ブックマーク eメール このページを印刷

2011.10.28 外航海運業におけるIFRS適用上の主要論点 第1回 自社所有船の会計処理(取得原価の決定と減価償却)

著者: 公認会計士 小出啓二

1.はじめに

本稿は、外航海運業におけるIFRS適用上の主要論点について検討していくものです。第1回は、自社所有船についての会計処理、特に取得原価の決定と減価償却に焦点を当て、IFRSと日本基準との差異を中心に考察します。なお、本文中の意見に関わる部分は私見であり、また会計処理は個別の状況に応じて異なる可能性がある点をお断りします。

2.背景

一般的に海運企業が船舶を調達する方法としては、(1)自社で船舶を保有する方法と(2)他社で保有する船舶を用船する方法との2つがありますが、今回取り上げるのは(1)自社で船舶を保有する場合に限定します。(なお、(2)他社で保有する船舶を用船する場合については、今回の対象外ですが、国際会計基準審議会(IASB)で審議中のリース会計基準の改訂の結果により、大きな影響を受ける可能性があります。)
船舶の確保には多額の投資、資金調達を伴います。また、船舶の購入は複雑なプロセスを伴います。造船所に対する発注は竣工・引渡よりかなり前に行わなければならず、発注前の価格・引渡条件・設備の詳細などの交渉にも長期間を要する場合があります。
加えて、船舶は長期に使用されるため、5年に一度の定期点検及びその間に行われる中間検査が国内・国際ルールにより義務付けられるなど、その耐用年数にわたって重要な修繕及び構成部品の交換を要します。船主は、最も効率よい運航を保ちながら、このようなドライドック(海水を排出した状態で実施される検査)やその他の特別検査を行うように努力を払っています。
こうした船舶への投資及び維持管理には重要なビジネス上のリスクが内在しており、その成否が海運企業の長期的な収益性に大変大きな影響を与えます。よって、このようなリスクにどの程度さらされているかという点が財務諸表に適切に反映されていることが期待されています。

3.IFRSに基づく会計処理

3.1船舶の発注
上述のとおり、新造船の購入にあたっては、竣工・引渡までの期間を見込んで発注されるのが一般的であり、竣工引渡までに数年を要することがほとんどです。また通常は、発注時には船価を確定し、竣工引渡予定時期も定められます。
船舶の発注は、資産の購入に関するコミットメントであり、未だ負債計上されていない金額については財務諸表上で注記しなければならないため(IAS第1号 114項(d)(ⅰ))、現行の日本基準に基づく開示から追加されることになります。

3.2 竣工前の分割支払額に対する借入費用
多くの船舶の購入契約において、契約締結時、起工時、進水時など、竣工・引渡前の各段階において、分割で支払を求められます。日本基準において、借入費用は一定の条件のもとで固定資産の取得原価に算入することができるとされており、建造期間中の支払利息を船舶の取得原価に算入できる一方で期間費用として処理することも認められています。これに対して、IFRSにおいては適格資産の取得、建設又は生産に直接起因する借入費用を当該資産の取得原価の一部として資産化しなければならない、とされていて任意の規定ではなく、また適格資産については経営者が意図した使用又は販売が可能となるまでに相当の期間を要する資産と定義されているため、多くの場合は船舶取得に際して竣工前に支出した借入費用の資産化が必要になります(IAS第23号5項、8項)。

3.3 原価の配賦とコンポーネントへの分解
海運企業は、種々の国内・国際的な規制に従って、構成部品の取替や重要な修繕等を行いながら、船舶を使用していきます。IFRSでは、重要性のある各構成部分については、個別に減価償却しなければならないとされており、かつ耐用年数及び減価償却方法がほぼ同じものはグループ化することができるとされております(IAS第16 号43項、45項)。これは一般的にはコンポーネントアプローチと呼ばれています。したがって、IFRSに従った会計処理を行うためには、重要な構成部分を識別し、必要に応じて船舶の取得価額を耐用年数及び減価償却の方法に従ってグループ化します。また船舶の構成要素には、物理的な部品だけでなく、重要な修繕や定期検査等の費用も含まれます。なお、日本基準の実務で広く行われている将来の修繕費用を特別修繕引当金とし負債計上する方法は、IFRSでは認められていません(IAS第37号14項参照)。IFRSを適用している海運企業において、一般的には、ばら積み船、タンカー、コンテナ船といった主要な船舶の取得価額は、大きく次の2つに区分されることが多いようです。

1) 重要な検査ないしはドライドック費用
2) ドライドック等の見積費用を除いた船舶の取得価格

この会計処理を行うためには、船舶の取得時点で、初回のドライドックまでに消耗すると見込まれる部分と、その他の船体部分との2つに区分しておく必要があります。これらの金額は船舶の購入契約には一般的には明示されていないため、直近のドライドック費用の実績及び次回の予想額等を用いて見積ることが必要になります。また、多くの会社が船体部分からさらにエンジン等の主要部品を分解するといった手法をとっていないのは、船舶の場合、エンジン等を交換するのでなく修繕しながら使用し続けるという前提に立っているものと思われます。なお、日常的な保守費用を資産に含めて認識しないことは、日本基準と同様であり、それらは発生に応じて費用として認識されます。

3.4 耐用年数、残存価額、及び減価償却方法
船体部分の耐用年数について、日本において実務上は主として13年や15年といった税法基準の耐用年数が用いられていることが多いものと思われますが、IFRSを採用する会社では、資産が企業によって利用可能であると予想される期間 (IAS第16号6項)を見積もり、これを使用する必要があるため、日本の実務より長い25年程度の耐用年数を採用している会社が多いようです。また、残存価額についても日本の実務上は税法基準に従った残存価額が用いられていることが多いと思われますが、IFRSにおいては、耐用年数の終了時点で企業が当該資産を処分することにより現時点で得るであろう金額(処分費用の見積額を控除後)であり(IAS第16号6項)、通常は船舶に含まれる鉄のスクラップ価格を基礎として手数料の見込額等を控除して算出することになります。なお、船舶の取得当初から中古市場での売却を想定している企業においては、売却までの見込み期間を耐用年数とし、見積り売却価額を残存価額とする方法も見受けられます。また、ドライドック費用については、次回のドライドックまでの期間にわたって償却が行われます。ドライドック費用の残存価額について通常はゼロで設定し、次回のドライドック時までに全額償却するものと考えられます。耐用年数についても残存価額についても、少なくとも各事業年度末には再検討を行い、予測が以前の見積りと異なる場合には、将来に向かって変更していくことになります(IFRS第16号51項)。減価償却方法については、IFRSにおいては経済的便益が企業によって消費されると予測されるパターンを反映しなければならないものとされ(IAS第16号60項)、特定の減価償却方法を指定していませんが、実務的には多くの会社が定額法を選択しています。

3.5 中古船の取得
海運企業の多くは、新造船だけでなく中古船も購入することがあります。中古船の購入の際も取得原価の決定方法の基本的な考え方に相違はありませんが、発生する直接付随費用が異なるため留意が必要です。例えば中古船の購入の際に、査定や法務関連など専門家報酬が発生する場合が考えられます。IFRSにおいては、直接付随費用の例として専門家報酬が挙げられており、有形固定資産の取得原価には経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な状態にするための直接起因する費用を含むとされるので(IAS第16 号16項、17項)、専門家報酬は取得原価に含めることになります。ただし、ここでの専門家報酬は、あくまでも特定の資産に対応しなければならず、一般的な調査に要した費用等は該当しないと考えられます。

4.おわりに

今回は自社所有船についての会計処理、特に取得原価の決定と減価償却に焦点を当て、IFRSと日本基準との差異を中心に考察しました。我が国におけるIFRSの強制適用の議論の動向にかかわらず、グローバルなビジネス展開を求められる外航海運業においては、同じ市場に属する他国の海運企業の財政状態や経営成績を分析することも重要と思われますので、そうした際のご参考にしていただけますと幸いです。

以上

関連リンク

  • 航空・運輸向けサービス
    高度な業界ノウ・ハウや情報を蓄積し、また、航空・運輸業における課題の解決のために、適時に情報収集を行っています。デロイト トウシュ トーマツにおけるグローバルベースの知識・情報を活用し、海外の先行事例 のご紹介も行います。
  • IFRS/国際財務報告基準(国際会計基準)
    IFRS/国際財務報告基準(国際会計基準) に関する最新情報をまとめています。IFRSに関する国内外の動き、基準等の解説、雑誌への寄稿記事、書籍、セミナー情報など、IFRSに関する最新情報はこちらのページでご確認ください。
  • IFRSの動向
    IFRSの世界での動向に関する記事を一覧でご紹介しています。
  • トーマツからのIFRS関連記事
    トーマツ、デロイトが執筆・掲載した、IFRSに関する記事の更新情報です。