M&Aにおける企業結合会計の意義(2010.5.21) |
1. はじめに
会計基準の世界において、国際的な会計基準の統合に向けて、自国会計基準を国際会計基準に近づけるコンバージェンス、そして自国会計基準として国際会計基準を採用するアドプションの動きが進行している。
企業結合会計に関しても、日本において改訂が進められており、従来は、無形資産の認識は容認規定であったが、2010年4月1日からは、無形資産を認識することが原則となった。
したがって、買収取引においては、原則として、会計上、無形資産をより厳格に識別し、評価し、計上することとなる。また従来と同じく計上した無形資産やのれんは、減損テストを実施し、減損が認識された場合に損失を計上することが求められる。なお、のれんを償却する現在の日本の会計基準が国際会計基準や米国会計基準のように非償却になるか、という論点については今後の動向に留意する必要がある。
2. パーチェスプライスアロケーション
M&A取引における時価を会計上、資産、負債に配分する手続きはパーチェスプライスアロケーション(PPA)と呼ばれている。米国会計基準や国際会計基準を適用する国を中心に、PPAにおける会計処理のための無形資産の評価実務が発達してきた。この評価実務は企業評価と同様、インカムアプローチ、マーケットアプローチやコストアプローチにより行われており、無形資産の評価実務は日々進歩を遂げている。
3. パーチェス法と減損テスト
企業結合会計の特徴として、パーチェス法の採用とのれんの減損テストの実施が挙げられる。このパーチェス法とその後の減損テストは、M&Aの価額そのものを会計基準を通して財務諸表上に時価で計上し、その後、そのM&Aが成功であったか失敗であったかを、年度ごとに損失の有無という形で説明させる機能を有している。M&Aにおける価格説明機能とモニタリング機能ということができる。M&Aを実行時および事後的に定量的に説明する両輪になっているのである。

上記にM&Aと企業結合会計の流れを図示してみた。以下において、企業結合会計がM&Aにおいてどのような意味を持つのか考察してみよう。
4. M&Aにおける価格の説明機能
M&Aが経営の一つのツールとしてより頻繁に使用され、日常茶飯事の経営事象として捉えられることに伴い、M&Aを実行する理由や買収価格の妥当性に関する説明責任は高まっている。
したがって、M&Aにおいて、いったい何を獲得することを目的に行われるのか、またその価格はどのような考えを基礎に決定されたのか、あるいは、どのような有形無形の資産の獲得を目的に行われるのか、どのような将来的なメリットやシナジーを期待し、その上でなぜそのような価格を決定したのかを説明できることが必要になる。
パーチェス法はM&Aにおいて対象会社の何をいくらで購入したかをより明瞭に表現しており、会計処理を通して、買収価格を説明する役割を果たしているのである。このことは、M&Aにより価値創造を行うようプレッシャーを経営者に与えていることになる。
5. M&Aの成功と失敗
近年経営戦略の一つのツールとして定着してきたM&Aであるが、M&Aの成功と失敗について、定量的に分析することは困難である。M&Aの目標達成について、成功したと言えるだけの根拠を持つ会社は少ないと思われる。
M&Aにおいて、シナジー効果の具現や付加価値の創出は企業価値の増大を図るうえで重要な要素であり、今後シナジー効果や付加価値を実現するための施策とともにモニタリングの重要性も高まってくると思われる。これらの効果分析を会計処理手続を通して定量的に行う方法の一つが、無形資産やのれんの減損テストである。計上されたのれんは減損テストにより、毀損していないかテストしなければならないのである。このことは、M&Aにより支払った対価に相当する価値を創造しているか否かをチェックしていることに他ならない。
それでは、減損テストはM&Aの目標達成状況を定量的に分析できるというが、どのように行われるのであろうか。
一般に、買収価格は将来計画をベースにキャッシュ・フローを想定し、それを割引率というリスクファクターで現在価値に割り引いた価値をベースとしている。例えば、当初の目論見どおりにシナジー効果を具現できず、将来計画の下方修正を余儀なくされるケースを考えてみよう。下方修正した計画をベースとした将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くと当初想定した買収価格を下回る結果となり、したがって減損が必要になるかもしれない。このことは、M&Aで目論んだシナジー効果を発揮できなかったためM&Aがうまく機能しなかったことを意味することになる。
当初見込んだ目標の達成度合いを、実績と計画を比較することによりモニタリングできるが、さらに会計処理という透明で逃れようのないフィルターを通すことにより、その成功の是非を減損の有無という形で明示しているのである。したがって、減損テストはM&Aのモニタリングを会計処理にて明瞭に評価できるという点で有効なツールなのである。
6. バリュードライバー
ところで、先ほど、いったいどのような有形無形の資産を獲得することを目的にM&Aを行ったのか説明できることが必要であると述べた。この獲得すべき資産は、M&Aにおける価値創造のキーとなる要素でありバリュードライバーと呼ぶことができる。企業結合会計において無形資産を厳格に区分することは、どのようなバリュードライバーである無形の資産をいくらで獲得したのかを、事後的に会計処理という形で定量的に明示させる役割を担っている。
米国における企業結合会計は、M&Aにおける無形資産関連のバリュードライバーを整理するうえで非常に有用であるため、その整理の仕方をまず紹介することとする。
この会計基準では、のれんと区別して認識する無形資産を次の5タイプに類型分けしている。
- マーケティング関連
- 顧客関連
- 芸術関連
- 契約ベース
- 技術ベース
無形資産を認識することは、対象会社の無形の価値、買収における無形のバリュードライバーを会計上認識したことに他ならず、無形資産の買収価値に占める割合が増した昨今では、重要な意味を持つことになる。
以上
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