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2010.03.26 Thought Leadership Ophoneと中国キャリア再編の意味

著者: 池末成明

はじめに

2009年9月、携帯電話で中国最大の加入者を持つ中国移動(China Mobile)は携帯電話OPhoneを発表した。この発表は日本の情報通信業界とりわけコンテンツプロバイダにとっては脅威であると同時に新しい事業機会かもしれない。
この脅威を機会に転じるためには、中国の通信市場について知ることも必要だろう。中国通信市場では、固定通信の普及率が減少する一方、携帯電話の普及率は上昇している。こうした動向の中、中国政府は、中国移動(China Mobile)、中国電信(China Telecom)、中国聯通(China Unicom)の大手3社に電話事業を再編した。中国政府は、3大キャリアのいづれも突出することのないようにバランスをとっている。中国政府の諸葛光明の「三国志モデル」はゲーム理論で有名な「じゃんけん」モデルと同型に思える。また、この再編の目的は、「ユビキタス社会」すなわち「いつでもどこでもコミュニケーションできる社会」をFMC(Fixed Mobile Convergence)で実現すること「三国」を競争させて加速させることあるのではないだろうか。
本稿は、添付のレポート(『中国主要キャリアのモバイル戦略最新動向』にもとづいて新たに書きおこしたものであり、本稿の意見の部分は筆者の私見である。

Ophoneの脅威と機会

2009年9月、中国最大の携帯電話の加入者を持つ中国移動(China Mobile)は携帯電話OPhoneを発表した。すでに米デル、米モトローラ、韓国サムスン電子、韓国LG電子などが端末の提供を表明しており、他のメーカーも追随している。中国移動は、OPhoneのプラットフォームを世界に広げる計画を持っているように思われ、日本でもセミナーを開催している。中国移動がOphoneで日本に進出すれば日本の携帯事業者とプラットフォームの提供者にとっては脅威かもしれないが、日本のコンテンツベンダーと携帯端末ベンダーにとっては中国を含むアジア圏に進出する機会だろう。
OPhoneのプラットフォームであるOMS(Open Mobile System)は、特に端末ベンダーにとって重要な対象である。しかし、ここではOMSとセットで動くOPhoneアプリ配信用に用意したMobile Marketに注目したい。Mobile MarketはGoogleのAndroid Marketと同様に、ネット上のプラットフォームは文字通りマーケットであると看破した命名だからだ。今井賢一氏は、ネット上のプラットフォームをマーケットであることを最初に見抜いた経営学者と言われていと思われるが、今井氏の見識を筆者なりに再解釈すると、ネット上のプラットフォームはマーケットの三大機能である(1)認証機能(市場参入への許諾),、(2)流通機能(商品の授受),、(3)決裁機能(代金の授受)を持つ。そしてプラットフォームの支配者がそのままマーケットの支配者となることに注目しよう。
これに加えて、プラットフォームは、本質的にパソコン上のWindowsと同じような性質を持っていることにも注目しよう。Windowsは多数の利用者と多数の開発者にとって共通の基盤であり、Windowsで利用するソフトウェアとデータを共有するからこそ利便性が高まる。誰もがWordを使い、Wordでファイルを交換するから便利なのだ。このようにプラットフォームのような情報通信サービスは、その周辺に参加する利用者や開発者の数が大きいほど利便性を増す。たとえWindowsが嫌いな人間も会社ではWindowsを使わざるをえない。このように情報通信サービスは、競争の結果、他を駆逐する性質を持っている。このように、利用者の数が多いほど利便性が向上し、ますます他を排除する情報通信サービスの現象をネットワーク外部性(*)という。

* ネットワーク外部性
例えば、誰にもつながらない電話は何の価値もないが、何億人という人間がネットワークでつながっている電話は価値がある。これをネットワークの外部性といい、ユーザー数が増えるとネットワークの価値が増えることをいう。

プラットフォームのもうひとつの重要なポイントは、端末と融合することで、レイヤー・モデルのバリュー・チェーンを垂直に再構築するということだ。バリュー・チェーンとは、価値連鎖(かちれんさ)ともいい、購買した原材料から製品やサービスの販売に至るまで各プロセスにて不可価値を付加していく流れのことである。
わが国では、携帯電話事業者が端末からサービスまで一貫して提供してきた。このバリューチェーンの中核にあるモデルが、端末とプラットフォームであった。新たな携帯電話のプラットフォームと端末は、従来のバリューチェーンを破壊し、新しいバリューチェーンを生み出す。中国移動は、このあたりの動向をよく分析した上で、このOPhoneを発表したように思える。そして中国移動が日本に進出する場合は、端末の上のOMSとネット上のプラットフォームであるMobile Marketだけで十分であって、日本の主要キャリアのすべてのネットワークに乗せてもかまわない。Mobile Marketが3大キャリアに依存しないプラットフォームとなれば、既存の携帯事業者の大きな脅威となるだろう。また日本の利用者保護のためにも中国のネットワークのセキュリティをどう確保するか、制度上の対策として、日本の先進的な制度を中国に提供することも必要だろう。
しかし、この中国移動の動向は、中国の大きな通信市場の動きのごく一部の断面にすぎない。今、中国市場はどのように動いているのだろうか。また最近、中国政府は通信事業者を大きな再編した。この企業再編の意味をさぐることが、日本のコンテンツ事業者や、情報通信事業者の対中国対策と中国市場進出のヒントになるだろう。

固定電話市場と携帯市場の概要

中国の固定電話の普及率は、2006年に30%を下回り、その後も減少している。一方中国におけるインターネットユーザー数は、2008年には、約3億ユーザーに達し、普及率は22.6%とグローバル平均(21.6%)並みになった。インターネット利用は、都市部の富裕層は個人所有のPC、農村部の利用者はインターネットカフェのPCを利用が大半である。
一方中国の携帯電話の加入者数は世界最大で、2008年10月末には約6億を超えた。その普及率は約45%となり、成長率は鈍化しつつも成長している。これは、最大の契約者数を有する中国移動が農村部の経済的事情を配慮し、低料金化を図り、農村部へのユーザー数を拡大したためであり、また都市部では固定電話から携帯電話に移行する加入者いわゆるケーブルカッターが増大しているからだ。また中国の携帯電話の通信方式は、2GのGSM(Global System for Mobile Communications)が主流である。3Gはまだこれからだ。
中国でも、リッチコンテンツや新しいアプリケーションへの人気から携帯電話端末の高機能化が進んでいる。また携帯電話の爆発的な普及を背景に、グローバルハンドセットメーカーと中国の地場のハンドセットメーカーが激しい競争を繰り広げている。農村部への携帯電話は電話機能中心の低価格化端末が普及している。

中国通信キャリア再編

中国政府は、中国移動(China Mobile)、中国聯通(China Unicom)、中国電信(China Telecom)、の大手3社に電話事業を再編した。政府による再編の最大の特徴は、固定網と移動体網の両サービス事業を3社ともに保有させた点にある。中国移動は、再編前は移動体網のみであったが、再編後は事業規模は小さいながらも中国鉄通を完全子会社化し、固定網の事業を手に入れた。固定事業を主軸にしていた中国電信は、再編後は中国聯通からCDMAの移動体網の事業の譲渡を受けた。中国聯通は、GSMの移動体網を残してCDMAを中国電信に移行させ、中国網通の固定網の事業を獲得した。また3Gの免許で見ると、中国移動、中国聯通、中国電信が、それぞれ、TD-SCDMA(2G:GSM)、W-CDMA(2G:GSM)、CDMA(2G:CDMA)と、各社各様となった。次に各キャリアの再編後のメリットと課題を整理する。

図1:主要キャリア各社から見た再編の意味合い

主要キャリア各社から見た再編の意味合い

この図表をもとに、各キャリアのSWOT分析し、その動向を整理してみよう。

中国移動(China Mobile)

中国移動の主たる強みは、携帯電話市場での圧倒的な強さと財務基盤であり、弱みは固定網事業である。中国移動の独自方式の3Gは、W-CDMAなどの世界標準の3Gの普及が脅威であり、2Gの実績を生かした中国独自の3Gへの移行が最大の機会である。なお中国移動は、通常の3G端末とは別に、iPhone-likeな端末“OPhone”の独自開発を進めている。また、中国移動は、携帯電話端末のもう1つの新しい機能であるモバイルテレビ(日本のワンセグに相当する)を提供する権利を獲得した。農村部へのユーザーを拡大し、その実績で海外市場進出(パキスタンのPaktelの買収)を果たしている。

中国聯通(China Unicom)

中国聯通の強みは、他の2社に比べて、携帯電話もブロードバンドも、それなりの事業規模を有しており、統合的なサービス特にFMCの実現に向けて最も有利な位置にいることである。世界標準である2GのGSMや上位互換である3GのW-CDMAを持っていることも強みだろう。中国聯通の弱みは南部地域での劣勢である。固定通信の利用離れと中国移動の中国独自の3Gが脅威であり、3Gで最も世界に普及しているW-CDMAの中国での人気が機会である。シンガポールのSKテレコムやスペインのテレフォニカとの提携を、3G事業展開においてどのように生かしていくか興味深い。

中国電信(China Telecom)

中国電信の強みは、市場トップにある2億強の固定網ユーザー数と4800万の加入者数を獲得してもなお増え続けているブロードバンド事業である。一方中国電信の弱みは、CDMAの携帯事業を獲得したものの携帯市場での存在感が乏しい点である。中国電信の脅威は固定通信の利用離れと3Gの台頭であり、この脅威がそのまま機会である。たとえば中国電信は、ブロードバンド事業でのサービスでWiFi(Wireless Fidelity)搭載携帯電話端末などの開発を進めている。このWiFiが中国電信のFMCでのブレークスルーになる可能性がある。WiFiは本来固定事業者との相性の良い無線アクセス網だからだ。残念ながら、現時点では、携帯電話へのWiFi搭載を政府は承認していない。WiFi搭載によりSkypeなどの無料のインターネット電話が使われるようになるとキャリアの携帯電話事業に悪影響をもたらすからというのが理由である。市場関係者からは、PCなどでのSkypeの利用などについては特別な措置が講じられなかったことを考えると、上記の理由は何の根拠にもならないとする見方もでており、WiFi搭載が承認される時期も間近かもしれない。

「戦略のパラドックス」に見る再編の意味

デロイト・コンサルティングのTMTグループは、中国の通信市場全体から見た再編の意味を、クリステンセンの「イノベーションの解」の共著者であるデロイトのマイケル・レイナーが開発したメソッド「戦略のパラドックス」を使って、シナリオ分析した。その結果、中国政府は、3Gを使ったFMCの発展を促進するにおいて、その巨大な市場を生かした「実験市場」において、4つの目的が働いていることがわかった。(実験市場なのでいつでも中国政府は実験方法を変える。これが中国通信市場の最大のリスクでもある)。

図2:中国の通信市場全体から見た再編の意味合い~中国通信市場のシナリオ仮説

中国の通信市場全体から見た再編の意味合い~中国通信市場のシナリオ仮説

第一に、中国政府は、莫大な投資コストがかかる通信インフラの整備にあたって、各キャリアの投資コストを軽減し、その効率化を狙っている。第二に、どのキャリアにも、固定と携帯を組みあわせるFMCによって「いつでもどこでもマルチメディア」に向かうユビキタス社会の実現を目指すよう再編を図っている。第三に、携帯電話を主軸にするのか、それとも固定網のブロードバンドを主軸にするのか、各キャリアによって3つの異なるシナリオを使って、市場競争し、ユビキタス社会の実現という同じ目標へのスピードを加速させようとしている。第四に、再編後の三国志のような構造は一人勝ちを防止し、3社の競争環境が壊れないように、どのキャリアにも初期条件として強みと弱みを設定した。

所感

筆者は、この「三国志モデル」にも似た三すくみ構造に最も興味を持っている。中国政府の諸葛光明は、どのような経緯で「三国志モデル」を得たのか不明であるが、このモデルは「じゃんけん」モデルと同型に思える。じゃんけんモデルの弱点は、外部環境の変化を前提としていない。ドラッカーの言葉だったと思うが、変化に抵抗することはできないが、変化の先頭に立つことはできる。この変化の先頭にたつ中国キャリアは、一体どこだろうか。

以上

※本文は、添付のPDFファイルをご覧ください。


プレスリリース

2009.10.07 テクノロジー企業成長率ランキング 第7回「日本テクノロジー Fast50」発表

2009.12.11 テクノロジー企業成長率ランキング 第8回「アジア太平洋地域テクノロジー Fast500」発表

添付

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