段階にある癌領域のパイプライン拡充、研究開発力の強化を目的として、国内大手企業による、癌領域のパイプラインを保有している海外企業の買収、もしくはライセンシングが相次いでいる。
特定技術領域の強化では、抗体医薬技術の強化が各社共通の課題としてあがるであろう。中長期的な視点では、バイオテクノロジーの進展に伴う抗体医薬の普及が現実のものとなり、抗体医薬品の保有が一定売上確保の前提となる可能性が高いことから、国内製薬企業の間でも、抗体技術の獲得を目的とした海外企業の買収や技術提携が相次いでいる。また抗体技術の更なる強化を目的とした国内企業同士の統合も行われている。
市場の地理的拡大を意図したM&Aでは、日本国内市場規模の大きな伸長が期待できないなか、これまで海外への進出が限定的だった準大手、中堅企業を中心に動きが見られる。大手企業の間でも今後需要の拡大が見込まれる新興国での事業拡大を目的とした動きが展開されつつある。
そして、新薬以外の事業拡大については、国内におけるジェネリック医薬品市場拡大の見込みを受けて、新薬企業のなかでもジェネリック市場進出への足がかかりとして、M&Aを行う動きが活発化している。また、日本のジェネリック市場進出に向けた、外資ジェネリック企業と、国内の新薬もしくはジェネリック企業とのM&Aが今後活発化する可能性も高いであろう。

4.今後のM&Aの流れと求められる対応

今後は、各社の状況や規模に応じたM&Aの多様化が一段と進んでいくことになるであろう。国内製薬企業を見渡すと、大手企業の方向性はグローバルで欧米大手企業と伍するべくメガファーマとしての生き残りを図ろうとしていることが明らかになってきたものの、準大手・中堅以下の企業の多くは、方向性がまだ明らかとなっていないように見受けられる。今後は準大手・中堅以下の企業が以下のようなさまざまな方向性を探りつつ、再編が続くと想定される(図表2)。

(1)GE(ジェネリック)/OTC(一般用医薬品)メーカーの買収による事業の多角化
(2)準大手・中堅新薬メーカー同士の合併によるメガファーマ化
(3)国内外バイオベンチャーの買収による自社R&D強化、
(4)外資新薬メーカーによる出資・子会社化に伴うパイプライン強化 等

図表2:準大手・中堅新薬メーカーの今後のM&Aの方向性

図表2:準大手・中堅新薬メーカーの今後のM&Aの方向性

得意分野において国際的にも一定の評価を得る研究開発力を有する新薬開発企業「スペシャリティファーマ」の中に、比較的規模の小さい企業でも大きな研究開発の成果を活かして成長していく「グローバルニッチファーマ』や、得意分野に研究開発を絞り込んで国際競争力の強化を図る「グローバルカテゴリーファーマ』、を将来の製薬企業の方向性として厚生労働省も提示している(厚生労働省2007年新医薬品産業ビジョン)。
そしてM&Aの実行に際しては、今後はこれまで以上に自社の進むべき方向性を明らかにし、どのような補完・強化が必要になるのかを見極めることが必要になるであろう。
デロイト トーマツ コンサルティングが主に過去2件以上の合併・買収の経験がある日本企業を対象に 日本企業におけるM&Aの実態及び意識について2006年9月~2007年1月に実施した調査(図表3)では、M&Aの成功に向けては、戦略立案が最も重要なフェーズであり、次いでアフターM&Aが重要であるという回答がみられた。そして、戦略立案時には、的確な外部環境分析・内部環境分析、さらには分析後のシナジー効果の予見が重要という結果であった。

図表3M&Aサーベイ結果

M&A成功のための重要なフェーズ(回答割合)
n=160(もっとも重要)、159(次に重要)

図表3M&Aサーベイ結果

戦略立案フェーズにおいて重要な実務(回答割合)
n=161(もっとも重要)、160(次に重要)

戦略立案フェーズにおいて重要な実務(回答割合)

デロイト トーマツ コンサルティング株式会社による「日本企業におけるM&Aの実態及び意識調査」
調査時期:2006年9月~2007年1月
調査方法:アンケート用紙への記入
調査対象:主に過去2件以上の合併・買収の経験がある日本企業(合併にはグループ企業の吸収合併と共同持株会社化を含む)
調査母数」:アンケート回答した企業数162社、N値は有効回答数

つまりは、自社が進むべき方向性を踏まえたM&Aの目的を明確にすること、M&Aの実行により見込まれる効果だけでなく想定される事業統合にともなう各種リスクを的確に評価することが、M&Aの成功に繋がるということである。そして、自社の目的に適った迅速なM&Aの実現のためには、ターゲット企業を見つけてから戦略を立案するのではなく、常日頃からM&Aを経営戦略実現の一手段として捉え、ターゲット選定のプロセスのみならずM&A全体の意思決定ポイント、意思決定機関を明確にした検討フローの整備、ターゲット企業選定基準・候補企業リスト、バリュエーション基準・指標の整備・更新、統合後に必要となる作業とシナジー効果算定方法(PMI:Post Merger Integration)の明確化といった、組織的にM&Aに対応しうる体制を築いておくことが欠かせないと考えられる。
第5回目となる次回は、M&Aのリスクを最小化し、効果を最大化するために重要となるPMIの考え方を紹介し、その具体的な進め方について言及していきたい。

以上

 

M&A投資のリスクマネジメントシリーズ

第1回 リスクマップによるリスク管理
第2回 シナリオDCF法によるパイプライン評価
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第4回 多様化する製薬業界のM&A動向

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