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2010.03.08 Thought Leadership 電子出版はマイクロペイメントが鍵

著者: デロイトリサーチ編著/監訳:トーマツTMTインダストリーグループ 桃井 智徳 池末成明/翻訳:高橋みはる/訳注:池末成明

電子書籍は専用リーダーよりパソコンやスマートフォンで読まれるだろう。新聞・出版業界はコスト管理を踏まえた新しい戦略が必要だ。その戦略の成功の握は、読者の行動様式に合致したマイクロペイメントすなわち少額課金モデルの改革と、その課金モデルに適合したコンテンツの配信だ。

このトピックスは、デロイト トウシュ トーマツの情報・メディア・通信(TMT:Technology, Media and Telecommunications)グループが編集した『Media Predictions 2010』から興味深いテーマを抜粋して翻訳した上で、加筆修正したものである。このトピックスは主に欧米市場の調査にもとづくものである。なお、訳注は訳注者の私見である。

電子書籍は飛ぶように売れるが、電子書籍リーダーはニッチ

2010年だけで電子書籍リーダーは世界中で500万台売れると予想されている一方で、電子書籍は1億冊売れると言われている。電子書籍は、専用の電子書籍リーダーよりもパソコンやネットブック、スマートフォンそしてネットタブレットで読まれる公算が高い。15億ドルとも言われる電子書籍リーダーの予想市場規模をもって、電子書籍リーダーを失敗と呼ぶことはできないが、電子書籍の市場が200%近い成長率で拡大すると見られる状況下でも、電子書籍リーダー市場はこれを下回るゆっくりとした成長になるだろう。

訳注:権利問題が厳しい日本では、電子書籍リーダーの普及は、欧米よりもさらに困難である。たとえば雑誌の電子出版では、写真やイラストなどの権利処理が難しいという。i-podの日本進出が世界で大きく遅れた理由は権利処理にあったという。米国企業から見た場合、日本の市場は縮小し、在日米国系企業の本社に対する発言力も低下している。このダブルパンチも日本のガラパゴス化の遠因となっているのではないだろうか。

課金を求める新聞・出版業界

新聞・出版業界はオンライン購読者への課金を望んいる。しかし世界的にみると実際の課金モデルの取組みは発展しておらず、その成果も期待したほどではなかった。課金モデルを導入しても頒布数を伸ばすタイトルは限られ、採算のとれるタイトルはさらにその中のほんの一握りである。もちろん、例外的にいくつかのタイトルではオンライン課金モデルで大成功するかもしれないが、オンラインから上げる収益は、今でもほとんど広告収益である。

オンライン広告モデルの限界

ところが、そのオンライン上での新聞記事や雑誌記事の掲載を広告だけで成り立たせるというモデルも崩壊しつつある。何千万ものユニークユーザーを抱えている「大成功しているサイト」も月数万ドル程度の収益しかあげていない。記事の中身を全て無料でオンラインに掲載するようなやり方をこのまま進めれば、既存の優良購読者減少に拍車をかける結果を招きかねない。アナリストの中には「無料で利用できるようにしてしまったコンテンツを、再び代金を支払って利用してもらうことなど不可能だ」と言う人もいる。その一方別のアナリストは「無料モデルはそもそも欠陥だらけであり、全てのタイトルを課金モデルに移行すべきだ」と主張している。現実には、業界は両モデルを組合せて対応していくと想定されるが、この際に電子出版の収益拡大への寄与よりも、紙媒体購読者とのカニバリゼーションをどう緩和するかという点が最大の心配の種なのだ。

訳注:「新聞・出版業界はパソコンによるコンテンツのインターネット配信は無料だったが、課金に慣れているモバイル環境では携帯単独であろうがパソコンと連動させようが課金モデルが成立する」という暗黙の仮説を本稿では立てている。その仮説を念頭において先を読み進めて欲しい。もちろんこの仮説は市場での検証が必要だ。

有料課金の成功事例

出版界では無料コンテンツを提供する流れに加わることを拒否したり、あるいは提供しているコンテンツに対し読者に課金し始めた先駆者も現れている。今のところこの戦略で成功したケースは1、2例あり、これらのケースでは購読者の減少を食い止めたり増加に転じさせるといった成果をあげている。オンラインコンテンツがあげる収益は僅かかもしれないが、利益へ貢献することにはかわりないし、少なくともこれらのケースにおいては広告収入への悪影響もないようだ。

訳注:日本では、課金制の携帯小説や携帯コミックの配信などで世界に先行している。特に女性をターゲットとしたコンテンツは成功している。書店で買いにくい本を人目を気にせず購入し、かつ携帯の中に隠して所有できるからだ。かつてビデオレコーダが普及したモデルは今でも健在である。

ある出版者はさらにその先を見据えて動き出しており、オンライン版・ハードコピー版購入に加え、モバイル向け特別版を発刊して追加課金を請求している。オンラインコンテンツにペイウォール(有料購読者以外には読めないコンテンツ)を設けるメリットは、課金によって読者数が減ったとしても(時に9割も減ることもあるが)、残った購読者からマーケティング上重要な情報が得られるとともに、多様なオンライン上の収益機会が期待できるうえ、広告単価(CPM:Cost per thousand)の向上も期待できることにある。2008年に電子出版の先駆者たちが成功を遂げた後、多くのタイトルに対して有料化の検討がなされたが、2009年に実現されたケースはほんの一握りにとどまった。オンラインコンテンツの有料化を検討しているとのうわさがあった大手新聞社やその関連企業も、その導入を見送り、結局課金と無料のハイブリッドモデル採用を決断した。ハイブリッドモデルとは、すなわちほとんどの記事が無料で提供され、一部の特殊なコンテンツだけが有料化されるモデルである。

訳注:CPMとは、ネット広告掲載1000回あたりのコストのこと。CPMに広告掲載対象ページのページビュー(閲覧数)を乗じて1000で割ったものが実際の広告掲載料金となる。

マイクロペイメント

オンライン上では、今や無数の99セント課金が何十億ドルもの収益を生み出している。音楽やスマートフォンのアプリケーションマーケットではマイクロペイメントモデルすなわち少額決済モデルが成功を納めており、出版業界にとってもこのモデルは有力な選択肢のひとつであろう。たとえば記事ひとつなら5セント、ある機能を利用したら10セント、1版で1ドルといったように月額・年額固定料金の代わりに、ごく一部をつまみ食いすることに課金するイメージだ。しかし、何人かのアナリストは、新聞や雑誌の購読者層にこのモデルは当てはまらず、読者はコンテンツへのアクセスに僅かな金額を支払うことすら拒否するだろうと指摘する。これらから想定されるのは、支払うに値するコンテンツが提供されるならば、オンライン購読者は進んで少額課金サービスの顧客となるだろう。ただし、彼らは20個の記事をそれぞれ5セントで買うよりも、1冊分まとめて99セントで買う方を選ぶであろう。
とはいえ2010年に少額課金がブレイクするとは考えにくい。早期実現にはハードルの数が多すぎる。たとえば、支払い手段はもっと使いやすく、標準化されなければならないし、共通の課金プラットフォーム構築も必要だ。少額決済に必要なプラットフォームは、すでにクレジットカード、デビットカードの発行者や、代替決済システム事業者、大手ベンダー、通信キャリアなどによってそれぞれ独自に提供されている。しかしながら、オンラインで1週間分の食品を購入するのなら手間暇かけてクレジットカード番号を入力する顧客も、30セントでひとつの記事を読みたいと思ったときに同じ手間をかけることは考えにくい。また、コンテンツ提供者が少額決済で収益を上げるには十分な数の決済が必要になるが、たとえば2週間に一度程度の少額決済をする顧客ではトランザクションを支えるコストをカバー仕切れないかも知れない。
新聞や雑誌は2010年もこれらの選択肢を検討するであろう。一番重要となってくるのは、紙媒体の購読者をできる限り多く引き留め、紙媒体における広告の回復を図ることだ。この紙への回帰を実現させることができれば、オンラインコンテンツの有料課金や少額決済にも大きな波及効果が期待できるだろう。

Bottom line デロイトの提言

ターゲット調査と広告の薦め

コンテンツを有料化する最大の課題は、コンテンツの有料化に伴ってほぼ確実に減少するアクセス数がもたらす損失分を上回るだけの経済的価値を、新たに獲得する契約者と紙媒体の購読者から引き出すことである。このためには広範な市場調査の実施が必須である。たとえば、より裕福な購読者を対象にした出版物ほど、有料化の格好のターゲットとして魅力的であることを示す研究データもある。出版社は最新のマーケティング技術を駆使してオンライン購読者に関する情報を分析・活用し、値下げせず、かつプレミアム付き価格で売れるような価値あるターゲット広告を提供すべきである。さらに、ここで採用されるペイウォールについては一貫して安全が確保されなければならない。支払を催促されたその脇で、コンテンツアクセスの裏口が用意されているような状況は購読者の反感を買い、購読減少を加速する。すなわちコンテンツを有料化した場合、出版社はコンテンツのプレミアム性を維持・アピールしつづける必要がある。また過度なコスト削減は自社のブランドを低下させ、コンテンツ本来のプレミアム性を破壊して、オンライン購読者減少を招いてしまうだろう。

訳注:出版社は、小説家や人気のあるコラムニスト、または論説委員やエコノミストの人気のある連載を丸ごと公式サイトを立てて、コンテンツ配信を進めれば月額課金もしやすいだろう。この方法は人気のある占い師や人気のあるスピリチュアルカウンセラーなどでは採用されている方法である。一見主流ではないモデルが本流となることは、クリステンセンの破壊的革新でも明らかにされてきたところである。つまり電子出版は一種のショービジネスに向いたコンテンツであれば成功する可能性が高いのかもしれない。このショービジネスモデルが全ての出版物にふさわしい方法だとは思わないが、電子出版になじまないタイトルは紙での出版を継続すればよい。ダビンチの鏡文字の手稿を、クリックひとつで普通の文字や英語で読めるようにした電子出版物もある。同様に著名な作家のオリジナルな原稿をDVDで提供し、クリックひとつでその背景の解説や普通の文字で読ませたり、作曲家の手書きの楽譜をクリックひとつで解説や音楽を再生してもよいだろう。また高解像度で写真や絵などをクリックひとつで解説を読める書籍もDVDが向いているかもしれない。こうした出版モデルは共通の編集プラットフォームを作りやすいだろう。電子出版は必ずしもオンラインで頒布する必要はないのだ。またマイクロSDやUSBメモリを使って書店で販売したり、さらにこれらのメディア媒体からオンラインに呼びこむモデルも有効だと思われる。

少額決済にはコストがかかる

少額決済の導入を検討する出版社は、得られる見返りだけでなく、支払わなければならないコスト、背負うことになる債務が何かを熟慮した上で見極める必要がある。少額決済は収益を引き上げることにはつながるかも知れないが、あわせてつきまとう煩雑で複雑な事務管理に必要はコストはけっして軽視できない負担となる。
コンテンツ制作側としても、取引コストを低減させるべく、なるべくまとまった単位の取引を目指すべきである。少額決済であっても手数料モデルには、決済事業者側の費用構造を反映させたコスト分が組み込まれるため、決済手数料で利益が無くなるような事態は避けなければならない。

訳注:たとえば携帯電話会社の課金モデルを使って、新聞や雑誌のコンテンツを断片化し、根強いファンのいるコラムやエッセイについては、月額定額課金を課す方法もあるだろう。また日本の携帯電話や少額決済の課金システムを使って定期購読料金などを一括請求する場合、課金料金の上限金額が安い。モバイル事業者や少額課金業者はもっと柔軟な対応が必要だろう。一方出版社も定期購読にこだわらず月額定額課金で対応する柔軟性が必要だ。スマーフォンのデバイスベンダーは、スポットの課金だけでなく出版社の事情にあわせた課金モデルの開発も検討するべきだろう。

以上

※本稿は、『Media Predictions 2010』より抜粋したものです。タイトルをクリックすると、原文掲載ページが開きます。

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