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2010.03.26 Thought Leadership 21世紀のテレビネットワーク

著者: デロイトリサーチ編著/抄訳・訳注 池末 成明

はじめに(訳者より)

Twitterより @suzukinao Nov 13th
娘(5歳):パパ、テレビ止めて!もう一回観たい! 俺:YouTubeじゃないから止められないの 娘:なんで?…じゃ、ねこちゃんが観たい! 俺:テレビは検索できないの 娘:意味わかんない! …みなさま、これが本当のデジタルネイティブです

このつぶやきに寄せる思いは、人それぞれでしょう。この子どもたちが社会人になって社会で活躍するのは、30年くらい先のことでしょうか。その頃には、日本のテレビ業界を含むメディア業界は、番組を提供する側の方々が好む好まざるに関わらず、大きく変わっていることでしょう。日本のメディア業界は、ひそやかに、賢明にも別組織で、その破壊的革新への準備を始めています。いまや国境なき時代です。意外に早くその破壊的革新の脅威が海外、特に米国から、ひょっとすると中国や韓国から日本に上陸するかもしれません。そのとき日本の放送局は、彼らを迎え撃つことはできるのでしょうか。米国メディアは、オバマ政権のメディア産業育成の後押しもあって、衛星放送を電波オークションを日本でもやれと外圧を加え、その対応に放送局が必死になっている間に、放送局が死守する電波では侵入せずに、CATVかインターネットで侵入し、遠慮なく「ネグロポンテのスイッチ(*)」を押すかもしれません。その脅威は、最初は小さいものかもしれません。しかし、気がついたときは、流行りのウイルスのように日本の放送市場を席巻しているかもしれません。
本稿は、2003年にアメリカの同僚が米国のメディアの方々と一緒に、議論してまとめたレポートを翻訳し、ほんのわずかばかり現代の状況に合わせて、加筆・修正を行いました。例えば、日本では常識になった放送ビジネスの方法論は削除しています。本稿をご覧いただければ、米国のテレビ局が何を考えていたかを垣間見ることはできるでしょう。ご注意いただきたいのは、米国のテレビ局は確実にその思想を1歩ずつ実現しているということです。その原点ともいえる本稿が、日本のテレビ業界やメディアに関心のある皆さんのご参考になるとことを切に願い、読者の皆様にお届けするしだいです。なお本稿における意見の部分は私見です。

* ネグロポンテのスイッチ
マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ初代所長のニコラス・ネグロポンテは、電話が無線に、テレビが有線になると主張した。これをネグロポンテのスイッチという。ネグロポンテは、動画の圧縮技術の提唱者として有名。

視聴者の細分化(訳者より)

すれ違った女子高校生が友達と談笑しています。「今日、あのドラマ見れないんだぁ」「Youtubeで見ればいいじゃない」これは放送業界や広告業界にとってはゆゆしき会話です。「著作権違反だ」その通りです。「規制せよ」それも選択肢です。しかしYoutubeと共存する道を選んだ放送局もあります。ある海外のコンテンツ配信会社のトップが、こんな戦線布告をしたそうです。「ライバルは海賊版だ!」なんとも勇ましい。この発言は有名なので、ご存知の方も多いでしょう。デロイトと米国のメディアは、こうした世界の現実をまず直視することから始めました。いよいよ本題です。

「視聴者の細分化」と「番組の断片化」

つい最近まで、世界のテレビ局の事業は、シンプルなビジネスモデルでした。「番組を作り、自社および提携局による全国ネットワークで大量の視聴者に向けて放送し、視聴率をもとに広告主に広告枠を売る」というモデルです。しかし今、放送事業者のビジネスモデルは複雑になりました。「テレビ番組」は、ビデオやDVD、ハードディスクへ録画され、インターネット経由で全世界に配信され、時には携帯端末にダウンロードされています。現在、「コンテンツはさまざまなメディア、配信チャネルや機器を通じて視聴するもの」へと変わりました。また番組の一部だけを見る視聴者も増えています。すなわち放送業界は、「市場の細分化」、言い換えると「視聴者の細分化」と「番組の断片化」が起きているのです。
かつてはテレビ局が大量の視聴者を独占していましたが、コンテンツ視聴の楽しみ方が多様化するにつれて、今では視聴者が分散し、この結果、テレビ局は、広告主に高額な広告料を課すことが困難になっています。この傾向は今後世界各国でも顕著になると思われます。しかし、この巨大な変化は脅威であると同時にチャンスでもあります。「視聴者の細分化」という脅威は、視聴方法の多様化にともなってコンテンツとメディアへの需要が爆発的に増えることも示しています。この変化をうまくとらえた企業には大きなチャンスとなります。テレビ局やコンテンツプロバイダが、この変化に合わせて自社のネットワークの範囲や規模を見直せば、成長の契機となります。過去のビジネスモデルに縛られたままでは、成長はできません。
従来のテレビ局のビジネスモデルは、一対多のコミュニケーションを基本に、時間枠単位の広告販売から収入を得るというものでした。したがって、放送局の主要な収入源である広告料は、一回の放送で広告メッセージを大量視聴者のうち何人に届けられたかを示す基準値、いわゆるリーチ率または視聴率という基準を使って決めます。ここでテレビ局のビジネスモデルは、本質的に大量の番組視聴者を中心として成り立っているということを強調しておきましょう。このようなビジネスモデルは、少数のキー局が独占的な映像メディアとして市場を支配していた時代には、実に合理的なシステムでした。グローバリゼーションによって世界規模の大量視聴者の市場が生まれると、さらに効率はあがりました。しかし時代は変わりつつあります。
現在、メディアの種類も配信チャネルも爆発的に増加しました。以下、各国の市場の差異やコンテンツの違いを越えた共通の傾向をあげてみましょう。

  • 新たなメディアや配信チャネルの増加。これに伴うコンテンツの細分化
  • 配信ネットワーク数の増加。地上波、衛星放送、ケーブルテレビ、IP テレビなど
  • メディアの多様化にともなう「視聴者の細分化」。一人一人にカスタマイズした「ブロードキャスト」さえありえます。
  • 視聴分だけ課金する有料放送(ペイパービュー)やコンテンツを「細分化」した部分利用の普及
  • キー局の市場支配力の低下。キー局の視聴者に対する影響力の縮小
  • 視聴するコンテンツに対する、視聴者の影響力の増大
  • コンテンツの選択肢や配信手段の増加、コンテンツの自由なコントロールを求める視聴者の意識の増加

これらの傾向は、「視聴者の細分化」が進んでいることを示しています。こうした変化に広告主は危機感を持っています。「視聴者は、CM を飛ばし、視聴したい部分だけを抜き出して視聴している」これは広告主が憂慮する事態です。そしてその不安は現実なのです。
オリンピック、サッカーのワールドカップ、スーパーボウルなどのキラーコンテンツは、今後も間違いなく大勢の視聴者をひきつけると思われます。これらの番組は1 秒当り8 万ドルという巨額な広告収入を生みます。しかし、こうしたスポーツのコンテンツも「細分化」され、視聴者はさまざまなメディアで細分化されたコンテンツを視聴し、また録画でも視聴しています。
「視聴者の細分化」が進むにつれ、放送の支配力はテレビ局から視聴者へと移りました。聞きたくもないかもしれませんが、視聴率に依存するテレビ局のビジネスモデルが今後も存続できるでしょうか。 私たちは、その不安に正面から冷静に向き合うことにしました。それが未来への第一歩だからです。
この結果、キー局とその関連会社は官営民営を問わず、大量の視聴者にリーチできる唯一のメディアという優位性にしがみつくことをやめるべきだという結論に達しました。「視聴者の細分化」が進むにつれ、広告主は、一つのチャンネルだけでは大量の視聴者に効果的にリーチすることは無理だからです。

訳注:デロイトは最近、リニア型サービスと呼ばれる番組編成に従って配信される従来型の放送モデルを見直すように主張しています。詳細は『Thought Leadership リニア型サービスは不滅』を参照。しかし、細分化の流れを否定しているわけではなく、リニア型サービスを軸に、細分化などの新しい流れの活用を提言しているように思えます。たとえばインターネットでは番組は細分化されるなり、別の番組から派生する別の展開を図るでしょう。その大きなモデルの構造は『Thought Leadership テレビとインターネットがついに融合』を参照。

未来へ早送り

技術のライフサイクルはますます短くなっています。VHF/UHF 放送のように数十年間も市場を支配するモデルはもう二度と現れないかもしれません。(訳注:訳者は跡地であるマルチメディア放送があるのではないかと思っています)。これからのテレビ局は、技術が激しく変転する中で、素早く利益を生んでいかなければなりません。急速に変化する市場では、コンテンツの商品化も、以前とは異なる方法をとる必要があります。だから、「今までは番組を何度か放送した後、最後にビデオ販売してきました。今後は、初めからデジタルコンテンツを制作し、さまざまなメディアに対応した形で早々とパッケージ化して市場に送り出す必要があります」。という(アメリカでの)発言も的外れではないような気もします。
メディアにしても、DVD やメモリーカードなどの物理媒体だけでなく、有線や無線のネットワークを通じたダウンロード、単独または他の商品とバンドルしてのサービス提供なども必要です。

訳注:そのメディアの販売チャネルをあける順序が一緒でも視聴者全体に対する影響は、正確にわかっているわけではありません。視聴者の細分化が進む今後は、誰がどのような方法でどの番組をみているのか分析していくことが必要かもしれません。

メディアの多様化が進んだ結果、コンテンツに対する需要は上向いており、この傾向は当分続きます。実際、「視聴者の細分化」は視聴者のコンテンツへの支出を増やしました。1997 年以後、アメリカでは、ケーブルテレビの受信契約料収入は3 倍になり、DVD からの収入は15 倍に急増しました。ケーブルまたはDSL経由でオンデマンド放送できるIP テレビには、映像コンテンツの収益をまだまだ増やしていく可能性があります。(訳注:つまり、複数のメディアに同一のコンテンツを流すことは、収益を減らすのではなく、増やすのだと言っています)。結論として、テレビ局には急成長のチャンスが豊富にあるといえます。このチャンスは、現在テレビ局が手がけているビジネスとは、まったく違ったものとなるでしょう。

ネットワークモデルを超えて

テレビ局が、今後も成長するためには、新しいビジネスモデルを開発する必要があります。ここでは、従来のテレビ放送局事業の延長線上にある3つのビジネスモデルをあげてみます。が、これはほんの一例にしか過ぎません。以下のモデルはどれも、テレビ局が「視聴者の細分化」というチャンスを活かす助けとなりますが、組み合わせれば、メディア業界におけるテレビ局の存在感を示すことができます。

ゲートウェイとしてのテレビ局

テレビ局が既存の市場におけるテレビ局のポジションとブランドを活用する方法の一つは、視聴者のための「メディア全体へのゲートウェイ」、つまり「玄関」となることです。インターネット上では、Yahoo やGoogle といった企業が「ポータルサイト(玄関)」として、同様の戦略をとっています。
私たちの実生活では、スーパーマーケットや百貨店が、幅広い製品やサービスの供給者として、同様の機能を果たしています。スーパーマーケットや百貨店が付加価値を生むために使っているテクニックは、テレビ局にも応用できます。たとえば、顧客データを収集して、顧客とのリレーションシップの構築に活用すること、一般的な製品やブランドを提供する一方、特定の顧客層に向けたプレミアム製品や販売促進策を考案してパッケージ化していること、顧客層ごとのニーズに合わせて異なったタイプの店舗を構築していることなどです。そして最も重要な点は、商品ごとに売上広告費比の情報を握っていることです。これがゆえに、スーパーマーケットや百貨店は、メーカーや問屋との価格交渉で有利な立場にあるのです。
テレビ局が「メディア全体へのゲートウェイ」として成功するには、スーパーマーケットのように、事業の範囲を拡大する必要があります。また新しい視聴者を惹き付けるための重要な手段として、ブランドのマネジメントにも神経をとがらせる必要があります。この2つの要素が、企業の成長、ROI(投資収益率)の向上、そして視聴者に対する長期的なブランド ロイヤリティの確立につながります。
配信チャネル、製品やサービスの種類を越えた「メディア全体へのゲートウェイ」として、テレビ局は視聴者とのリレーションシップの面であらゆる企業の中でもっとも優位な位置に立てるはずです。視聴者からの問い合わせやコンテンツの選択と購入の現場にあることは、計りしれない価値があるのです。

サービスプロバイダとしてのテレビ局

かつて音楽業界はコンテンツこそすべてと考えるあやまちをおかしました。たとえばレコード会社はライブコンサート事業の成長を見過ごしていました。この事業は今や大きな収入源になっています。人気アーティストによる最大クラスのツアーでは、総利益にして実に数億ドルを稼ぎ出しているのです。この20 年間で、視聴者がコンサートチケットや記念Tシャツのために費やす金額が上昇する一方で、CD 自体の価格は下がっています。CD はコンサートの販促手段でしかなくなったという見方すらできるのです。音楽業界は著作権侵害によって大きな損失を受けましたが、これは現実的な代替製品やサービスを提供しなかったためでもあります。その結果が、違法ダウンロードなのです。音楽業界は、視聴者の好みに合わせた形で「音楽」を販売するのではなく、「モノ」を販売することに終始していたのです。
テレビ放送局の中核となる「番組」は、製品とサービス両方の基盤です。このビジネスモデルでは、テレビ局は、機器やメディア、視聴者グループに合わせて再パッケージ化した、コンテンツ指向型サービスを提供できるはずです。こうしたサービスは、ブランドやより細かな視聴者層などに合わせて、さらにカスタマイズしていくことになるでしょう。

オンデマンド・コンテンツ

コンテンツウェアハウスを作り、さまざまな用途に向けた音声とビデオのコンテンツを細分化して販売するとよいでしょう。一般的な視聴者向けアプリケーションとしては、ウェブ放送、ラジオ放送、携帯電話によるダウンロード、ビデオ・オンデマンドなどが考えられます。企業向けアプリケーションとしては、他のテレビ局、特に海外のテレビ局のコンテンツへのアクセス権を有料で提供するなどが考えられます。

インタラクティブ性の取り入れ

番組やコミュニティへの参加、投票、購入、ニュース・情報、オンラインゲーム、質問やコメントのやりとり、ウェブチャットなどが考えられます。

イベント

「ポップ アイドル」や「アメリカン アイドル」シリーズをベースにしたコンサートのように、タイアップイベントから収益を生みだせると思われます。テレビ局がより幅広いサービスを視聴者に直接提供することは、視聴者とのリレーションシップを強め、変化する市場ニーズをとらえつづける上で、強力な手段となります。また、契約料収入の確実な道筋をつけて事業を拡大すれば、他の不安定な事業のリスクを相殺します。コンテンツ中心のサービスモデルは、細分化が進む市場における視聴者の満足とロイヤリティ構築の鍵となるのです。

一般向け商品企業としてのテレビ局

コンテンツをカスタマイズして楽しむ視聴者が、ビデオ化されたコンテンツや映像機器の需要を牽引しています。DVD やビデオの映画やテレビ番組、携帯電話の待受画面や着メロ、DVD レコーダーなどがその好例です。今後登場する製品も同様です。テレビ局が既存の放送事業から撤退し、一般向けの商品のみに集中することはありえないことです。しかし、将来的には、その成長の大部分は放送以外の製品やサービスの販売から生じ、従来のテレビ局の視聴率や収入が減少することは十分にありえることです。テレビ局の従来型の事業は、テレビ局の経営の基盤として、そしてコンテンツ販売の素材となる番組として提供し続けられるでしょう。しかし今後は、一般向け商品が急速に成長し、番組を制作するための収入源として重要度を増すことになると思います。このようなビジネスモデルでは、パーソナライズやブランドマーケティングなどが重要になります。以下に、このビジネスモデルを考える際に重要な点をあげてみます。

柔軟な将来予測と事業計画

たとえば広告収入は、全般的な経済状況はもちろん、テニスのグランドスラムやF1グランプリなどの大きな放送イベントと密接に関連しています。一般向け製品からの収益も同様の依存性を持っていますが、さらに季節や地域差、また小売店の業績にも左右されてしまいます。

技術革新と新商品の開発

テレビ局は新番組の開発には豊かな経験を持っていますが、新番組の開発と新商品の開発とは異なります。現在は、DVD が需要の高い成長分野となっていますが、将来はまた別のプラットフォームが主流となる可能性があります。そのとき、テレビ局は、新技術をどう使えば視聴者ニーズに応えられるのか、検討する必要があります。またテレビ部門は、他の部門で出現するビジネスチャンスにも対応し続けなければなりません。携帯電話の着信音の世界市場は年間40 億ドル、電子ゲーム市場は米国だけでも100 億ドルにものぼるという試算があります。

ブランドの確立

インターネットの世界では、顧客は信頼できるブランドを求めています。これは実はテレビ局にとってむずかしい領域です。テレビ局のブランドは、個別の番組や映画のブランドとは別だからです。テレビ局が視聴者に混乱を招かないようにブランドをマネジメントできれば、ブランドの影響力を活かして大きな利益が得ることができます。Apprentice(アペレンティス)、Who Wants to be a Millionaire(クイズ ミリオネア)、Survivor(サバイバー)などの人気番組はみな、ゲームとのタイアップによる恩恵を受けています。

視聴者の細分化

急速に変化する市場では、視聴者セグメントを詳細なセグメントまでいち早く特定することが重要です。またそれらのセグメントを、広告主にとってわかりやすい属性に変換する必要があります。コンテンツや広告といった「目に見えない」世界では、これは複雑な課題です。

将来的な展望

世界のテレビ放送業界は、従来のテレビ局のビジネスモデルが時代遅れになっていくプロセスの渦中にあります。広告収入によって成り立っていた少数の独占的チャネルの時代は、長期的にみれば消えつつあります。「視聴者の細分化」は当分は続くでしょう。近年では、新しいケーブルテレビ会社や衛星放送会社の出現によって、「細分化」がより一層進んでいます。今後数年のうちには、IP ネットワーク経由で、ハイビジョンを含めたテレビコンテンツが、通常放送とオンデマンド両方の形態で放送されるようになるので、「細分化」はさらに加速するでしょう。
しかし、こうした変化は多くの新しいチャンスも生み出します。既存のテレビ局は、それらのチャンスを活かすこともできるのです。しかしそのためには、テレビ放送のみに頼るモデルから、多元的で柔軟性の高い視聴者志向のモデルに速やかに移行しなければなりません。こうした状況に適応するには、テレビ局の関係者全員が一丸となって、視聴者にとってわかりやすい、より合理的なサービスを提供し、それを利益へ結びつけていかなければなりません。このプロセスが今後どう進んでいくかは、誰がデファクトスタンダード(事実上の標準)を確立するかにかかっています。もしテレビ局以外が参入してデファクトスタンダードを確立するようなことがあれば、テレビ局は今のような大きな利益を生み続けることはできなくなるのです。
実際、「視聴者の細分化」において最も難しい問題は、既存テレビ局と視聴者の間に距離があることです。いまの時代は、インタラクティブ性、サービスの提供、視聴者による選択が重要です。テレビ局は、視聴者へのリーチと広告価値の減少への対応だけでなく、今まで「大多数のうちの一人」でしかなかった個々の視聴者と、より広く、より長く、より利益率の高いリレーションシップを築き、維持していく方法を見つけていく必要があるのです。現在、多くの視聴者は、あまりに膨大な選択肢に溺れています。新しい番組、新しい放送メディア、新しい機器、新しいインタラクティブ型プラットフォームの登場。それらは、選択肢の広がりにつれて、視聴者の支出も広く分散し、いっそう「細分化」が進んでいくことを意味しています。
このレポートでは、テレビ業界における「視聴者の細分化」の共通パターンと傾向を明らかにし、テレビ局が採りうる選択肢を提案してきました。これまでに述べてきたように、今こそテレビ放送業界の全企業が、将来のビジネスプランを真剣に検討すべきときなのです。今後、テレビの世界で何が起きるのかは誰にも断言できません。しかし確実に言えることは、この業界の未来の姿は今日とは全く違った姿になるだろうということです。

おわりに(訳者より)

本稿の中に、「テレビはポータルサイトになれ」というくだりがあります。これは最近のはやりの言葉でいえば、「プラットフォームになれ」と読み替えてもよいと思います。今井賢一氏は、ネット上のプラットフォームをマーケットであることを最初に見抜いた経営学者ですが、今井氏の見識を訳者なりに再解釈すると、ネット上のプラットフォームはマーケットの三大機能である以下の3つの機能を持っています。

(1)認証機能(市場参入への許諾=パスポート)
(2)流通機能(商品の授受)
(3)決裁機能(代金の授受)

プラットフォームの支配者はそのままマーケットの支配者となります。実は衛星のテレビ放送では、すでにインターネットや携帯電話の世界よりも先に「プラットフォーム」の制度を法的にも確立しています。携帯事業で、その法令の枠組みを借用しようとしていると聞いたこともあり、テレビは携帯よりも法律が進んでいるんだと少々驚きました。今後、このフレームワークが携帯に限らず、さまざまなネットワークサービスにも普及するでしょう。
さて、テレビ局は制作会社から放送に至るまでの流通機能(制作から放送)を持っています。つまり、テレビがメディアの王であるのは、この流通機能を持つ(メディアの)マーケットリーダーだからです。また、決裁機能の代わりに広告主と視聴者を結ぶハブになっています。これを「メディアの2面性」と呼ぶそうです。「2面性」そのものは人類の経済取引の至るところにあって、小売店は供給先から商品を仕入れて利幅を乗せて消費者に販売しています。これも「2面性」です。「2面性」の前線にある組織は、巨大化すると市場を支配するようになります。顧客情報を持っているのは、前線だからです。したがって、テレビ局は有料になろうが広告収入で稼ごうが、流通の支配者であることに変わりはありません。

以上

※このレポートは、アメリカのデロイトでメディア業界の協力を得て作成したものです。原文は英語です。現在でも、デロイトでは、世界中のメディア業界の方々に取材を継続しており、『メディアデモクラシー』という調査資料にまとめています。ご興味をお持ちの方はご遠慮なくお問い合わせください。


プレスリリース

2009.10.07 テクノロジー企業成長率ランキング 第7回「日本テクノロジー Fast50」発表

2009.12.11 テクノロジー企業成長率ランキング 第8回「アジア太平洋地域テクノロジー Fast500」発表

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