Thought Leadership スマートフォンが招くネットワーク渋滞2010.03.01 |
スマートフォンの急速な普及はモバイルネットワークの深刻な交通渋滞を招く。この交通渋滞は通信機器市場の救世主になるかもしれない。またスマートフォンベンダーやSNS、クラウドサービスもモバイルネットワークの交通渋滞の緩和に協力できるはずだ。
このトピックスは、デロイト トウシュ トーマツの情報・メディア・通信(TMT:Technology, Media and Telecommunications)グループが編集した『Telecommunications Predictions 2010』から、通信業界のモバイルネットワークの交通渋滞の緩和と環境問題に関する予測と提言を翻訳したものである。また、このトピックスは主に欧米市場の調査にもとづくものである。なお、訳注は翻訳者の私見である。
モバイル網の混雑が通信機器市場の成長を牽引
2010年のICT産業全体の成長率は3.3%前後、うち通信機器市場の成長率はほぼ同率の3.2%と見込まれている。一方モバイルネットワーク向け通信機器市場の成長率は倍近い約7%増になる見込みだ。この数字は1990年代末の2ケタ成長より小さいが、過去2年との比較では改善する。その理由は、携帯通信事業者のモバイル・ネットワークのトラヒックの混雑を緩和する通信技術への投資計画が、大きく貢献するからだ。このモバイルネットワークの性能向上に寄与する通信技術市場は、ITC市場全体の成長率を大きく上回る伸びを示し、通信機器市場より10倍も高い30~40%の成長が期待できる。こうした高い成長をする市場は、大きくハードウェア、ソフトウェア市場に分かれる。
ハードウェア市場では、バックホール(backhaul)、アンテナ、フェムトセル(femtocell)に関するテクノロジーがある。また米国に限定されることになるが「ネットの中立性」に対する規制当局の判断によってはパケット内のデータの中身を検査するテクノロジーも含まれよう。またWiFiも、過剰な負担のかかるセルラー網から帯域幅を減らす手段として成長する可能性があり、デバイス市場や半導体市場などの成長も見込まれる。
訳注:『Thought Leadership 従量制課金へ移行するモバイルキャリア』では、ネットワークの中立性と絡めて、この問題について触れている。
ソフトウェア市場では、圧縮、ストリーミング、キャッシング技術が挙げられる。また高速固定回線でウェブサイトを閲覧すると、ポップアップ広告、プリロール、HD動画、リッチメディアを見かける。モバイルネットワークでは、こうした「無駄なコンテンツ」を排除し、ネットワークとユーザへの負担を激減させる「無駄を省いた」バージョンが有効的だろう。こうしたバージョンを簡単に提供するソフトウェアのニーズもある。
訳注:プリロールとは、短い動画による広告のこと。プリロールの有効性は賛否両論である。
スマートフォンが招いたモバイル網の交通渋滞
モバイルブロードバンドのテクノロジーは10年近く前から普及しているが、消費者が実際に高速無線通信のメリットを享受できるようになったのは欧米ではノート型パソコン、ネットブック、スマートフォンの普及が始まった2009年からである。その普及の最大の理由は、これらのデバイスの優位性にあるというよりは、事業者が端末に多額の販売奨励金をかけたことと、日本では常識となった「定額制」、欧米では“all you can eat”と呼ばれているデータ通信の料金プランを採用したことにある。この新しいモバイルデバイスの普及が、消費者のモバイル・ブロードバンド利用に拍車をかけている。このため2010年の年初時点で、これらのデバイスによるモバイル・ブロードバンド接続件数は6億件前後に達すると予想がある。この結果、世界のモバイルデータ通信網は、18カ月以内に交通渋滞に陥るだろう。
その結果、携帯電話会社は、モバイルネットワークの能力不足に直面する。しかし、データ・トラヒックの大半が従量制でないため、必要なネットワーク更新の支出に見合うだけの増収が得らない。ネットワークの能力問題は2014年までにWiMaxとLTE(Long term evolution)で対応することになっているが、2010年はまだこれらの技術が全面的に導入されていない。このため、その間をどう乗り切るかが事業者の課題となる。しかも、スマートフォンがシェアを伸ばしており、ネットタブレットなどの新たなブロードバンドなモバイルデバイスが人気を博しているため、事態はさらに悪化するだろう。
訳注:ネットタブレットは、スマートフォンやノートPCの間にポジショニングされたモバイルデバイス(携帯端末)で、価格は400ドルから800ドル、重量は500g未満。サイズは20cm×12cm×2.5cmである。
簡単に解決できない交通渋滞
こうした問題はすぐに解決できるほど単純ではない。多くの地域で周波数の割当が済み、完全に利用されているからだ。また電波オークションでの購入価格も高く、その償却費用の負担は今でも重い。人口密集の都市部では、用地が確保できて認可が下りたとしても無線通信はすでに過密状態にある。HSPA+やHSPA7.2など、「つなぎ」の3G技術でさえ全面的に有効なわけではない。これらは通信用タワーの近接地域では最高速度を上げられるが、少しでも遠ざかったり(500メートル超)建物内に入ったりすると、速度が急激に速度が落ちることがある。
携帯通信事業者が、世論の批判を覚悟で、従量制課金やリッチユーザーのトラヒック管理など、強引なやり方を使っても、加入者が求める高速性のニーズに対応しなければならない。しかし、モバイル・ブロードバンド体験を改善する技術に多額の投資をしても、すぐには利益に結びつかない。過去のデータからみて、事業者が、例えば何%かモバイル帯域幅の能力を改善すると、加入者は少なくともその2倍のデータ量を消費するという。つまり、2010年にネットワーク能力を拡大しても、「データを大量消費する加入者(data-gulping consumers)」がそれ以上に利用してしまい、結局、事業者は収益を減らし、加入者は相変わらず不満に感じるわけだ。
最後に、これが最も重要な点だが、ネットワークの混雑問題は、少数のユーザーに高額のブロードバンドのダウンロード料金を課したからといってもどうなるものでもない。むしろ、数分ごとに利用ニーズが変わる多くのモバイル・ユーザーに、大きく異なる双方向の帯域幅を提供しているからだ。ある調査によると、スマートフォンは他のモバイル・ブロードバンド対応コンピュータに比べ、ネットワークの信号負荷が8倍も高いという。
Bottom line デロイトの提言
通信機器ベンダーの事業機会はどこに?
LTEとWiMaxのネットワークが完全に整備されると、通信機器の大手ベンダーは何十億ドルもの売上を手にする。しかしそれまでは、新規参入企業がモバイルネットワークの効率化を図る有望な技術は開発し、販売するべきだ。こうした設備の単価が小さく、従来型のモバイルネットワーク機器のメーカーすなわち数十億ドル規模の売上の企業が参入する市場ではない。しかし全般的にワイヤレス・ブロードバンド需要の驚異的な伸びが続いているため、LETネットワーク構築の実施が前倒しされる可能性がある。
訳注:ここに日本の通信機器ベンダーの海外再進出の事業機会がある。日本の選択肢は2つある。日本の経験を生かして欧米のネットワークの効率化を支援する方法。もうひとつは世界のLTEの普及を一気に進める方法である。日本のベンダーが、日本のキャリアの対応に資源を割かれ、キャリアに気兼ねをすると、その事業機会の芽はつぶれ、再び海外での日本の活躍がそがれることになる。
スマートフォンの提供者にも責任が
またスマートフォンのメーカーは、ワイヤレス通信網を「酷使している」端末の生産者という問題当事者であるからこそ、解決に一定の役割を果たしうる立場にある。端末メーカーが、競合他社に比べてネットワーク利用を低減できる技術を採用すれば、事業者はその端末を中心に販促活動を行い、販売奨励金を集中させる可能性がある。
訳注:この問題を解決するひとつの方法について、MVNO協議会ではキャリアの持つ縦のプラットフォームの機能のアンバンドル化を示唆している。MVNO協議会は縦のプラットフォームについて、2010年12月17日の総務省のタスクフォースで発表している。また、その内容はネット上のビデオで閲覧できる。
参考: グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース合同ヒアリング資料(平成21年12月17日 MVNO協議会)
WiFiも解決策のひとつ
こうした課題の解決する支えるサプライサイドサイドの鍵の一つは、WiFi対応携帯電話の促進だろう。もうひとつの鍵はWiFiホットスポットの増加である。
訳注:最近一部のキャリアからWiFiの促進の発言が出ているが、明らかにこの流れを読み込んだ動きと思われる。
クラウドサービスのできること
ソーシャル・ネットワーキング、クラウド・コンピューティング、ストリーミング・メディアなどの企業は、モバイル・ブロードバンド・ネットワークに依存している。しかし、こうした企業は、リアルタイムに変動する帯域幅に適応できるソリューションを開発したり、ブロードバンドのパイプが細くなったときでも機能できる無駄を省いたバージョンを提供するなどして協力することができるはずだ。
訳注:日本でも、利用者がネットワークの効率化を図るテクノロジーをサービスプロバイダに提供するハイテク・ベンダーが存在する。こうした企業は、表舞台に出てこなかったり、大手企業の牽制を受けてるが、たくましく生き残っている。こうしたベンチャーを大企業に育てていく仕組みをもっと整備していくべくだろう。
以上
※本稿は、『Telecommunications Predictions 2010』より抜粋したものです。タイトルをクリックすると、原文掲載ページが開きます。
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