2011.05.19 無線LANにとっての「店内」 ‐ 売り場の奥でもインターネットで比較購買 |
無線LAN採用の小売店は25%
2011年、北米の量販店と小売企業の中核となるテナントの25%が買物客向けに無料の店内無線LANを提供するようになる。2012年は、北米では、この比率がさらに拡大し、いずれ世界全体にも波及し始めるであろう。
このトピックスは、デロイト トウシュ トーマツの情報・メディア・通信(TMT:Technology, Media and Telecommunications)グループが編集した『Telecommunications Predictions 2011』から、店内無線LANに関する予測と提言を意訳したものである。また、このトピックスは主に欧米市場の調査にもとづくものである。なお、訳注の意見の部分は翻訳者の私見である。
無線LANは小売店に必要か
これまで、大型店の店内で利用できる接続機能は一般にセルラー・データだけであったが、多くの顧客はインターネットにアクセスできる携帯電話を持っていないか、そうしたデータプランを契約していなかった。またセルラー信号は不安定になりがちで、店の奥まで行くと信号が弱くなったり、速度が落ちたりする。すると買物客は、店内で無線LANが使ってインターネットに接続しようとするが、これができないとわかると買物客のイライラは頂点に達し、店を出てしまう。無線LANアクセスの提供は、まだ小売店の標準仕様とはなっていない。無線LANは喫茶店やショッピングモールの共有スペースでは普及しているが、個々の小売企業はこれまで普及してこなかった。無線LANを入れると消費者がスマートフォンやタブレット端末を使ってインターネットに接続し、他社の商品と比較するのではないかと恐れていたからである。小売企業は競合相手のチラシやカタログを保管したりしない。ライバル企業が自社より安い価格で同じか同じような商品を売っているかもしれないのに、それを教えるようなツールをわざわざ消費者に提供する必要はないからである。
無線LANを恐れる必要はない
しかし、北米の大手小売企業に聞いたところでは、そんなことを恐れる必要はないという。複数の事例や経験則によると、買物客が店内のインターネットを使って比較購買をした場合、その商品を買う確率はむしろ上昇するという。買物客が買うのを止める共通の理由は、比較情報がないために決断できないことである。「もしかしたら、この品物は他の店でもっと安い値段で買えるかもしれない」と思うと、決断できなくなるからである。したがって、ネット検索をして競合相手の価格があまり変わらないことがわかれば、多くの買物客は、ほんの数ドルを節約するためにわざわざ車を出すよりは、その店で購入する。失われる売上はあるものの、いち早くインターネットなどの比較購買システムを導入した企業の例をみると、システム導入費用は、ネット検索をして最終的に商品を購入してもらえる可能性が高いことを考えると十分に埋め合わせができる。
訳注:日本においては、店内でインターネットで比較して購入する買物客は、まだ多くはない。小売店での購買は実際に商品に触れることや販売員から情報を得ることを目的としている場合が多い。ただ、JRの駅構内や一部の大型店舗や専門店で、無線LANだけでなくタブレットの配備も始まっている。今後の動きを注目したい。
店内無線LANのメリット
店内に無線LANがあれば、顧客はその小売企業のデジタル販売ツールを使って簡単な質問をしたり、欲しい品物の在庫の有無を確認したりできる。そうすれば、店員は決まりきった質問に対応せずに済み、専門的な質問への対応やサービスや売上の強化といった、より重要な業務に専念できる。店はWi-Fiタブレット端末を双方向カタログや注文システムとして設置してもよい。またWi-Fi対応テレビなどの特定製品をより効果的に展示することもできる。全般に一部の小売企業は、無線LANを「顧客の店内体験をさらに充実させるため」の情報発信の手段とみている。
販促に使える無線LAN
店内無線LANは、さまざまな先端的な販促アプリケーションを可能にする。無線LANを使えば、買物客の位置情報の正確な対象の絞り込みもできる。たとえば布団カバーの売場にいる買物客には、お勧め情報や値引商品、逆に高額商品をモバイル機器に知らせてもよいだろう。バーベキューグリルを購入する買物客には即座にテラス用の家具を勧める情報を流し、店内で購入するか、ウェブサイトで注文して自宅まで送り届ける方法があることを案内してもよい。店内無線LANを導入する小売企業にはもうひとつ利点がある。顧客データの収集である。無線LANの利用契約や各国の個人情報関連法にもよるが、小売企業はさまざまなレベルの店内顧客情報を収集・保存・分析することができる。たとえば無線LANを通じて顧客の店内での動線すなわち物理的な動きを追うことができる。電子メールのアドレスや携帯電話の番号を顧客データベースに加えてもよい。一部の小売企業は、「フェイスブック」など、外部のソーシャルメディア・サイトにログインすることにより、無料で無線LANにアクセスできる選択肢を提供している。これによって企業は、年齢、性別、誕生日、人間関係、職業、個人的関心などの貴重なデータを収集できる。ただし、こうしたデータが入手できるかは、ユーザーが「facebook(フェイスブック)」を通じて何を公開するつもりか、自分のプライバシー設定をどう調整するかに左右される。しかし、いったん収集された顧客情報は、その客が次に店を訪れた際、その客に狙いを定め、個人の待受け画面に直接誘導するウイジェットなどを活用してもよいだろう。顧客が店内無線LANネットワークにログインすると、店側は顧客のネット検索やウェブ・サーフィンなど、ネット上の動きを追跡することができる。これは小売企業にとって、どの競合相手のショッピング・サイトが最も頻繁に使われているかを知る貴重な手がかりとなる。極端な話だが、顧客の動きを正確にモニターすることまでできるため、例えば、顧客のネット閲覧行動に応じて顧客の端末にクーポンや宣伝コピーを送り込むなど、リアルタイムに対応することが可能である。これにより、小売企業は顧客の関心をより正確につかんだ広告、いわゆる「行動ターゲティング広告(online behavioral advertising)」やインターネット広告(internet-based advertising)を打つことができる。また、ウェブ・トラフィックから収集したデータを統合し、それをリアルタイムの店内購入とその後のネット購入と突き合わせることも可能である。
Bottom Line
無線LANによる店内体験
小売企業は店内無線LANを使ったより多くの優れたアプリケーションを採用し、店内体験を充実させる必要がある。また接続が増えてもサポートできるよう、無線LANの装置とネットワークの接続性をアップグレードする必要もあるが、早い時期から店内無線LANを導入した事例に基づくと、これらの問題に対応するためのコストは、大型小売企業であれば、相対的にみて多額のコストではない。
個人情報保護
最大の問題は個人情報保護と顧客データである。これは多くの小売企業にとって目新しい問題ではないが、無線LANに関しては規制や法律環境の変化をより強く意識する必要がある。データの監視、収集、保存とそれにもとづく行動ターゲティング広告は、米国、欧州、カナダなどの監視機関や規制当局、プライバシー擁護派、消費者の間で規制面から大きな議論のテーマとなってきた。たとえば米国では別個に2つの個人情報保護法案が提出されており、商務省と連邦取引委員会の双方が、プライバシー問題に関する規制のガイドラインを企業に示す独立報告書を発表する見通しである。無線LANネットワーク経由の顧客データの収集は、最近の報道でも取り上げられている。記事自体は小売業界と無関係であり、不用意なデータ収集に関わるものだが、規制当局と世論がこの問題にいかに敏感かがよくわかる。顧客に無線LANサービスを提供するに当たり、小売企業はオンライン追跡作業に関する規制の変更と消費者の反応の変化を理解し、常に把握しておく必要がある。そうすれば、データ性能の最大化と顧客の個人情報保護をうまくバランスさせることにもなるだろう。
以上
※本稿は、『Telecommunications Predictions 2011』より抜粋したものです。タイトルをクリックすると、原文掲載ページが開きます。

