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2010.05.24 Thought Leadership 軌道に乗る音楽配信サービス

著者: デロイトリサーチ編著/監訳:トーマツTMTインダストリーグループ 桃井 智徳、池末 成明/翻訳:高橋 みはる/訳注:池末 成明

2010年は音楽配信サービス(subscription music service)が軌道に乗る年となり、有料課金も普及する。音楽配信サービスは、より質の高い機能を提供し、スマートフォンを含む幅広いプラットフォームで利用可能となるだろう。

このトピックスは、デロイト トウシュ トーマツの情報・メディア・通信(TMT:Technology, Media and Telecommunications)グループが編集した『Media Predictions 2010』から音楽配信サービスに関するテーマを意訳したものである。また、このトピックスは主に欧米市場の調査にもとづくものである。なお、訳注の意見の部分は訳注者の私見である。

不振からの脱出

音楽配信サービスはこれまで不振で、1サービスにつき数10万人の視聴者を獲得したサービスもあるが、屈辱的な失敗に終わったサービスもある。音楽配信サービスの定期利用料金は年間40ドルから180ドルの価格設定であり、CDの総売上144億ドルやデジタルダウンロードの60億ドルに比べて、現時点では総収益は1億ドルと小規模である。しかしCD市場の衰退は周知のとおりであり、今後この市場が復活することは難しい。これは音楽配信サービスにとって事業機会となる。2010年は音楽配信サービスが軌道に乗り、登録のみでなく実際に代金をお金を払ってくれる利用者が初めて1000万件を超す。

訳注:音楽配信サービスとは、もともとラジオのようにインターネットを通じて無料で聞き流せる音楽サイトだった。音楽配信サービスは、月額または年額固定料金でプレミアムのある音楽を聴くこともできる。米国ではPandora.comやLast.fm、欧州ではSpotifyが有名である。英ではSkyも音楽配信サービスを行っている。世界的にはNapsterをご記憶されている方も多いだろう。古くはRhapsodyがComcast ISPにバンドルされて提供されていた。本稿では、アップルのiTunes、アマゾンやウォールマート、そして着うたなどはダウンロードサービスと呼び、音楽配信サービスとは別のサービスとして位置付けている。

普及の鍵

音楽配信サービスの普及の鍵は大きく3つある。第一に、当たり前のことではあるが、聴ける音楽の幅を豊富に提供することである。第二に、これも当たり前のことではあるが、より視聴者が使いやすい便利な機能を提供することだ。第三に、携帯電話やあらゆるメディアのプラットフォームを通じてアクセスができる環境を開発することにある。これまで音楽配信サービスの主流はPCベースであったが、ポータブル機器中でも特に普及が進んでいるスマートフォンに拡張させることで、視聴者はいつでもどこでもサービスを享受できるようにするべきだ。MP3プレーヤー市場の過去10年間の成功とラジオ音楽放送の根強い魅力は、持ち運びできる音楽が持つ強さを物語っている。音楽配信サービスをスマートフォンに拡張すれば、使いやすさ、選択肢の幅、および「持ち運びできる」こと即ち「ポータビリティ」の三点を統合することが可能となるだろう。

第四の鍵

第四の普及の鍵は、音楽業界の関係者に音楽配信サービスを成功させたいという強いインセンティブを持たせることである。既にCD流通からの収益が大きく落ち込みだしているので、業界関係者の楽曲使用許諾に対する姿勢は柔軟で協調的なものに変化している。今後、音楽配信サービスは、単純な曲単位の課金から、ラジオ局に提供されるようなまとまったライセンス型の契約のような形で提供されていくだろう。

競争の激化による機能の向上

2010年には、市場から撤退するサービスプロバイダーもある一方、新たに音楽配信サービスするプロバイダーも登場する。大型音楽配信サービスも新たに開始されると見られており、音楽配信に特化した事業者も、テクノロジー企業も、あるいは収益構造を複線化させたいメディア企業も参入を狙っている。
こうした参入によって音楽配信サービスの認識は高まり、競争が激化する。競争が激化すればサービス全体の質の向上が期待できる。この結果、パソコン、スマートフォンや他のポータブル音楽プレーヤーの異なる機能を活用して、ラジオ、音楽ビデオ、CD、MP3プレーヤーをいいとこ取りをした総合的なサービスが生まれるだろう。この結果2010年末までには、音楽配信サービスを通じてのみ得られるコンテンツや機能が増えるであろう。たとえば、ライブの録画映像やスター発掘番組の決勝戦出場者のアルバム、トップ10リスト、音楽に関連したドキュメンタリーやアーティストのインタビュー、歌詞や音声サンプルで検索できる機能、現在視聴している音楽を即時に購入する機能、多様な質の再生機能、専門家の批評や統計的な分析、音楽遺産のある街のガイド付ツアーなどがあげられる。その一方で、音楽配信サービスのプロバイダーは有料サービスへの勧誘を進めるために、無料サービスの質を低下させるだろう。たとえば音楽配信サービスのプロバイダーは、視聴者1日に視聴できる音楽の数に制限したり、無料サンプルについてくる宣伝の音量が大きく設定することで、無料音楽は魅力を落とし、有料サービスへの切り替えを促すだろう。

Bottom line デロイトの提言

音楽配信サービス市場の潜在的規模に注目

音楽業界にとってビジネスモデルを再考する必要性は改めて言うまでもない。音楽の需要は依然として大きいが、もはやCDは成長の手段とはなり得ない。しかし業界は音楽配信サービスを最後の楽園として期待するのではなく、楽曲セールスの落ち込みを食い止めるひとつの手段として見なすべきである。音楽配信サービスの年間利用料は180ドルであるが、これは1か月に少なくともCDを1枚買う優良顧客から得られる収入よりも大きいことに注目すべきだ。先進国市場でさえも多くの人が音楽を購入しないで聴いており、イギリスでは12歳以上の60%が音楽コンテンツを購入していない。音楽配信サービスは、これまで無料で音楽を聴いていた視聴者を有料で音楽を聴く「顧客」として迎え入れることになるかもしれない。

視聴者へのコミュニケーション戦略

アルバム全曲を買わず、好きな曲だけ買うことができるから節約になるというコミュニケーション戦略は視聴者に対して説得力がない。むしろあらゆる機器からサービスにアクセスできることやカスタマイズが可能であること、利用可能なコンテンツの種類が豊富であったり、他では手に入らない音楽を提供していることなど、サービスの付加価値の提供を宣伝すべきだ。

アーティストへのコミュニケーション戦略

他サービスより多くのアーティストの曲を提供し、特有なコンテンツが増えれば、そのサービスは流行するだろうが、アーティストが離れていけば存続できなくなる。どんな曲でも手に入るサービスであることは重要な要素であるが、この環境の実現は簡単ではない。アーティストによっては「他の流通チャンネルのほうがビジネスになるから」とコンテンツ配信を拒否することもあるだろう。また利用できるコンテンツが制限される場合もある。たとえば一定期間を経過しないと音楽配信サービスで利用できるようにならないケースもよくある話だ。しかし音楽配信サービスは、今人気のある曲が選ばれる傾向があるので、こうした制限は音楽配信サービスの成長を損なう。このためプロバイダーは自社のサービスに引き寄せるための方策を考える必要がある。

リニア型サービスに注目

幅広いジャンルのコンテンツを提供する一方で、視聴者がサービスを利用しやすいようにガイダンスをサポートすることも必要だ。ガイダンスなしでは、視聴者はすでによく知っている曲のみを聴くこととなるだろう。また、音楽サービスにおいては、ラジオが今でも最も人気のある音楽の視聴方法である。番組表通りにコンテンツを配信するサービスをリニア型サービスというが、音楽配信サービスもラジオ同様に選択肢を予め提示することが必要なのかもしれない。

訳注:リニア型サービスについては、「Thought Leadership リニア型サービスは不滅」を参照されたい。

音楽配信サービスにはないCDの可能性

音楽業界は、CD売上の落ち込みを慌てることなく感情的にならずに冷静に対処すべきである。収益や平均単価の観点から、CDの売上はこの10年衰退しているが、いずれ時が流れれば再び何10億という収益をもたらす。たとえば2009年9月に発売されたビートルズのボックスセットが250ドルでも売れているように、ヒットする埋もれたCDを発掘してその成功を享受すべきだ。このようなリマスター版の成功は、大衆市場の復興を意味するのではなく、CDが長期的にはコレクターによって収集されるアイテムとなることを示唆しているのだ。

以上

※本稿は、『Media Predictions 2010』より抜粋したものです。タイトルをクリックすると、原文掲載ページが開きます。

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