CRE戦略における保有不動産の有効活用について ~開発におけるフィージビリティスタディの考え方~2010.06.21 |
1.はじめに
『CRE戦略の真価』ではCRE戦略の実現に向けたアプローチについて紹介したが、本稿ではより具体的にCRE戦略における保有不動産の有効活用について考えたい。CRE戦略においては、さまざまな要因により保有不動産の有効活用を考えることが想定される。
- 遊休地を持て余している
- 会社の発展のため、新たに不動産開発事業を展開したい
- 低稼働や老朽化した物件をどうにかできないだろうか 等
こういった場合に、保有不動産を現状のままにしておくべきか、新しく再開発するべきか、はたまた売却すべきか判断に迷うことがある。また有効活用のために開発を行っても、開発後のビルに大幅な空室が発生したり、予想していたよりも賃料が下ブレしたり、建築コストが嵩んで採算が合わなくなるといった問題が発生するケースもある。本稿においては、このような保有不動産の開発を検討する際に必要不可欠となるフィージビリティスタディの手法と実務上の留意点について、各アセット間の比較を行いながらみていきたい。なお、本文中の意見に関わる部分は私見である。
2.フィージビリティスタディの必要性
フィージビリティスタディは主に以下のような場面で必要とされる。
- 不動産開発を目論む際の内部検討用資料として
- テナント誘致の際の検討用資料として
- テナントとの交渉用資料として
- 金融機関・株主等の利害関係者への説明用資料として
これらからわかるように、フィージビリティスタディは事業の投資採算性を把握するためおよびその事業計画について内部承認を得るための参考資料としての位置づけの他、利害関係者との交渉や説明に用いられるケースもあることから、客観的視点に立った事業の経済合理性判断が必要となる。
3.フィージビリティスタディの手法と実務上の留意点
前述の内容を踏まえ、フィージビリティスタディの一般的な流れ、およびフィージビリティスタディの手法と実務上の留意点について具体的に示していきたい。
フィージビリティスタディの一般的な流れ
新規開発事業における一般的なフィージビリティスタディの流れは、以下の通りである。
図表1 新規開発事業における一般的なフィージビリティスタディの流れ

フィージビリティスタディの手法と実務上の留意点
(a)事業目的の明確化
不動産開発事業を目論む目的は様々に考えられ、その目的により狙うべきアセットタイプ、ハードルレート等が異なってくる。そのため、事業目的は初期段階で明確にして関係各者のコンセンサスを得ておく必要がある。
≪主な事業目的の例≫
- 安定的な収益を得られる物件を保有する目的
- 多少リスクが高くてもハイリターンな物件を開発する目的
- 不動産開発利益を得る目的
- ステイタスシンボルとしてのメッセージ性を重視した物件を開発する目的
(b)アセットタイプの検討
契約および賃料形態・収益構造・保有リスク等について、オフィス・共同住宅・ホテルを例に各アセット間の具体的な比較を行ったものが以下の表である。
図表2 賃貸収益物件としての用途間比較
| オフィス | 共同住宅 | ホテル | |
|---|---|---|---|
| 契約形態 | ・普通賃貸借契約 ・定期建物賃貸借契約 |
・普通賃貸借契約 ・定期建物賃貸借契約 |
・定期建物賃貸借契約が多い |
| 賃料形態 | ・固定賃料 | ・固定賃料 | ・固定賃料 ・歩合賃料 ・固定賃料+歩合賃料 |
| 収益性に影響を与える主要因 | ・立地 ・建物スペック ・維持管理状況 |
・立地 ・建物スペック ・維持管理状況 |
・立地 ・建物スペック ・ホテルカテゴリー ・ホテル事業収益 |
| 保有リスク | ・競合物件の新規供給可能性が高い ・政府の施策や再開発推進による大量供給リスク ・普通賃貸借契約が多く、常に空室率リスクを伴う ・新線開通等により動線がかわり、エリアポテンシャルが低下する可能性 ・賃料上昇改定の困難性 |
・競合物件の新規供給可能性が高い ・普通賃貸借契約が多く、常に空室リスクを伴う ・賃借人として個人が中心となることによる、賃料滞納・居座り等の発生可能性 ・賃料上昇改定の困難性 ・ライフスタイルの変化等の時代のトレンドの影響を受けやすい ・一般に新築時が上限の賃料と考えられる |
・賃借人が退去した場合の新たなる賃借人探索の困難性 ・賃借人変更における、改修に要する多額のCAPEX拠出の必要可能性 ・アセットの特殊性によるファイナンスや出口計画策定の困難性 ・賃料上昇改定の困難性 ・歩合賃料を採用した場合、マーケット変動の影響を大きく受ける可能性がある |
同じ賃貸収益物件であっても、オフィスや共同住宅についてはマーケット相場がエリア毎に概ね形成されており、その不動産運営収益を予測することは比較的容易であるが、ホテルについてはその前段としてホテル事業収益をもとにした負担可能賃料を把握する必要があるため、そもそもの賃料把握手法が異なり、投資判断の際の難易度は高いといえる。
アセットタイプを検討するうえでは、特に各用途間の保有リスクをよく理解し、明確化された事業目的との整合性について確認しておく必要がある。
(c)事業環境分析
アセットタイプにかかわらず、事業環境分析を行う際の主な調査・分析項目の概要は以下のとおりである。新規に開発を計画する場合、そのエリアの現状を把握し、さらにその将来にわたる予測を行うことは必要不可欠な作業となる。また、各アセットについて横並びの調査分析を行うのではなく、アセットごとの特性に基づいた項目の調査分析が必要となる。
図表3 事業環境分析概略
| 要因 | 主な項目 |
|---|---|
| 一般的要因 | ・不動産市況に影響を与える経済状況 ・法制・税制等の改正 |
| 地域要因 | ・商圏分析 ・需給動向 ・周辺エリアにおけるマーケット賃料、稼働率 ・競合物件調査 ・新規供給予定 ・建築可能用途の把握 ・開発許可、建築規制緩和措置 ・建築コストの推移 |
| 個別的要因 | ・街路状況 ・交通アクセス ・利便施設等の配置 ・日照、眺望、景観 ・土壌汚染の有無 |
(d)開発企画
事業環境分析で得られた分析結果をもとに、実際の計画用地における開発企画を以下の手順で行う。
- コンセプトの明確化
前述の事業環境分析による、エリアの地域的特性や対象地の個別的特性をもとに対象地におけるターゲットテナントを明確にし、想定する建物のコンセプトを構築していく必要がある。例えば、オフィスであればテナント企業の業種・規模等の法人属性、共同住宅であれば居住者属性、ホテルであれば宿泊客属性等を十分に意識してコンセプト作りを行う必要がある。
- 建築計画の策定
決定したコンセプトをもとに、実際の建物についての建築計画を策定していく。
≪主な留意点≫- マーケットの需給バランスを踏まえた容積率(建物ボリューム)消化
マーケットの長期需要予測に合わせて床面積を消化する必要がある。開発には一定の時間を要するため、企画時と竣工時で経済環境が大きく変化する可能性があり、需要予測を誤ると竣工後に大幅な空室が発生することがある。 - コンセプトと実際の設計との一致
コンセプトと設計のアンバランスはのちに収益構造の根幹を揺れ動かす事態になりかねない。 - 設計のプランニングを外部に委託する場合
設計者の経験が大きく影響するため、その経験の有無を十分に把握しておくのが望ましい。
- マーケットの需給バランスを踏まえた容積率(建物ボリューム)消化
- 資金調達手法の検討
資金調達の手法としては、自己資本拠出・コーポレートローン・ノンリコースローン等の手法のうち、金融マーケット情勢や他のプロジェクトでの借り入れ状況を勘案して選択される。
≪主な留意点≫- 自己資本と借入金の構成割合及びその利率
事業計画を左右するため、十分な検討が必要である。特にノンリコースローンの場合、開発物件の金利は、既存物件の金利よりも高くなること等に留意すべきである。 - DSCR(*1)をもとにした返済能力の余裕度
たとえ借入比率が低くおさえられていたとしても、その返済額が事業により得られる純収益を上回ってしまっている場合には、当該事業の継続を圧迫する要因となりかねない。
(*1) DSCR:Debt Service Coverage Ratioの略で、借入金償還余裕率を示す。毎年のNOI(純収益)÷年間元利返済額で算出される。
- 自己資本と借入金の構成割合及びその利率
- 事業収支計画の策定
- 適正な賃料把握手法
一般に、オフィスビルや共同住宅開発において、規模やスペック、設備等が同じ物件を隣合わせで建築することを想定した場合、その設定賃料水準はほぼ同値であると推測されるため、対象と類似性の高い賃貸事例を多く収集することが適正な賃料水準を把握する第一歩となる。
ただし、先述の通り企画時と竣工時では経済情勢等の変化により、賃料水準が大きく変化することも考えられるため、足元の賃貸事例の収集のみならず、長期的な賃料の変動やキャッシュフローの下ブレリスクをあらかじめ考慮し、中長期にわたって安定的な賃料・キャッシュフローを予測することが必要である。同様に、賃料支払原資となるホテルの事業収益についても、中長期的な視点から見たキャッシュフロー想定が必要である。 - 初期コスト
不動産開発事業において、建築コストはその事業採算性に大きな影響を与える要因のひとつである。
- 適正な賃料把握手法
≪主な留意点≫
- 将来のコスト変動予測
特に2007年から2008年にかけてのような急激な上昇過程においては、見積書の数値の有効期限を短縮されるケースもあり、過去の建築物価指数の推移等を参考に、一定の予備費を計上しておく等のリスク補完措置を講じておくことが必要である。 - 中長期的な目線で建築費の交渉
目先のコスト削減にとらわれ、建物グレードを低くしすぎると、施工ミスや建築基準法違反、仕様低下による将来的なランニングコスト発生のリスクを招きかねないことに留意すべきである。
(e)投資採算性の検証
これまでの結果を踏まえて、事業化を決定するための最終的な投資採算性の検証、IRR (*2)分析を行う。IRR分析による活用例は下記の通りである。
(*2)IRR:Internal Rate of Returnの略で、全ての正のキャッシュフローの現在価値と全ての負のキャッシュフローまたは資本的支出の現在価値が等しくなる割引率をいう。
- いくつかのアセットを並行して検討している場合
それぞれの事業収支計画をもとにしたIRRを把握し、当該事業の目的が「会社の利益を最大化すること」であれば、最も高いIRRが得られるアセットの開発を推進していくことが望ましいと考えられる。 - 当該事業が会社として新たなる開発分野への布石という位置づけの場合
得られたIRRが会社の掲げているハードルレート(*3)よりも高いかどうかが一定の指標となると考えられる。
(*3)ハードルレート:投資案件について、最低限求められる収益率
4.おわりに
今回はフィージビリティスタディの必要性とその手法等について述べてきたが、確実なフィージビリティスタディを行うことにより、開発用地のポテンシャルを最大限発揮し、リスクを出来る限り排除しうる事業計画を策定することは可能である。本稿が、読者の関係する保有不動産の開発において何らかの手掛かりとなれば幸いである。
以上

