2011.02.28 日米欧の通信キャリアの会計処理-IFRS・USGAAPのもと、M&Aにより無形資産及びのれんがどのように計上されているか(上編)公開情報でここまでわかる情報通信業界(応用編) |
本稿は、日米欧の通信キャリアの無形資産及びのれんについて、上編・中編・下編の計3回に分けて連載する。上編では、日米欧の通信キャリアの無形資産の認識・測定方法と企業結合会計の適用状況について概観し、国際財務報告基準(以下IFRS)・米国会計原則(以下USGAAP)・日本基準の比較を行う。中編では、欧米通信キャリアのM&Aの会計処理、とりわけ無形資産及びのれんの計上状況を整理する。下編では、欧米通信キャリアの無形資産及びのれんの減損についての状況について整理する。本稿の意見や推定に関する部分は私見である。なお本稿は政策的な主張を意図していない。
調査の目的
企業結合会計や無形資産について、日本においてもIFRSとのコンバージェンスが図られ、今後改訂される予定である。そこでトーマツTMTインダストリーグループは、既にIFRSが適用されている欧州通信キャリア及びUSGAAPが適用されている米国通信キャリアの無形資産及びのれんの会計方針、ならびにそれら資産の減損会計の処理について調査した。
調査の方法
トーマツグループWebサイトに掲載している『開示情報からわかる情報通信業界』(以下、報告書)は、各社のアニュアル・レポートとニュース・リリースだけをベースに行った。
1.問題意識
(1) M&A:顕在化する企業価値と健全化する企業価値
一般的にM&Aに関連するIFRS・USGAAPという会計原則は、企業の潜在的な価値を、のれんや無形資産により顕在化させ、減損により健全化させる。
(2)顕在化する企業価値の再評価
欧米通信キャリアにおいてはM&Aによる成長戦略が推進された結果、M&Aに伴い計上したライセンス権等の無形資産が、市場で購入した無形資産に比べ大きくなっている。たとえば図表1は、ボーダフォンの直近3期ののれん及び無形資産の増加明細である。図表1によれば、のれんはM&Aにより計上、無形資産については市場購入及びM&Aにより計上されている。そして直近3期合計でみるとM&Aにより計上されている無形資産の金額の方が市場購入に比べ大きい。M&Aによる無形資産は、今後わが国の通信キャリアにおいても拡大する可能性があると思われる。
図表1 ボーダフォンののれん及び無形資産の増加明細(2008/3期~2010/3期の3期間)
単位:百万£
| のれん | 無形資産 | 合計 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2008年 3月期 |
2009年 3月期 |
2010年 3月期 |
2008年 3月期 |
2009年 3月期 |
2010年 3月期 |
||
| 市場購入 | ― | ― | ― | 1,034 | 2,282 | 1,524 | 4,840 |
| M&A | 4,316 | 613 | 1,185 | 3,309 | 398 | 3,211 | 13,032 |
出典:アニュアル・レポート(2008/3期~2010/3期)
(3)健全化する企業価値
IFRSやUSGAAPでは、のれんは毎期一定の時期、また非償却無形資産は毎期及び減損の兆候があるときに随時、償却資産は毎期末に減損テストを行い、一定要件を満たせば減損しなければならない。減損会計は、いわば「適切ではない額で評価されている無形資産」を、毎期または随時に、その時点において、適切な評価額に再評価する手続きといえる。言い換えれば、減損は、企業価値に含まれるのれんを健全化する手続きである。
(4)課題
M&Aによる顕在化した無形資産及びのれんをどのように管理していくか、経営上の管理も重要であり、減損会計に基づく減損処理テストのためにも、個別の事業性の評価などその管理方法を確立する必要がある。たとえば、欧米通信キャリアにおいて、無形資産について多額の減損処理がなされている。『通信政策による欧州キャリアの経営の成果への影響(2)-M&Aと周波数オークションにより株価がどのように影響したか(第1~5回)』で論じたように、周波数オークション(電波オークション)のライセンス料も減損処理が行われている。これは高騰した当該資産を適切な評価額で再評価する手続きである。今後、日本で周波数オークションが実施された場合、この減損処理テストで判断する実務的な管理方法をどのように構築するか、避けて通ることができない問題といえる。
2.企業結合会計の欧米日の通信キャリアの比較検討
2008年12月にIFRSとのコンバージェンスにおける企業結合のステップ1として、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」が改訂され、従来の「取得した資産に法律上の権利又は分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、取得原価を当該無形資産等に配分することができる」(企業結合に関する会計基準(旧) 三.2.(3))から、「受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う」(企業結合に関する会計基準(改正)第29項)に改正されたため、日本基準においても2010年4月以降、無形資産はのれんと区別して公正価値で計上されることとなった。
IFRSでは(1)将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高い、(2)取得原価を信頼性をもって測定できる、(3)無形資産の定義である識別可能要件(分離可能要件又は契約・法的要件)という3つの要件を満たしていれば、無形資産への計上が要求される(図表2参照)。
つまりM&Aにおいて、被取得企業にIFRSの無形資産の要件を満たすものがあれば、被取得企業の財務諸表に資産計上されていなくても、連結財務諸表上は無形資産を公正価値で評価して資産計上しなければならない。また、M&Aの取得価格と無形資産を含む識別可能な純資産の差額は、のれんに計上される。
さらに、計上された償却無形資産は毎期末に、非償却無形資産は毎期及び減損の兆候のある場合に、減損テストの実施が要求される(図表2参照)。
図表2 IFRSの無形資産の計上及び減損テストのイメージ図
| IFRSでは |
| 1. 将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高い 2. 取得原価を信頼性をもって測定できる 3. 識別可能要件(分離可能要件又は契約・法的要件) という3要件を満たしていれば無形資産の計上が要求される。 |
| 1. 市場購入 【例 周波数オークション】 |
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IFRSが定義する3要件 ⇒満たした場合 |
![]() |
無形資産に計上 (強制) |
| 2. M&A(*1) | ||||
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||||
| 減損テスト(*2) |
| (*1) | M&Aにおいて、被取得企業にIFRSの無形資産の要件を満たすものがあれば、被取得企業の財務諸表に資産計上されていなくても、連結財務諸表上は無形資産を公正価値で評価して資産計上しなければならない。 |
| (*2) | 非償却無形資産は毎期及び減損の兆候のある場合に、償却無形資産は毎期末に、それぞれ減損テストを実施しなければならない。 |
日本基準の改訂前と改訂後の無形資産及びのれんの計上方法の違いについて以下の図表3で簡単に図解する。改訂前の日本基準は、取得価格と被取得企業の識別可能純資産との差額はのれんに計上されるのに対し、改訂後は、IFRSと同様に、被取得企業が認識していなかった無形資産についても、受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱われ、公正価値で評価され、取得価格と被取得企業の識別可能純資産(当該無形資産含む)の差額はのれんに計上さる。
図表3 改訂前日本基準と改訂後日本基準の無形資産及びのれんの計上方法の違い

(注)パーチェス・プライス・アロケーション:M&Aにおける無形資産を含む識別可能資産とのれんとの配分計算のことをいう。
仕掛研究開発費の資産計上を含む日本基準の企業結合会計は、リストラ費用及び少数株主持分(非支配持分)の算定を除いて、2008年12月の改正で多くの部分でIFRSとの整合性が図られており、改正後の基準は2010年4月より強制適用になっている(図表4参照)。
正の「のれん」の償却等IFRSとの整合性が図られていない一部の日本基準の企業結合会計については、IFRSとのコンバージェンスのステップ2以降のスケジュールに従って整合性を図る予定となっている(図表5参照)。
企業結合のIFRSとUSGAAPの会計処理は、リストラ費用及び非支配持分の算定を除いてほぼ整合性がとられている(図表4~5参照)。
なお、2008年1月にIFRS第3号(企業結合)は、主に以下の項目が改訂された。(1)全部のれんを採用した場合、非支配持分を公正価値で評価し非支配持分に関するのれんも計上(従来は親会社に対応する部分のみのれん計上)、(2)取得関連費用は費用化(従来は取得原価へ含める)、(3)段階取得の際に従来から所有する持分を公正価値で評価(一括法、従来は段階法)、(4)条件付対価があれば取得日の公正価値で評価する(従来は偶発対価の発生の可能性が高く、かつその金額を信頼性をもって測定できる場合は企業結合の原価に含めていた)。
図表4 企業結合対比表(1)(IFRS/USGAAP/日本基準)
| 項目 | USGAAP (SFAS141(R)) |
IFRS3(R) | 日本基準 | |
|---|---|---|---|---|
| 改正前 | 改正後 | |||
| 企業結合会計基準の適用範囲 | 取得法 但し、共通支配下の取引は除く |
パーチェス法or持分プーリング法 | パーチェス法 但し、共同支配企業の形成及び共通支配下の取引は除く |
|
| 株式を取得の対価とする場合の当該対価の測定日 | 支配獲得日の公正価値(USGAAP 取得日の市場価格) | 原則として、その企業結合の主要条件が合意されて公表された日前の合理的な期間における株価を基礎に算定 | 原則として、企業結合日(又は事業分離日)における時価を基礎にして算定 | |
| 負ののれん | 発生時に利益計上 | 償却あり | 発生時に利益計上 | |
| 無形資産 | のれんとは区別して公正価値にて資産計上する | のれんと区別して資産計上できる | のれんとは区別して公正価値にて資産計上する | |
| 仕掛中の研究開発 | 一定要件を満たせば開発費はのれんとは区別して公正価値にて資産計上する | のれんと区別して配分した場合、費用処理する | のれんと区別して仕掛中の研究開発費は資産計上する。研究開発の完成後に費用化される | |
| リストラ費用 | 取得日の負債の定義を満たすもののみ認識 | フレームワークの負債の概念を満たせば負債として認識できる | 企業結合に係る特定負債として計上できる | 負債の定義を満たすものは原則認識。企業結合により将来に発生が予測される費用または損失について、取得原価の配分に際して負債(特定勘定)を認識することも、「できる」規定から原則に変更 |
| 非支配持分の算定(全部のれん方式の採用)(注) | 適用→ 公正価値で評価(全部のれん方式) |
選択適用→ (1)公正価値(全部のれん方式)…非支配持分ののれんを計上 (2)公正価値で評価された被取得企業の純資産に対する非支配持分割合(全面時価評価法)…非支配持分ののれんを計上せず |
選択適用→ (1)子会社の純資産のうち親会社の持分に相当する部分については株式の取得日ごとに当該日における公正評価額により評価し、少数株主持分に相当する部分については子会社の個別貸借対照表上の金額による方法(部分時価評価法) (2)子会社の純資産を、親会社持分に限らず、少数株主持分に相当する部分も含めて時価評価する。のれんは親会社持分のみが対象(全面時価評価法)。 |
全面時価評価法のみ採用 |
| 在外子会社株式の取得等により生じたのれんの会計処理 | 外国通貨で把握し、決算日の為替相場により換算する | 発生時の為替相場で換算 | 外国通貨で把握し、決算日の為替相場により換算する | |
| 段階取得(注) | 支配獲得日において、従来から保有した持分を公正価値で再測定し、差額を損益として計上 | 取得原価は、支配を獲得に至った個々の取引ごとの原価の合計額により算定。 | 支配獲得日において、従来から保有した持分を公正価値で再測定し、差額を損益として計上 | |
出典:「新版M&A無形資産評価の実務」(デロイトトーマツFAS編)に基づき著者作成。
(注)IFRS第3号「企業結合」は2008年1月に改訂され、2009年7月以降開始する事業年度から適用されている。
図表5 企業結合対比表(2)(IFRS/USGAAP/日本基準):日本基準の「企業結合」(ステップ2)で今後検討される項目
| 項目 | USGAAP(SFAS141(R)) | IFRS3(R) | 日本基準 |
|---|---|---|---|
| 正ののれんの償却 | 償却なし(減損の適用あり) | 償却あり(減損の適用あり) | |
| 条件付取得対価(注) | 取得日における公正価値で測定し、取得日において資本若しくは資産又は負債のいずれかに分類 | 交付又は引渡し確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で追加的に認識する。 | |
| 偶発負債 | 過去の事象によって生じた取得日における債務であり、かつ信頼性のある測定が可能な場合は認識し、公正価値で評価(USGAAP 測定可能な場合は公正価値で評価。測定できない場合は他の会計基準で認識。) | 引当金の要件を満たす場合は計上される | |
| 取得関連費用(注) | 発生時点の費用処理 | 取得原価に含められる(直接関連あるもののみ) | |
出典:「新版M&A無形資産評価の実務」(デロイトトーマツFAS編)に基づき著者作成。
(注)IFRS第3号「企業結合」は 2008年1月に改訂され、2009年7月以降開始する事業年度から適用されている。
3.無形資産の認識及び測定
(1)識別される無形資産
IFRSにおいては、認識の要件((1)将来の経済的便益がその企業に流入する可能性が高い、(2)資産の原価が信頼性をもって測定できる)に加えて、以下の識別可能要件としていずれかの要件を満たすものが無形資産として認識される。
契約・法的要件:契約または法律上の権利によって生じる資産
分離可能性要件:分離・分割が可能で、売却、譲渡、ライセンスの付与、賃貸または交換が可能な資産
自己創設無形資産は原則、資産計上できないが、一定の要件を満たした場合、開発から生じる無形資産は強制的に資産計上される。また、被取得企業の労働力については無形資産として認識すべきではないとされている。
通信キャリアにおいては、マーケティンング関連の商標権、顧客関連の顧客リスト、契約関連のライセンス権等が無形資産として識別されている。
図表6 識別される無形資産一覧
| マーケティング関連無形資産 | 商標、商号 | *1 |
|---|---|---|
| 役務標章、団体標章、証明標章 | *1 | |
| トレードドレス(独自の色・形、パッケージデザイン等) | *1 | |
| 新聞のマストヘッド | *1 | |
| インターネット・ドメイン名 | *1 | |
| 競業避止協定 | *1 | |
| 顧客関連無形資産 | 顧客リスト | *2 |
| 受注残 | *1 | |
| 顧客との契約および関連する顧客との関係 | *1 | |
| 契約に拠らない顧客との関係 | *2 | |
| 契約に基づく無形資産 | ライセンス、ロイヤルティ、スタンドスティル契約 | *1 |
| 広告、建設、管理、役務・商品納入契約 | *1 | |
| リース契約 | *1 | |
| 建設許可契約 | *1 | |
| フランチャイズ契約 | *1 | |
| 営業許可、放映権 | *1 | |
| 利用権(採掘、採水) | *1 | |
| サービサー契約(抵当回収契約等) | *1 | |
| 雇用契約 | *1 | |
| 技術に基づく無形資産 | 特許権を取得した技術 | *1 |
| ソフトウエア、マスクワーク | *1 | |
| 特許権申請中、未申請の技術 | *2 | |
| データベース | *2 | |
| 企業秘密(秘密の製法、工程等) | *1 |
出典:「新版M&A無形資産評価の実務」(デロイトトーマツFAS編)に基づき著者作成。
*1 契約・法的要件を満たす無形資産
*2 分離可能性要件を満たす無形資産
(2)無形資産の評価方法
無形資産の評価方法には大別して以下の3つの方法がある。
コストアプローチ
経済的な代替的原理に基づいて無形資産の価値を算定する方法。人的資産やソフトウエアを評価する際に用いられることが多い。機能的陳腐化・技術的陳腐化・経済的陳腐化等を把握し無形資産の価値の償却が必要となり、その際には無形資産の経過年数及び残存耐用年数の把握が重要となる。
マーケットアプローチ
類似した無形資産の取引価格から評価対象の無形資産の価値を類推する方法である。類似無形資産の取引を選定する際には、類似無形資産の経済的利益の生成能力、対象とするマーケット、過年度または予想利回り、予想残存耐用年数、取引の実行された時期、陳腐化の程度、特殊な取引条件等を考慮する。
インカムアプローチ
無形資産の価値を当該無形資産によって将来生み出される一連の経済的便益の現在価値の合計により計算する方法である。インカムアプローチには予想利益、予想期間、割引率の3つの計算要素がある。ブランドや顧客関連資産、技術を評価する際に用いられることが多い。通信キャリアにおいては、例えば商標権がインカムアプローチ、具体的にはロイヤルティ免除法で評価されているケースがあり、商標を所有しない場合にその使用について第三者へ支払うべきロイヤルティの現在価値に基づき商標権を評価している。
図表7 無形資産の測定方法
| コストアプローチ | マーケットアプローチ | インカムアプローチ |
|---|---|---|
|
|
|
出典:「新版M&A無形資産評価の実務」(デロイトトーマツFAS編)に基づき著者作成。
| 日米欧の通信キャリアの会計処理-IFRS・USGAAPのもと、M&Aにより無形資産及びのれんがどのように計上されているか(下編) | |
| 日米欧の通信キャリアの会計処理-IFRS・USGAAPのもと、M&Aにより無形資産及びのれんがどのように計上されているか(中編) |



